Turn2 B:3 W:3

ダイヤモンドフラッシュ

 その夜は暗闇を灯すいくつかの眩い光が美しい夜だった。今日の美しさの要因はこの夜だと、はっきりわかる。以前遭遇した少女のように意味不明の美しさではなかった。今夜は雲が支配することはなく、しっかりと月がその役割を果たしている。さすがに都会は明るすぎて満天の星を浴びることができるわけではないが、それでも反射が強い明るい星は瞬いているように見える澄んだ空の夜だった。



 そんなその夜に、相対組織と遭遇。互いに異能を使い、やり合っていた。


 場所はとある小学校。


 昼中勉学に励むために使用している机を二段に重ねたバリケードの裏に隠れながら、その空をちらりと見た。先ほどまで聞こえていた銃声が止んだと思ったら、隣に小さいのが息を整えながら座り込んだ。



「どうだ、戦況は」


「中々厳しいですね……。白の人たちが同じ事件を追っているなんて聞いていませんでしたし、しかもこの様子だとあの人たちも私たちと同じようなことを考えているかもしれませんね」


「そうだな。たぶんやりたいことだけを、この事件の結末だけを見たら俺たちと目的は一緒だろう。手段は違うだろうが、追っている問題は同じだ。それでもなお――」



 発砲音がした。俺は左側から敵の銃弾に向けてカードを投げる。ダイヤの四は赤色。そこそこの爆発で迎撃した。



「――こうして対立しているのはその先の望む結末が違うからだろうな。求めるもの、もたらす結果は等しく同じであっても、結末は違っているからだ」


 俺は隣でリロードを黙々と続けるミソノを援護するために数枚のカードを使用した。一人を裂傷させ、一人を爆傷させることに成功。それでも敵の数はその二倍以上増えており、続々と増援が送られてきていることが分かる。対してこちらにはその予定はない。俺らの組織はそこまで大きな軍隊ではない。どちらかと言えば少数精鋭の工作員ってところなのだが、やはり数に圧倒されやすいことが多い。どうしようもない。



「求める結果というのは彼女たちと俺たちが俺たちは優しい世界を創ることを目的とし、彼女たちは隠れた現実を引っ張り出して本当の世界を創ることが目的。ドッペルゲンガーの小学生を救いたい気持ちは同じでも、打つ手が違うんじゃあ同じ勝ちでも違う勝ちになるのは当然。どうしようもないよ」



 ミソノも両手にそれぞれ異なる充填を完了させた銃を手にしながら応戦している。初めのころに比べれば、リロードもだいぶこ馴れた様子だった。しかし、無制限の弾丸があるとはいえ、この様子じゃたとえこの場で勝利しても予定通りの遂行はほぼ無理だろう。だとしたら力を無駄に消費するよりも退くのが賢明である。


「はあ。私、どうもそこのところはまだ完全に理解しきれてないんですよね。お互い特殊能力持ってるんですし、やっていることは運命とか理不尽な人生をどうにかしようってことなんだから、さっさっと仲良くしてしまえばいいのに。こう、対立してばかりじゃあすぐに死んじゃいそうです。まったく、私まだ死にたくないですよ?」


「そうだな。それができれば苦労はしないな、ほんと」


 でも、それができないからこっちの世界でも、向こうの世界でも諍いが起こるんだ。宗教だの、考え方だの、伝統だのと言い訳に際限はないが、結局のところ人が見ていられる範囲なんてものは狭いってことさ。見えないものが怖いのは当然なのに、視界が狭いのが人間だ。主に自分のことが視界の範囲の半分以上は占めているだろう。見えないものが、知らないものがあると怖くなって暴挙に出るくせに、その視界はゼロ距離と来た。俺も含めて、まったく面倒な生き物だ。


「――カード・ポーカー」



 ダイヤが揃った。良いマークだ。



「よし、ミソノいったん退くぞ」


「どうやるんです? 今私の手元にはこのピースメーカーしかないわけで、これ以上の召喚は正直私が倒れます。それでも何とかなりそうです?」


「シビリアンとフロンティアか。いいよ、だいじょうぶだ。スタードのカードを使用する。俺がフラッシュを放つから、その隙に帰るぞ」



 ミソノの二丁はコルトの六連発シングルアクションアーミー。略称SAA、通称ピースメーカー。大きさから言ってきっと手にしているのはシビリアンとフロンティア。どちらも随分と古いシックスガンだが、最低限誘導ができるだろう。大丈夫、それでいい。



 俺の左手の合図で二丁は一回ずつ火を噴き、相手の注目を発砲音へとむける事に成功した。

 

「ダイヤモンドフラッシュ!」



 俺の五枚の赤いカードは等間隔で飛ばされて行き、赤白い光を放った。直後地面に置いておいたスタードの演算を刷り込んでおいたカードがその能力を発揮し始め、光が消えた時には俺たちはアジトの近くに立っていた。



「……何、今の?」


「俺の必殺技だ」


「もう少しまともなネーミングなかったの?」


「い、いいだろっ。ダイヤでフラッシュなんだ。分かりやすくていいじゃないか」



 ……おいおい。あれはそんなにもひどい名前だったか。俺のセンスは眉間に皺を寄せられるほどだったのか。しかし、まあ、俺はそういうのには疎いところがあるのは事実。こればっかりはどうしようもないのだよ。勘弁してくれ。




 今夜は事実上の任務失敗であるが、非常に分が悪かったのだ。マザーには戦略的撤退だったとでも報告しておこう。


「それで、これからどうするの? このままじゃあそこのマスは白ってことになるよ」

「ああ、わかってるよ。ミソノ。別にあきらめたわけじゃあない。そこに白を置くって言うんだったら、それをひっくり返してやればいいだけさ」


「具体的には?」


「少し遠いが、スタードの問題から攻めてみよう。今日は彼に助けられたのだから、借りを返すついでに手伝ってあげよう」

 

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