傍らから平たく言えば被害者
「こんにちは。本日より教育実習生としてお世話になります、
教育実習というのは普通母校を訪ねる物であり、それが定例となっているらしい。しかし、田舎出身の俺はすでに母校は統廃合にて消滅。よって、近くの学校でという俺の希望で、有数のお嬢様学校と呼び声が高い『私立
光園高校は以前、完全な女子高だったのだが、少し前に共学になっている。割合としては、依然として女子が多く八割三分位。残りが男子である。これも少子化の影響だろうか。
「先生はどこの大学ですか?」
「――キタノ大学です」
「え!? すごい! 頭いいんですね」
「彼女いますかー?」
「私、キタノ志望なんですけど、どれぐらい勉強しました?」
「趣味は何ですかー? 彼女いますかー?」
「――秘密です」
「どこら辺住んでるの?」
「――円山のあたりです」
「あっ、じゃあ、あそこのカフェ知ってます? 駅前なんですけど。帰りにいきましょー」
「ええ、足を運んだことはありませんが。普段は近所の珈琲屋によく通っています。あと、放課後は忙しいので、それはまた今度に」
「先生って落ち着いてるね。去年の先生なんて若さ丸出しだったのに。あと、彼女どんな人?」
「――想像にお任せします」
囲み取材の質問攻めを受け流しながら、クラスの生徒の名前を憶えていく。勿論事前にこのクラスの担任から最低限の情報は得ていたが、やはり人というのは実際に会ってみなければ分からない。彼女たちの特徴や興味関心のある事、質問の内容。その中でも一番大切なのは人間関係。誰と誰がよく一緒にいて、誰と接する時に表情を変えるのか。きちんと見て把握しなければいけない。
授業中。少し前までは俺も高校生であり、このように授業に対して悪口ばかり言って悪態をついていた気がする。柄にもなく懐かしさを覚えてしまったのは、すでに表の世界から身を引いてしまっているからかもしれない。果たして俺はこの事に関して、後悔はあるのだろうか
「ねえ、ちょっと。先生」
「――はい?」
星だった。授業中に見回りをしている担任ではなく、後ろの方にいた俺を一番後ろの席にいる彼女が声を掛けてきた。俺は一教師として彼女の席の元へ向かい、授業内で行われている課題の方に目をやった。正答率は七割弱ってところか。きっと分からない問いがあるのだとすれば、最後から二番目で、俺が教師ならば一番初めの問題は何か勘違いしていることを指摘しなければいけない。しかし、どうしてだか、なぜだなのだろうか彼女は頬を膨らませていた。それは自らの学のなさに辟易しているわけではなく、どうやら俺の勝手な行動に腹を立てているようだった。
「――なんで、ここにいるんですか」
「――教育実習として、勉強しに来ています」
「――そうじゃなくて、探偵の上野さんがなんでここにいるんですか」
「百聞一見にしかず、だからですよ」
俺は膨らみ続ける星を無理やりなだめて、目線を一番前の席へと向けた。
今回の依頼主の対象者であり、俺の一番の観察対象で、クラスのメンバーからも常に話題の中心にされている少女。
このように、慎重ながらも最速で手に入れた情報を統合すると、星が初めに話した話に間違いはないようだった。良くも悪くも、確かに美月の噂話が絶えることはなかった。初日の午前中プラス一時間でさえ、俺はそれを実感できたし、先ほど上がってきた報告書にはそれが連日のように続いているのだと書かれている。俺は話の内容に関しては気になり続けている本人と、綿密な調査を実行中の仲間に任せることにして、真意を探すために噂を話している彼女たちのその表情や動作に注意深さを向けた。しかし、それでも、それがなぜなのか、動機がなぜなのかについては未だ判別がついていない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます