第2話 初夏の帰り道

そろそろ制服の上着は要らないと思い始めた頃。


帰りの電車、なんとなく1つ前の駅で降りてみた。


偶然彼女に会うかもしれない。そんな考えが浮かんだ。

でももし、会ってしまったらなんて言おう?


「マ……マラソン大会のために体力作りで1駅歩こうかな?って」


とでも言おうか。


「なら走れよ」と自分で下手な言い訳にツッコミを入れる。


それ以前にマラソン大会は秋だ。

 

美味しそうなコロッケの匂いのする精肉店、お惣菜を売る店や何屋なのかも不明な外観の建物。そんな商店街を通り抜けたすぐの円柱のポストの横の路地の奥にヒーリングショップと書かれた看板が見えた。近づくと民家を改装したカフェのような作り。


扉に手をかけて引く……押し戸だった。カランッカランッとドアベルが鳴る。

 

店内は、色んな色のローソクや緑色じゃない線香、森や川の写真ジャケットのCD。店の奥からゆっくりと50代くらいと思われる女性。黒のロングスカートに白シャツに薄手深緑カーディガン。

僕からしたら……おばさんが出てきた。少し怖く感じたのもすぐになくなった。


それは思ったより明るめの高い声で


「いらっしゃい」


と言ったからだ。


とは言ってもイメージしていたのがかなり低めの声だったのでそう思えたのかもしれない。


2言目に


「何か悩みがあるんだね」


とおばさんは言った。


「えっ?」


と僕はなった。


「いやぁ、初めてのお客さんにはこう言うんだよ」


おばさんの決まり文句ようだ。


「男の子のお客さんは珍しいからね。女の子なら、食いつくんだけどね」


と笑いながら言った。   

 

悩みなのか、あながち間違ってはいない気もした。少し相談してみよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る