<第三章:竜狩り> 【03】

【03】


「おう。そこは優しくな。そっと抜くのだぞ。そっと」

 少し離れた所で、竜が瓦礫の山に座り込み。ふんぞり返っている。

 竜の治療をしているのは、治療寺院の面々。雨名の女神ジュマの信徒達。

 そして、竜の前には王とその娘が跪いていた。

「白鱗公エクスキュル・オル・ジェルミディア様。身を切るようなお勤め、民に代わり、厚く御礼申し上げます」

「畏まった挨拶など良い。貴様が心配しているのはこれだろう?」

 竜は不躾な態度でレムリア王を一蹴すると、翼の根元辺りに手を突っ込み、そこから宝石の小山を取り出す。

 僕の鑑定眼がオーバーフローした。

 あの宝石一つ一つが金貨100枚の価値だ。総額お幾ら万円?

「街の修繕費に回すが良いぞ」

「ははっ」

 レムリア王が深く頭を下げる。竜には見えなかったが、僕の角度だとニンマリしている王の顔が見えた。

 大通りの建物。全部新築に出来るな。

 ドレス姿のランシールが、メイドと共に宝箱に宝石を詰めて行く。

「しかし、レムリアよ。その娘は誰だ? 養子か? 新しい嫁か?」

「これは、我が娘ランシールめにございます」

 今のランシールは十四歳くらいだ。体格的にマリアと同じくらいまで成長している。

「は? いつから王の親族は縮むようになったのだ?」

「ガンメリーの霊薬により、一時的に若返りました」

「ガンメリー? 雷を放った鎧の者か。あれは少しピリっとしたな」

 あれをピリっで済ますのか。

 王様と竜はさて置き、ラナの様子を見る。

 彼女も、治療寺院の術師に手の治療を受けている。

「治りますか?」

「うーん、治る事には治りますが、前と同じように動くかといったら何とも」

 僕の質問に、若い女術師が難しそうな顔で答える。

 治療魔法を受けた後、ラナの両手は包帯でグルグル巻きになる。しばらくは日常生活にも支障が出そうだ。冒険など以ての外。

「あなた怒ってます?」

「………………怒ってないよ」

「怒ってますよね………………」

「まあ………………マリアと揃って後でお仕置きだ」

「は、はい」

 ラナは嬉しそうに頬を赤らめる。

 いや、何か勘違いしてないか? 僕、割と本気で怒っているのだが。あんな危ない事をして手をボロボロにして。

「お前も大概だぞ」

 治療を終えた親父さんに、ポカリと頭を殴られる。

「何だ。あの戦い方は?」

「え、何だといわれても」

 ミスラニカ様の教義により、成す事を成しただけだ。

 別におかしい事とは思わない。

「あれは冒険者の戦い方ではない。冒険者なら生き伸びる事を常に頭に入れろ。刺し違えてでも敵を倒そうなど、リーダーの行動としては愚の骨頂だ。死にたがりの冒険者など冗談ではないぞ」

「それは………」

 確かに親父さんのいう通りだ。

 命を賭けるのが冒険者だ。命を捨てるのは、狂戦士の戦い方だ。

「はい、すみません」

 反省を口にする。

 でもどこかに、素直に納得できない部分がある。空に投げた物が落ちて来るような、根本的な理屈として。親父さんの正論を飲み込めない自分がいる。

 こいつは、僕の趣味の問題なのだ。

「言葉だけでない事を祈る」

 お見通しの親父さんに苦笑いで応えた。

 所詮人間は、死んでも生き方は変えられない。三十年、ダンジョンを彷徨った人にはそれは分かっているはず。

「ラナ姫。こいつは、こういう奴だ。しっかり手綱は握っておけよ」

「はい、知っています。次はもっと早く駆け付けます」

「そういう事ではないのだが、揃ってやれやれな」

 そういえば、他の仲間が見当たらない。

 バーフル様も。

「親父さん、パーティの皆は?」

「今は人払い中だ。白鱗公が、こう“気さくな方”だと竜全体の問題になりかねない」

 何のこっちゃと思うと。

「きゃ!」

 治療術師の一人が僧衣の尻を押さえる。竜の腹を治療していた女性だ。グラマーで若い獣人である。

「カッカッカッ、すまん。ちと、手元が狂ってな」

 爪先で尻を触ったぞ。このセクハラ竜。

 そういえば、治療寺院の面々が若い女性しかいない。なるほど………好色ドラゴンか。

 あかん、僕の竜のイメージが全体的に崩れ落ちる。

「どうだ。こういう事だ」

「………はい。そういう事ですね」

 僕らの呆れ顔など知らず。竜と王が、他所の大陸の情勢を話し出す。

「エリュシオンは、もう駄目だな。話にならん」

 その竜の言葉には惹き付けられた。

「戦うよりも先に財宝を差し出しおった。勇んで戦おうという戦士は、あの都市にはもうおらん。そういう戦士を全て外に回さなければ、成り立たたん情勢だ。

 美しかった白亜の都市は糞尿で穢れ、陰鬱な雲が都市の空を覆っておる。

 相変わらず第一の英雄は姿を見せん。小民は痩せ衰え、豚貴族だけが丸々と太る。傑作なのが、法王とかいう為政者共だ。羽ばたき一つで全員がすっ転んで漏らしおった。どうだレムリアよ。攻め入って落として見ぬか? 一度だけなら背中を貸してやるぞ」

「ハッハッハ、ご冗談を白鱗公。我が王家はエリュシオンあっての事。それを斬り落とせば人の道理に外れます」

 竜の恐ろしい提案に王は笑って返す。

 顔は笑っているが、内心が笑っていない。

「さてどうかな? しばらく見ぬうちに精強になりおって。老いた強者が望む者は、いつの世も戦乱と死に花だ。汝<なれ>も、そうならぬとは―――――」

「お戯れを。白鱗公」

 王が真っ直ぐと竜を見つめて黙らせる。

 複雑な沈黙が流れて、話題が切り替わる。

「良いだろう、レムリア。しかし、これだけは覚えておくとよい。滅び行く者は、道連れを求めるのだ。大きければ大きいほど、沢山の道連れをな。滅びとはそういう病魔なのだ」

「竜の格言。胸に刻みます」

「その言葉、真なら良いが」

 何か、あっちでも似た様な会話が。

「さて――――――」

 竜が楊枝を持つように僕の刀を取り出す。

 少し前に、治療術師が引っこ抜いた物だ。

「これは何だ? おぞましい美しさだ。この世界の作りではあるまい」

「それは、ソーヤ。説明せよ」

 王様に呼ばれたので近づく。

 おぞましいか、どこかで似た感想を聞いたな。

 それは後として、王様の隣で竜に跪く。

「では、説明させて………王様、どこまでいって良いのですか?」

「全て説明せよ。竜に嘘は吐くな。今ここにいる者達にも口を閉ざすように王命を出している」

「そういう事なら」

 ありのまま全部話そう。

 例え、話が漏れても、それは王と王命を破った人間の責任だ。

「竜の遺骸を喰らった、成れの果ての爪です。それを軟金属で包み加工しました。意匠は、僕の故郷のカタナという刃物を模した物です」

「竜を喰らった。なるほど“古き者”の匂いがするはずだ。あの地を這う獣共め。どんな姿になっても忌々しいな」

 どういう事だ。

 左大陸の黒い狼と竜に何か因縁が? そもそも、万年寒い左大陸では竜はどうなっているのだ?

「しかし残念だ。こうも死臭がしては翼の宝物庫に入れられぬ」

 刀を返してもらった。

 変な気を起こされても困るので、さっさと鞘に収める。でもそういえば、

「一振り、あだッ」

 王に脇腹を殴られる。

 え、何?

「その女の爪というのは二つか?」

「はい、二爪を二振りの妖刀として加工しました。でも一振りだけ、だッ」

 また殴られた。

 ちょっと、マジで痛いのだが。何ですか?

「解せんな。ここに“三本”あるではないか。なあ、レムリア」

「………………」

 王は僕を、親の敵のような顔で睨む。

「なあ、レムリア」

「………………」

 二回目。

 あ、これ。催促しているのか?

「白鱗公………………お………お納めください。我が愛刀、ヴァルシーナでございます」

 断腸の思いで王は竜に刀を差し出す。

 王は刀に、死んだ愛人の名前を付けていた。本当に気に入っていたのだな。

 竜は器用に刀を鞘から抜くと、

「おほっほ~♪」

 嬉しそうに太陽にかざす。

「実に美しい金属の浮かびである。波のような輝きにして虹に似た色合い。鏡面のような磨きに、儚くも鋭い刃。数々の名剣を見てきたが、このような美しさと鋭さを兼ね備えた剣は初めて見た。うむ、白鱗公の名において新たな銘を与えよう。輝ける栄光オルゴン――――――」

「ヴァルシーナです。白鱗公」

 王が、竜を遮りいう。

「新たな銘を――――――」

「ヴァルシーナです!」

 どうやらそこは譲れない様子。

 まあ、愛刀を奪われて名前まで変えられたら堪ったものではないか。

「………よし、ヴァルシーナだな。ふっふ~♪」

 再び嬉しそうに眺める。

 何だろう。どこかの爬虫類系獣人と似たモノを感じる。もしかして彼女って竜の何か?

 ふと、隣から殺気を感じた。

(お・の・れ・ソ・ウ・ヤ)

 と、王の口が動く。

(また、ドワーフ呼んでくれれば作りますから!)

 マキナがね。

(誠だな! 絶対だぞ!)

 ああもう、面倒くさい。

 盗品の補償をしないといけないとは。

「刀を愛でるのは後の楽しみにしよう。良く戦った者達に褒美をやらねばな」

 意外。

 この竜、何かくれるのか。

「まず、雷槍を投げつけたガンメリーとその契約者に。雷光の如き輝石をやろう。パーティのリーダーは誰だ?」

「僕です」

「なら受け渡すが良い」

 竜は、小さい黄色の宝石を差し出す。

 瑠津子さんの報酬として僕が受け取る。これ………………金貨5枚くらいの価値だな。

 ちょっと期待外れだ。

「次は、結晶の槍を作り出した魔法使い共に。竜に隠し棘を使わせ、あまつ破壊するなど百年なかった事だ。この輝石をやろう。しかと別けるが良い」

 小粒のダイヤを9個渡された。

 まあ、一個金貨3枚くらいの価値かな。形もあんまり良くないし、カットしたら更に小さくなりそう。う………うん? 百年なかったにしては安くないかな?

「次に、翼を斬った剣士よ。前に来るがよい」

「はい」

 神妙な親父さんが前に出て跪く。

「久しいな、小僧。いつぞやのエルフの剣士はどうした?」

「メルムは冒険者を引退しました。今は王として森にいます」

「あれも中々の腕前であった。今の汝には負けるがな」

「ありがたきお言葉を」

 竜は古びた丸盾を取り出す。

 中心に片翼の竜が描かれていた。盾の縁は鋭利で刃物のよう。ん………これは何だ? ルミル鋼ではないと思う。普通の鋼とも違う。青みがかった不可思議な金属だ。

「これは、今は亡き青鱗公ウルトプルト・オル・ロージアン。その竜属騎士団・千人長の証たる蒼穹の底である。竜の翼に傷を付けた汝に、相応しい逸品である。剣士なれど、剣だけが生きる道にあらず。これが必要になる時も来よう」

 親父さんが盾を受け取り、

 一瞬だけ子供のような笑みを浮かべた。

「そして、もう片翼をへし折った獣頭の男は、どこだ?」

 王が代わりに答える。

「バーフル殿は、畏まった場が苦手でありまして」

「あんな者がレムリアに居たのか。はて、バーフルとな。懐かしい響きだが、どこで聞いたか。あの剛力、さぞかし名のある戦士と見るが。ま、こんな物で良いか」

 両手に余る鉱石を渡された。

 重っ、と反射的に思ったが軽い。………これ、もしかしてルミル鋼の原材料か? え、いきなり凄い金額来たな。テュテュのぼったくったツケ払ってもお釣りがくるぞ。

「次は、そこの豊満なエルフ」

「あ、はい」

 ラナも寄って来て僕の隣で跪く。

 手を負傷しているので肩を抱いて膝を着かせた。

「実に見事な拳であった。まるで、グラッドヴェインの―――――待て、汝はもしやグラッドヴェインの血族ではあるまいな?」

「いえ、違います。私はラウアリュナ。勘当された身ではありますがヒューレスの森の姫です。今日の御業は、私にもよく分からなくて。夫が炎に包まれてから意識がなく。気付いたら白鱗公様を殴り付けていました。恐らく、結晶槍を作るさい複合的に魔法を唱えた影響かと」

 ラナは嘘をいっていない。ただ、知らないだけだ。

 いつか真実を伝える時が来るだろう。上手いタイミングがあれば良いが、彼女だけの問題ではない。ヒューレスの氏族全ての問題だ。話すタイミングは難しい。

「エルフの姫にヒムの血が流れているなど、確かにあるまじき事だ。忘れよう。此度の奇跡は神の悪戯であろう。ん? 夫とは?」

「この方は私の夫です。伴侶です」

 ラナが僕を見る。

 照れる。

「変わっているのは姿だけではないのか」

 そして、この竜。

 気付いている気がする。気付いてあえて誤魔化しているのなら、やっぱりそれなりの人物なのか。それとも何かの打算なのか。

「まあ良いだろう。過去になかったわけではあるまい」

 竜は、またゴソゴソと翼の裏に手を突っ込み何かを探す。

「汝は、来年の降竜祭の参加を禁じる。女の手をそんな風にしては竜の沽券に関わる」

 殴り倒されたらの間違いでは? と、このツッコミは胸にしまっておこう。

 竜は、爪先にある物を引っ掛けて取り出す。

「これをやろう。かつてグラッドヴェインが身に着けていた。ヴェルスヴェイン伝統の女人装備。まさしく竜を殴打した女に相応しい防具である」

 ビキニアーマーだった。

 たぶん、ラナが着けたら僕は戦闘どころではなくなる。親父さんはともかく、年頃のシュナの前では目に毒だ。

 って。

 この竜、何でグラッドヴェイン様のそんな物を持っているのですかね? 下着泥とかじゃないよな? それなら、今から眷属呼び出して総出で討伐するぞ。

「あ、ありがとうございます」

 ラナの笑顔が引き攣っている。

 代わりに僕が受け取る。面積ちっさ。防御力皆無。これは絶対はみ出る。二人きりの時に是非身に着けてください。 

「さて」

 竜が改まる。

 よし、僕の番だ。

「そこのちんけな男」

「はい」

 いきなりの言い方。

「汝は、ネズミに殺すと凄まれたらどうする?」

「え? こ、困ります」

 意味は分からないが、想像して素直な感想を述べる。

「それが汝のした事よ。はしっこく走り回って、チクチク、チクチク、鬱陶しい。竜としてはネズミに凄まれ、本気で返すわけにもいかぬ。汝はこの降竜祭を理解していないのか?」

「どういう意図があるのでしょうか?」

 思わず聞いてみた。

「竜が国の繁栄を試すのだ。冬前の伝統行事であるぞ。汝はそんな事も知らぬのか? どこの田舎からやって来た?」

「実は、異邦人でして」

「知るかアホが、物を知らぬにも程がある。度し難いアホめ」

 誰かいえよ。僕に。

 最悪の独り相撲だよ。今回はガチで死にかけたぞ。

 あと、ラナ落ち着いてね。竜殴ってた時の目つきになっているよ。これ以上、手を怪我されたら困る。

「姑息な魔剣と剣技はマイナス評価だ。しかし、竜の炎を完全に防いだ事は評価しよう」

「あれは、魚人の友のおかげです」

「魚人。なるほど、そうか」

 竜はペリっと自らの鱗を一枚剥がす。竜の鱗は一枚10㎝ほどの大きさだ。それをペシンと僕の顔に投げつけた。頬に貼り付いて血生臭い。

 何か、すげぇムカつく。

「それは汝に渡すのではない。その魚人に渡せ。『汝の水を生む加護、実に見事であった。これは賞賛の証である。竜の鱗はあらゆる熱から汝を守るであろう』と言付けを忘れるなよ」

「確かに」

 壊れたネックレス、この鱗で許してもらえるかな?

 竜は、今一度僕らの顔を見回す。

「レムリアよ。今年も新しい冒険者の血が入ったようだな」

「はい、また国が繁栄するでしょう」

「良き事だ。エリュシオンの陰りに負けぬようにな。これ以上、見回る国が減ってはつまらぬ」

「肝に銘じます」

「では、降竜祭の締めと行こう」

 竜は二つの足で立ち上がると天を仰ぐ。

 如何なる奇跡なのか、大気が唸り、蒼穹の空に雲が呼び寄せられた。

 天候を操作するのか、この竜。

 そりゃ王が跪くはずだ。やろうと思えば、人の国など簡単に滅ぼせるぞ。

「これより四十五日。この国に冬が訪れる。これは繁栄の暇<いとま>である。だが、明けぬ季節は無く。永劫に続く栄華もなし。ならばこそ、新たな芽吹き感謝せよ。汝らの働きにより、安寧の春は約束された。息を潜め、次の季節を待つがよい」

 竜の体が白炎に包まれた。

 傷の治療痕すら幻のように消え去る。そこに不滅の生命を見た。

 どうやら、僕らとの戦いは戯れだったようだ。いや、人と触れ合う事が竜の戯れなのだろう。

「また、会おうレムリア。汝の精強を祈る」

「白鱗公も息災で、また次の季節に」

「竜の威光に揺らぎはない」

 最後に取り戻したけど、結構揺らいでいたぞ。

 翼の力強い羽ばたきに風が巻き起こる。

 周囲の瓦礫を吹っ飛ばし、竜は一気に高く高く上昇した。雷のような轟音が鳴り響く。音速を超える際の衝撃波、マッハコーンを纏い竜は遥か上空に。

 別れの最後に空に炎を放つ。

 曇天に白くも赤い爆炎が広がる。それはまるで、花火のようだ。

 炎はすぐ消え、鳴き声と共に竜は飛び去る。

 街に静寂が訪れた。

「皆の者。此度の降竜祭、実に見事であった」

 人の王が僕らを見回し労う。

「特に、ラウアリュナ姫。魔法使いの身でありながら、竜を殴り飛ばすなど前代未聞の珍事であり、レムリアに語り継がれる栄誉である。吟遊詩人を呼ぶので詳細を語ってやるのだ」

「………はい」

 ラナは、あんまり嬉しそうではない。

 彼女は褒められるのが苦手だ。照れ屋さんなのだ。顔を真っ赤にしている彼女を見るのも、至福なのだ。

「他の冒険者も、余すことなく見事であった。後日組合に顔を出すがよい。報酬が得られるであろう」

 よし、翔光符ください。沢山!

 次は忘れないようすぐ催促しないと。

「メディム。その盾を見せよ」

「見るだけだぞ? やらんからな」

「………ちっ」

 がめつい王様だ。この王にして、あの竜ありだ。

「ソーヤ! よく頑張りました! ついでにラナも!」

「あ、ども」

 ランシールにしがみつかれ、登られ、頭を撫でられ、頬ずりされる。まだ彼女の方が年下に見える姿だ。複雑だが悪い気はしない。

 ………僕の性癖。順調に歪んでいる。大体、異世界の女性のせいである。

「ふむ、積もる前に大工総出で街を直さんとな」

 王の言葉通り。空から白い雪が振り始める。心なしか空気が冷たく感じた。

 レムリアに、冬が訪れたのだ。


 こうして、命を賭けた竜との交流は終わった。

 残すは、他所の女性との結婚とデートである。人集めに必死で気付かなかったが………………色々と最悪だ。

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