<終章>


<終章>


 これが結局、どんな話だったかというと。

 男が女の為に一つの契約を破棄し、だが女と仲間の為にその契約を取り戻した。

 情けない独り相撲の話。

 色々な陰謀や、世界の謀に巻き込まれているが、結局の所、男にはどうだって良い事だ。

 男は俗物である。

 安っぽい感情で突っ走り失敗しては、落ち込み、叩かれ、その度に鍛えられて強くなった。

 運が良かっただけの小物だ。

 矜持が借り物なら、強さも偽物、しかし志半ばに倒れた仲間から継いだ想いがある。忘れていた想いがあったのだ。

 彼は、不可能はないといった。

 どこまでも名声を高められると。

 彼の今際の言葉は、死に濁り届かなかった。


“本当は、自分は、姉の事より。お前達の方が大事だった。だから――――”


 今更そんな言葉を予想するのは、男の我儘な夢だろう。

 彼には、夢があった。仲間があった。命を賭ける矜持があった。きっとその先の、富と名声も。だが彼は死に、男は生き残った。

 生きるという事は継ぐ事だ。

 これからもずっと、死を継ぎ想いを集め生きて行く。

 彼と共に、肩を並べ戦うという幻想。

 時折浮かぶ、最早遠い憧憬に似た想いが、そこに。


 僕は、履きなれた鉄板入りのブーツに足を通すと、まだ馴染まない軽金の装甲を野戦服の上に装着して行く。手甲と脛当て胸当て、動きを阻害しない最低限の軽装である。

 鞘を縫い合わせたベルトをたすき掛けにして、赤色の魔剣と銀色の名剣を背に、腰に故郷の面影を挿す。

 最後に、いつものポンチョを羽織り。再生点の容器と魚人のネックレスを首に下げる。

 テントを出ると、弓を持ち黒い外套を羽織った妹と、杖を携えた白いローブ姿の妻が。

 帰りを待つ者に『いってらっしゃい』と声をかけられ『いってきます』と僕らは返す。

 並び、草原に向かって歩き出す。

 その先、々の尖塔に。


 僕には、旅の理由がある。

 困難だが敗者の道ではない。昨日まで立ち止まっていたから、今日から進む。いつか、全ての困難を冗談と笑う為に。


 僕には、仲間がいる。

 それだけに僕は、今日ダンジョンに潜る。



<終わり>

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