<第二章:囚われの冒険者>3
薄暗い空間、石壁に石畳、三人も並ぶと一杯になる狭い通路。今までと代わり映えのしない光景だ。
しかし、敵は確実に強くなっている。なのだが、こんな楽な冒険は最初で最後だろう。
RPGなどで強キャラが限定加入するが、今回はまさしくそれだ。
親父さんは強かった。十五階層から十七階層で出会った敵、全てを一撃で倒した。
単純に膂力が高い。剣線も素早い。老練な技の数々を持っている。
ロングソードが敵をバターのように刺し貫き、両断する。モンスターの急所を熟知していないとできない技だ。
力の配分が上手いので、スタミナも再生点の消費も少ない。
『伊達に長く、こいつらと戦っているわけではない』
というのが、本人の談。
普段の僕らの冒険なら二回は休憩を挟むが、親父さんはまだまだ余裕だ。
彼が活躍しているので、他のメンバーの疲労も少ない。リズやギャスラークさん、ラザリッサ、ラナは、実質移動しているだけである。
フレイの魔法も非常に助かった。
モンスターが親父さんに届く前に、最低でも半分は消す。
火力のコントロールが素晴らしい。範囲は極小だが威力は絶大。フレイ・オリジナルのダンジョン用魔法だそうな。しかも彼女は、エルフ並みの魔力容量でヒームの回復力を持つ。
勇者の称号は伊達ではないようだ。
いつもより無表情なラナは、かなり苛立っているのだろう。
パーティで消耗しているのは僕くらいだ。
今回の僕の仕事は、索敵と誘導に分断。
まず、敵を発見したらターゲッティングしてエアと情報を共有する。
安易に攻撃はしない。
矢の一つや二つで、即死させられるようなモンスターはここにはいない。手負いのモンスターは通常のそれより危険だ。仲間を呼ぶ種類なら、行列が出来てしまう。
狭い通路に大量のモンスター。
こうなると冒険者の実力も何もない。圧し潰されるだけだ。索敵担当が一番やってはいけない事だろう。慎重に敵の特性を読む必要がある。ただ今回はその情報すら揃っている。
索敵と通常のモンスターの誘導は楽だった。
消耗の原因は、分断作業にある。
十六階層と十七階層に渡り、厄介な敵がいた。
セットの敵。共生モンスターというやつだ。
チョチョの群体と、カエル頭のモンスター。
チョチョは、卵型の体に羽を生やしたモンスターだ。人頭に擬態するのが特徴で、鋭い牙を持つが、一匹程度では雑魚中の雑魚。それがブドウの房のように並び連なっている。
一房、平均九体。
数が揃うと雑魚でも強い。
これを、カエル頭のモンスターが提灯<ちょうちん>のように持って移動している。カエル頭は、ずんぐりとした体付きで手が異常に長い。細い腕に見えるが、群体を片手で持っている事から、モンスターらしい怪力だろう。
手足は鈍いが伸ばす舌は素早く、それで冒険者の武器を奪いに来る。気を抜けば頭も奪われ、チョチョの群体と並べられる。
カエル頭は、一定ルートを巡回するモンスターだ。
親父さんの記したルート上にエアと待ち構え、挟撃で矢を放つ。
エアは群体チョチョを持つ手を、僕はカエル頭の足を射抜く。
床に落ちたチョチョは一度広がるが、再び集合してエアに牙を剝く。十六階層以上のチョチョは集合する癖があるのだ。
エアがチョチョを誘導してパーティに向かう。
その間、僕はカエル頭の注意を引く。
これが神経と体力両方を削る。
舌の射程距離は15メートル以上。素早く、常に角に隠れないと頭を持っていかれる。アガチオンで防ごうとも考えたが、奪われても面倒だ。呼んだら戻って来るだろうけど、下手なダメージは予想外の行動に繋がる。
射抜こうにも脳の位置が不明。体格に対して小さい可能性も高い。
下手な欲は出さず、慎重に対応する。
角に隠れ舌を避け、足音を捉えたら一瞬姿を現し、舌を誘発させる。
このカエル頭、舌の攻撃は移動と同時に行わない。狙って、放つ、というプロセスを必ず踏んでくる。
といっても、僕には敵の攻撃は必殺だ。銃弾の傍に自ら体を寄せるのは神経が削れる。この緊張感は体力も奪う。
パーティから、チョチョを倒した連絡を受ける。
カエル頭をパーティに誘導する番だ。メガネの液晶に順路とガイドアローを表示させて、ジグザグに移動。気を引きながら、舌も警戒してダッシュする。
誘導中の会敵もある。非常に危険だ。
羽の生えた蛇が壁から現れる。
こいつは獲物の体温に反応するので、見つかったら逃げようがない。上の階より小型だが、神経毒を持っているので一噛みで動けなくなる。
迫るカエル頭を警戒しつつ、矢の二撃で蛇を殺す。
この蛇、尾にも頭がある。しっかり二矢で急所を潰す。縫い止める事も考えたが、カエル頭がこの蛇を嫌がるので、誘導が切れる。確実に倒す。
合流した妹のサポートを受け、カエル頭を無事パーティまで誘導する。
角近くにパーティがいるなら、親父さんが。
直線に近い通路なら、フレイが。
剣と、魔法で、カエル頭を一撃で倒した。
共生モンスターは、必ず分断して戦う。親父さんの地図に、大きく書かれた注意書きだ。
ラナかフレイに、魔法でまとめて倒してもらう事も考えたが、これを行うと必ず、どちらかが、どちらかを庇う。
残った方が予想のできない行動を行う。
チョチョが残った場合、分離してパーティ全体を襲う。
乱戦になる。
モンスターというのは、基本的に大きな音を立てる者を優先的に狙う。盾を持った前衛は、仕掛けや声で敵の気を引き。後衛を守るのだ。
残ったチョチョは、その原則を無視してくる。
カエル頭はさらに厄介で、パーティから武器やアイテムを舌で盗み、逃げる。しかも妙に速い。
しっかり分断する必要がある。分断さえすれば楽に倒せるモンスターだ。
チョチョとカエル頭の誘導は、妹と交互に行った。
同じ仕事しているエアは、まだまだ余裕である。
彼女が行っていた猪狩り。最低でも二日は不眠不休で矢を射続ける。固い外皮を重い狩猟矢で削り、出血させて弱らせて殺す。
東の森にいる猪は、ダンジョン豚より遥かにタフで大きい種だ。生半可な魔法などかすり傷にもならない。剣や槍で倒すには英雄の技がいる。故に、伝統的ではあるが、かなり過酷な手段で倒すしかない。
妹は、これを何度も乗り切った狩人だ。
僕なんかとは基礎が違う。
「雪風、例の奴をくれ」
割と限界である。再生点も体力の消耗でゼロになっていた。
『ソーヤ隊員。あれは非常時や負傷時の緊急手段であり、安易に使用するのは危険であります』
「今回きりにする。今は良い流れだ。止めたくない」
『メディム様に提案するであります』
「あ、コラっ」
雪風が勝手にパーティと通信をする。
『急に失礼するであります。雪風は、パーティの皆様を補助する。広域戦闘プログラム・アドバンスドイゾラ・雪風改であります。呼称は雪風、でお願いするであります。皆様に報告があります。ソーヤ隊員がヘトヘトへーなので、休憩を要請するであります』
「おい」
命令無視に勝手な行動。
最初から人間味が強い奴らだったが、最近は度を越している。フェイルセーフの破損を原因とした学習上限の解除。こいつらは、常に自己改修を行っている。最終的に何に行き着くのか不安しかない。現代世界なら即メーカーサポートものだ。
「お兄ちゃん、大丈夫? 顔色悪いよ」
傍に寄って来た妹に心配された。
「大丈夫だ。まだ行ける」
『おい、ソーヤ。近くに水場がある休憩にするぞ』
「………………はい」
親父さんからの通信。気を使われたみたいで癪だ。液晶の地図に、水場までの順路が表示される。
「お兄ちゃん、これ便利だよね」
妹がメガネを弄っていた。
「でも、便利過ぎて感覚が鈍りそう」
一理ある。だが、このサポートがなくなったら僕は冒険者として下の下だ。
警戒しながら、妹と共にパーティに合流。
「あなた、お疲れ様です」
「あ、いや………」
ラナの声にギクシャクと対応してしまった。彼女が目を伏せる。微妙な空気である。
「おい、行くぞ。ソーヤとエア姫は、シュナの後ろに就け」
「はーい」
「了解」
親父さんの命令に従ってその位置に。
ぞろぞろと移動を開始する。フレイがラナに、取り留めのない話題を振っているが無視されていた。
「これやるー」
「あ、ども」
ギャスラークさんに木の実を貰った。無心で口に入れる。
酸い。
滅茶苦茶、酸っぱい。レモン100個分くらいの酸っぱさだろうか。刺激が強すぎるので、水筒の水と共に飲み干した。
「アタシも欲しい」
「あいよー」
「すっぱ!」
妹も同じ反応だった。
あ、ちょっと疲労感が楽になった。これクエン酸の塊か? 異世界の梅干し的なもの?
「もっとないの?」
「ないー」
妹は欲どしくねだる。
表示された水場の位置は、設定した最短ルートを少し外れた。
現在、ダンジョンに潜り始めて4時間。
二階層と半分を、たった4時間で。この調子で行けば休憩を挟んだとしても、夜には帰れる計算になる。
日帰りダンジョン。
優秀な冒険者と、網羅した地図がなければできない事だ。
楽過ぎて次が怖い。次があれば、だが。
「む、変な所にいるな」
親父さんが声を上げる。パーティに合図して足を止めさせた。周囲の壁や石畳に苔が生えている。水源が近い証拠である。
親父さんと二人で先を見る。通路の終わりに、明るく開けた空間。
中央に噴水。
澄んだ水が床の浅い水路を流れ、緑が絨毯のように敷き詰められていた。壁には翔光石を利用した照明が設置されている。
朽ちて蔦が這っているが、ロココ調の趣<おもむき>だ。ここだけ明らかにズレている。文明というか、空間ごと。それに、どういう構造で水を引っ張っているのか、この辺りは考えるだけ無駄な事だろう。
「こいつは面倒だな」
カエル頭が噴水の傍にいる。
ダンジョンのモンスターは多くが明かりを嫌うのだが、このカエル頭は両目が潰れていた。
更に問題なのが手にしたチョチョの群体だ。
チョチョは、明かりに向かって襲い掛かる習性がある。今一、生態が分からないチョチョだが、暗室に入れると大人しくなり、明かりに晒すと痩せて萎み、凶暴化する。
噴水のカエル頭が手にしたチョチョは、全てが萎んで凶暴化していた。カチカチと苛立って歯を鳴らしている。
「親父さん、どうします?」
僕にはスルーする以外案がない。
「んむ、次の階層で休むのも良いが。ここに居座られては他の冒険者が困る。殺るぞ」
上の冒険者が持つ責任感だ。
「で、どういう手が?」
「俺が食われたら、その隙にお前らは次の階層に行け。見捨てろ」
つまり、自分一人でやるという案だ。
じゃ見せてもらおう。格上の冒険者というものを。
親父さんが一人で前に出る。
ロングソードは腰の鞘に、丸盾をフリスビーのように構える。
普通のカエル頭は視覚で探知してくる。だが視覚のないこいつは、恐らく聴覚での探知。
それを確認する為に、親父さんが適当な石を投げる。
噴水に当たった石をカエルが舌を伸ばして捉えた。
さっきの奴らより、数段舌の動きが速い。残像しか見えなかった。
ただ、それより速かったのは親父さんだ。
丸盾を投げていた。
残像すら見えなかった。
鉄が肉に刺さる音。血がしぶく。
ざっくりとカエルの口半分を切り裂いて盾がめり込んでいる。
舌は封じられた。
チョチョがカエルの手元から離れ、親父さんに向かう。
「後学の為に教えておいてやろう。こういう群体を形成している奴らには、必ず“目”を担当している奴がいる」
ナイフを一本取り出す。
銀の一閃。
矢より鋭く一匹のチョチョを貫く。
群体が解けて、チョチョが床に転がった。
「で、それを潰されると一時的に止まる」
ロングソードを引き抜いて、草でも刈るように振るう。あっさり、飢えたチョチョが全て斬り倒された。
カエルが、鞭のように長い腕を振るう。
剣の一振りが両腕を断った。
とても簡単な事に見えた。
人間、理解できない現象は脳が簡略化して処理してしまう。
親父さんは普通に歩き、カエルに近づき、ぐさりとカエルの頭を突き刺す。剣を引き抜き、駄目押しに頭を刺す。
ナイフと盾を回収する。
「終わったぞ」
ええ。
普通に倒したよ、この人。
「ソーヤ、死体の処理しろ。後、飯の用意。俺は周囲に簡単な罠を張る」
「あ、はい」
凄すぎて全然理解できなかった。次元が違う。
パーティを呼び出して皆を休憩させる。飯の準備は妹に任せた。
僕は、死体を通路に集めて油で焼く。なんか、結構良い匂いがする。カエル肉って食えそうだが、
「そいつ毒あるぞ。後、痩せたチョチョは骨と皮で食う所がない」
警戒から戻って来た親父さんに釘を刺される。
「カエルって、毒はどこに蓄積しているので?」
「確か、目の後ろ辺りにある穴に毒を溜めている」
「それって捕食を防ぐ為の毒ですよね?」
「そうだな。こいつ自体、毒を攻撃手段として使用していない」
「では、手足は食べられるのでは?」
「お前………モンスターには変わりないが、二足歩行の生き物を食うのか?」
「ニワトリだって二足歩行ですよね。後、鶏卵も結構な頻度で食べてますよね」
「卵は別だ。足がないだろ」
この異世界、二足歩行の生き物は食べない習慣がある。ニワトリがいるのに、あまり食されないのはそんな理由だ。
商会で売っている鶏卵も、ゲテモノ扱いで結構驚いた。王様も食べるゲテモノ商品だが。
「で、ソーヤ。お前食うのか、カエルの手足?」
「またの機会にします」
今日は急いでいるし、僕も疲労を抜かないといけない。
広場に戻ると、大きいシートを広げて皆が腰を下ろしている。
彼らの前には鼠色のパックが置いてあった。九個全てが膨らんで蒸気を吹き出している。
「なんじゃこりゃ」
親父さんと同じように、パーティの皆も怪訝な顔をしていた。食べた事のある妹は、渾身のドヤ顔である。
防衛軍の戦闘糧食。
水を注ぐだけで薬剤が発熱して中のレトルトパックを温める。こんな物に頼る事になるとは、非常時とはいえ屈辱だ。
僕と親父さんも腰を下ろす。
座ると疲労が一気に襲ってくる。思ったより消耗していた。変に親父さんに意識し過ぎている。
ピピッとタイマー音。
腕時計を止め、妹はしたり顔で話す。
「フッフ~ン、これはね。水を入れるだけで温かいご飯が食べられる凄い物なのよ。後100個もない貴重な食べ物なんだから、ありがたく食べなさいよね」
僕の物は、妹の物でもあるそうだ。
「アタシがやり方を見せるから真似して」
エアがパックを開けてお湯を捨てる。
熱がりながら中のパックを取り出す。ご飯パック二つと、ハンバーグカレーと生姜焼きだ。
「ご飯は上の蓋を剥がして、封を開けたこのおかずをかける。後はスプーンで食べる! 以上」
妹は、ハンバーグカレーをかけてさっそく搔き込む。
パーティの皆も続いて食べ出す。
「本当に温かい。豚肉美味しいわ。これ………魔法で再現できないかしら?」
「お嬢様、是非そうしましょう。そして売りに出せば一攫千金です」
勇者とメイドは黒い顔で飯を食べていた。
ギャスラークさんは背を向けて食べている。
「オレ、毎回これでもいいぞ」
「………………」
「………………」
シュナはご機嫌で食す。ラナとリズは無言で食べる。
「ううーん。美味しいは美味しいけど、コクと辛味が足りない」
「お前、ちょっとしたカレー博士だな」
妹は、興味のある事には学習能力が高い。うどん作りとカレー作りは中々の物だ。この調子でレパートリーを増やしてくれると嬉しい。
「そうよ。でもランシール以外、辛いのが駄目だからアタシ苦労しているんだからね。辛味だってしっかり混ぜて合わせた方が美味しいのに、いちいち別個でかけているのだから。あ、辛味スパイスを作る過程で、七味再現できたよ。まさか麻薬の実が決めてとはね」
「お前凄いな」
麻薬の実って、あ、芥子の実か?
「次は、うどん用の出汁作りに挑戦するから。お兄ちゃんが持って来た粒状のアレ、便利なんだけど素材から抽出した方が風味あるよね。ゲトに海藻頼んであるから、帰った時にはキャンプ地にあると思うよ。それと干した小魚も加工するから」
「お前、本当に凄いな」
ちょっと前まで、インスタントラーメンにお湯入れるのもタドタドしかったのに。何という成長率だ。
「おい、ソーヤ」
「どうですか、親父さん。口に合いますか?」
妹と話すのに夢中で忘れていた。
「お前、いらなそうだから一つ食べてやったぞ」
親父さんは飯を食うのが速かった。もう自分の分を片して、僕のご飯一つにカレーをかけて食べている。
「あんた、この野郎」
文句いっていると残った分も食べられそうなので、ご飯に生姜焼きをかけて食べる。
甘辛いタレが絡んだ豚肉と白菜。これに米。
疲れた体に浸みるカロリーだ。
どんなに落ち込んでいても、疲れていても、お米を食べれば元気になるのだ。僕は。
「メディム、これカレーにかける? 美味しいよ」
妹が悪そうな顔で特製辛味スパイスを取り出す。
「おう、頼む」
親父さんは気にせず、カレーを差し出した。
一度犠牲になっているシュナが嫌そうな顔を浮かべる。
パッパッとエアの小瓶から赤い粉末が落ち、親父さんはガツガツとカレーを食べる。
「ん、おう。中々」
顔は平静だが額から汗が流れている。
エア、お前のスパイス。実は僕も持っているんだ。モンスターの目潰しに使えるから。
「どう? 美味しいでしょ」
妹は極上の笑顔で親父さんに訊ねる。確信犯です。
「うむ、まあ、まあ、だ」
カレーを一気食いして、水筒の水を一気飲み。顔が真っ赤になっていた。ヒームには早すぎるスパイスだ。同じエルフのラナも悲鳴を上げたけどね。
食事を終えて、ラザリッサがお茶を入れてくれる。
良い香りだ。味は分からないが落ち着く。
「ラナ、フレイ様。これを」
魔法使い二人に甘い乾パンの袋を渡す。スポイト容器に入った杏子ジャム付き。
「ラナはこれで魔力が回復したのだが、フレイ様にも」
「あら、お菓子? 気の利いたお茶請けだ事」
「ありがとうございます。でも、私は消耗していませんので」
「ならボクがもらう」
ラナに返された乾パンを、リズに奪われた。
「いや、リズ。お前ほぼ無限の魔力が」
「ワシャー!」
歯を剥き出して威嚇された。
お前、よく分からんが神格のある存在なんだよな? それでいいのか?
「ソーヤ、オレの分は?」
「俺の分は?」
少年とおっさんは無視。
「ラザリッサ、どう?」
カリカリカリッと乾パンを食べるフレイ。高貴なリスみたいである。ラザリッサがフレイの再生点を手に取って魔力を確認している。
「お嬢様、この食べ物凄いです。魔力がグングン回復しています」
「珍しい砂糖菓子を出せるとは、やりますわね。ヌートリアさん」
ヒームでも砂糖で魔力が回復するようだ。魔力って、脳の疲労と関係あるのかな?
「よし、お前ら」
親父さんが手を振って、皆の注目を集める。
「このまま二時間休憩を入れる」
彼は大きい砂時計を置く。
「各自、装備の点検。再生点の視認。それと体に異常がないか、二人以上で確認し合え。見張りは俺がやる。お前らは少しでも眠れ。休憩を明けたら、休みなしで二十階層まで行く。しっかりと備えろ」
親父さんの指令通りにパーティが動く。
僕は装備を点検して、皆の再生点を見て回る。問題はない。妹と一緒に体に異常がないか確認。問題なし。ラナはフレイに確認してもらっていた。
それが終わると、各々、楽な姿勢でくつろぎだす。
僕もバックパックを枕にして横になった。少しでも寝よう。
「んふふ~」
妹が抱き着いて来る。
ここ数日、異常にベタベタしてくる。妹とはいえ、ラナに悪い気がする。だが、これを無事終わらせてレムリア王から証言を貰えば、全てに踏ん切りが付く。それまでの我慢だ。
ここまでは順調。
この調子で終われば良いと祈る。
祈る神が悪行の神なのは、皮肉だろうか。
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