第13話 許されざる者

闇が支配する空間を染め上げるは、満点の星空。

中でも一際大きな恒星の輝きが、世界を照らし上げていた。

静寂の世界に変化を与えているのは公転する惑星。

その美しき軌道が、皮肉にも時間の経過を刻々と告げていた。


王が二人、、、

苛立ちを募らせ、唯その時を待っている。

闇の世界には、王含む数名の影が存在し、来るべき報告を待っていた。



獣王 陸奥むつ

迷王 ピグリム。

緑王代理 魔王補佐 ノーティス。


計3名がこの空間において、発言権を有している。

されど、場を包むは静寂。

交わされる言葉は無く、

唯二人の王から漏れ出す苛立ちのオーラが、周りにいる者達の肝を冷やし続けていた。



ここに存在するのは、魔神クロノークの信徒。

クロノークが影響を持つ国々のトップ達だ。


クロノークの消失に伴い、

話し合いの場を設ける事と、相成っていた。


挨拶と立場の確認。

そこから話し合いが始まったのだが・・・



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「この様な場を設けてもらい、感謝するぞ! ピグリム。」

「なーに、お互い様って事なのよ!

 どう? 私の世界は? 中々に凝ったものでしょ?」


ピグリムのどや顔に陸奥は苦笑いを返す。

ピグリムの悪癖には付き合いきれない。

苦い思い出があったのだ。

この空間も本来の使い道を想像するだけでゾッとする。

本当に要注意な相手なのである。


「ははは、中々、、、 素敵な空間だな・・・」

「そうなのよ! アンタ、分ってるじゃん!

 この素敵空間を理解するなって、いいセンスよ!

 この空間、今度私の国に組み込むの!

 星の海でクルージングしながらのティーパーティー!!!

 想像するだけで素敵過ぎない?

 みんな大喜びするわよ! その時は、アンタも来なさいよね!」


・・・何言ってんのコイツ?

クルージング? ティーパーティー?

あまりの馬鹿発言に、呆れる陸奥。


「こんな有意義な空間を・・・ 観賞の為に創ったのか?」

「それ以外にどう使うってのよ? あんたってやっぱりバカなの?」


真顔で言ってくるピグリム。

壮大な力と時間の無駄使いに、陸奥は考えるだけで頭が痛くなってきた。


ああ、そうだった、、

こいつは本物の馬鹿なのである。

馬鹿が力を持った結果・・・ ピグリムという魔王が生まれたのだ。

ホントに度し難い、、 迷王ばかなのである。



「御二方、、、

 話を進めたいのですが・・・ よろしいですか?」


物思いい耽る陸奥と

自慢の空間を披露して満足げなピグリムの間に、割って入るノーティス。

この場において発言権を持つ存在ではあるのだが、

言葉からは緊張の色が隠せない。


「何よ! もう!

 メルちゃんとこの堅物くん! 私の世界に文句でもあるの?」

「いえ、 そんな・・・」

「おい、よせ、 ピグリム!

 話しは進めんといかん、分っているのだろ?

 我らが、主、、」


陸奥が口が途中で止まる。

周りの空気が、一変したのだ。


場の緊張が、頂点に達していた。



「クロノークさま・・・ 死だと思う?」

神妙なピグリムに黙り込む陸奥とノーティス。


「死ぬわけないよね!」「当然だ!」「勿論です!」

しかし、皆の意見は一致していた。


「ならいいじゃない、

 これはクロノークさまの御意志。

 出過ぎた真似は、、、 私が許さないぞ!」

「それは、静観と受け取ってよいのか?」

「何も変わらないわ。

 私は私の事だけ! 

 クロノークさまも、それを望んでいる。

 だって、それこそが、、 クロノークさまの教えなのだから!

 歪める事は。 私が許さない」


強い意志が言葉から漏れ出していた。

教えの取り方は違えど、ピグリムの信仰は揺らがないようだ。


「わしも、ピグリムと同じ意見よ!

 これはクロノーク様の御意志あっての事、それ以外にあり得ぬ」

陸奥はニッカリとピグリムに笑いかける。

ピグリムは当たり前でしょ!とばかりに、フン!と顔を背けた。



陸奥の不安が和らぐ。

後は緑王の使いノーティスの言葉次第。

そして、今後の協力体制を整えれば、申し分ない会談となるのである。



ふと、気付けば、、

ノーティスの顔が青い。


魔王二名の強い視線に耐えかねたのかと思ったが・・・どうも違う。

小刻みに震え、何かを言えずにいる雰囲気であった。


今思えば、、、 おかしいのだ。

緑王 メルシアナ。

彼女がこの場を欠席するなど、ありえない。

メルシアナは、ピグリムと陸奥をも超えるクロノーク教の狂信者なのである。


その事を知っていた筈なのに、、 確認を後回しにしていた。


恐る恐るノーティスに確認を取る。

魔王2名の威圧もあり、ノーティスは重い口を開いた。



・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・


「馬鹿な! ありえん!!

 緑印が解かれるなど・・・ 

 どういう事だ? 何故、こんな事に・・・」


陸奥が冷や汗を垂らしながら、頭を抱える。

そこに獣王としての威厳は存在しない。


「咲夜! 今すぐ国に戻れ! 赤印の守りを固めろ!!!」

「ピーくん! 君も動きなさい! 青印を守るのよ!!」


両王の叫びにより、控えていた部下が動く。


事はそれに終わらない。


「陸奥様!! どうか、ご助力を!!

 メルシアナ様が・・・ メルシアナ様が・・・」

「分かっておる!」


興奮するノーティスを確りと抑え込み、目を見てやる。

真剣な眼差しに、ノーティスは落ち着きを取り戻した。



ノーティスが語ったのは、国の機密を含む3つの事柄。


一つは緑印の消失。

これが一番優先度の高い問題。

緑印。それはメルシアナがクロノーク様の力を借り施した封印式。

それが、解かれたというのだ。

俄かには信じがたい事実であり、

それが誠であれば、、、 国どころの話ではなくなる。


次にメルシアナの失踪。

クロノーク様が消失したと知ると、

彼女は狂ったように泣き叫び暴れたのだという。

皆、身を守るのに必死で、

気が付けば、メルシアナは姿を消していたそうだ。

その後、捜索は行ったが、成果は得られなかったとの事。


そして最後に、

本日、神官様が緑王の領地に足を踏み入れたという報告。



「歳三!

 今すぐ、緑印に向かえるか?」

「は!」


陸奥の命に、側近が動く。


「駄目です・・・

 あそこは今、、、 我らが知る場所ではなく!」


歯切れ悪い声で、ノーティスが叫ぶ。

歳三は確認の後、口を開いた。


「無理です、、 飛べません」

「なん、だと、、、」


陸奥は、

緑印の消失が確信へと変わり、黙り込む。


「陛下、ここは私が偵察にでます!」

歳三の進言に、

少しの間を置き陸奥は許可を出した。


「神官様の捜索も含め動きます故、

 どうか数名の同行を、お許し下さい」

「ああ、、 よい! ゆけ!」

「御意!」

言葉と共に歳三は姿を消していた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



話し合いどころではなくなっていた。

事によっては、魔王自ら動く事になるのだ。

その事を、場の全ての者が理解していた。


報告次第で、

全てが動き出す。



「陛下!」陸奥の耳に声が響く。


「待って居ったぞ! して、子細を語れ!」

「は! 陛下。

 残念ながら緑印は消え去り、最悪の事態を迎えております。

 聖地は死に絶え、 

 たとえメルシアナ様が健在であったとしても、、 再度の封印は無理かと・・・」


絶望が耳を駆け抜けていた。


やはり、緑印はとかれと・・・


「続けて申し上げます。

 神官様を発見しました!」

「おおおおおおおおおおおおおおお!! それは誠か?」

「は!」

絶望に希望がさす。

神官様が居れば、クロノーク様とも連絡が取れる筈なのだ!

そうすれば今回の件、すべてに決着がつく。



「しかし、、、」口籠る歳三。

それは、彼らしくない態度であった、


「ん? どうした? 申せ!」

「は、

 神官様には連れがおり・・・」

「ほう、して、 誰だそれは?」

「・・・わかりません」


分からん?何だそれは?


「歳三、ふざけるのも大概にせい!」

「いえ、分らないのです。

 ただ、あの者達から感じる力が、、 尋常ではなく・・・

 特にあの男・・・

 ダメです!

 陛下! あれに手を出しては・・・」

歳三のただ事ではない慌てように、意を決する。


「目を借りるぞ!」

陸奥は歳三の目を通し、それを確認した。



それは、湖沼の近くで野宿の準備をする一行の姿。

報告通り、皆手練れのようである。

ただ、、、 一人を除いて。


一人の男。

視ると普通の男。

ただ、


その者は、陸奥にとって眩しく映った。

金色に輝き、まるで神の様な存在である。

その者は、陸奥にとって禍々しく思えた。

内包する神を抑えつける邪悪なる闇。

尊き金色を蝕み、消し去ろうとしていた。

その者は、陸奥にとって、、、


何だ、あれは・・・

あれでは、、、 まるで・・・


怒りが込み上げていた。

見知らぬモノに、

大事なモノを汚されている様な、そんな悪寒がする。

あれを許してはいけない!そう、断言する事ができた。



「歳三! 戻れ!」

「は!」


目を閉じ、心を落ち着かせる。


陸奥は、、、 決断した。

魔王として、ピグリムと向き合う。


「ピグリム・・・

 もし、 わしが死んだら・・・ 全てを頼めるか?」


「は? あんた・・・ 急に何言ってんの?」


「これから向かうは、、、 死地!

 ピグリム、お前になら全てを託せ・・・」

バシーーーーーーーーーーーーン!

口は強烈なはたきで閉ざされていた。


ピグリムの手が腫れている。


「いったーーーーーーーーーーい!

 ホント、馬鹿じゃないのあんた? 硬すぎるのよ!

 それに、、、 私の許可なく死ぬなんて、許すわけないじゃない! フン!」


涙目のピグリムが、手を痛そうに摩りながら怒っていた。

後先考えない彼女らしい失態が、赤い腫れとして手を染め上げている。

しかし、目は真剣そのものであり、有無を言わせない。


・・・まったく。


本当に、 傍若無人な奴である。


陸奥は再考し、

視たモノを打ち明ける事にした。



「何よ、あいつ!!!! ムカつくわ!! 

 ああああん、もう!! ぶっ殺してやる!!!」

「しかしな、 我々ではあれに勝てんよ・・・ きっと・・・」

肩を落としごちる陸奥と、

男を確認した事でイライラを募らせるピグリム。

プンスカ!プンスカ!と、彼女の怒りはとどまる事を知らない。



ニヤ!

「任せなさい! 

 ちょっと時間が要るけど・・・ 私にいい考えがあるわ!」


嫌な笑みを浮かべるピグリムに、陸奥は項垂れる。


嫌な予感がしていた。

コイツならやってくれるかもと、期待はするが。。。

過去のトラウマが思い出される。



・・・本当に嫌な予感がしていた。

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