第12話 悪くない気持ち

ゴミを見るような瞳が、

やる造とマッチョを縮こまらせる。



はい、予感はありました。

何というか・・・

寒気というか・・・


何時から静観していたのか、、

小さな暗殺者が泣き叫ぶ中、黒い羽根の天使様が舞い降り、場の空気を凍てつかせていた。


「ふーーーん。

 で? 小さな子を取り囲んで、、 何をやってるのかな?」

「これはですな・・・ 」

「黙れ、筋肉ダルマへんたい!」

「あ、はい・・・」


釈明の為、口を挿んだマッチョが撃沈する。


事情を知らないルシフ。

しかし、彼女は怒ると話を聞かない。

話しても無駄。

やる造は身をもって、その事を知っていた。


「ですが、、 その者は、、やる殿を狙った。 フグッ!」

重苦しい間に、耐えかねたマッチョが動く。

が、問答無用の鉄拳!

ルシフの拳が、マッチョの顔を打ち抜いていた。


制裁を終えたルシフに感情など無い。

ただゴミの処理を終えただけ。

といった表情で、崩れ落ちたマッチョを見下ろしていた。



・・・悲惨な光景。

やる造は思う。

挑戦する事は悪い事じゃない。

だがそれは蛮勇・・・ 無謀そのもの。

それをやる造は知っていたのだ。


予想できた結果を前に、やる造は項垂れる事しかできない。


考えてもみろ・・・ マッチョ。

状況は圧倒的に不利!

後から駆け付けたルシフとって、この状況・・・


変態共が、子供を取り囲んでその毒牙にかける光景でしか・・・

ないのだよ;;


申し開きなど、、、 出来る訳がない。(確信)




フゴッ!!!

鈍い音が体を駆け抜ける。



やる造は、意識を放棄する事にした。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「つううううう。

 ルシフ、やりすぎ! っていったいなーーー。」


腫れた頬を押さえながら抗議するやる造。

しかし、響く声は少女のモノ。


聞き慣れた声に耳にしても、ルシフは怒りを抑えない。


「クロちゃんも見てたんでしょ?

 ホント、信じられない!」

「いや、誤解だって! その子が、、」

「クロちゃんまでそんなこと言うの?」


ハハハ!

クロノークは笑いを浮かべて誤魔化す。

こうなっては、どうにもならん。

時間をかけてみる他ないのだ。


「クロちゃん?」

「いやーーー

 ホントやる造って、バーカだよね!」


この場はそう、

長い者に巻かれる事にしたのだった。



魔神クロノーク。

壊れた時計と言われ、恐れられた少女。

今、彼女は意識を放棄したやる造の体を借りて動いている。


これは、今回だけに限った話ではない。

やる造が寝た後、もしくは意識が飛ぶ程の目にあった後に、

度々やる造の体を拝借していたのだ。


やる造は気付いていないが、

ルシフやマッチョ、無口はその事を知っていた。

やる造の近くにはいつもルシフがおり、直ぐに知れてしまったのだ。

今では親友と呼び合う仲である。

やる造という、共通の絶対悪を得て芽生えた友情であった。



「はーーー。しっかし。

 どうして、、 こうなるのかな・・・」


クロノークは思う。

親友には、もう少し緩くなってもらいたいと。

何であそこまで張り詰めてるのか・・・

ホント、怒ると話を聞かない子なのである。


「う~~~~ん」

「うぐ・・・」


悩むクロノークに、近くで愚図る子供の声。


「おう、わりぃーな!」


そう言って水をかけてやる。

シャボンが流れ、ボサボサの髪が姿をあらわした。


「てか、お前・・・

 人型なんだから、体の手入れぐらいは、しっかりしろよ!」


目の前には、命を狙ってきた子供。

その頭を、もう一度シャボンでいっぱいにする。

子供は抵抗せず、その行為を受け入れていた。



不思議な感覚である。

時計であった時には感じなかった、、 そんな気持ち。


近くでは、ルシフが飯の用意をしている。

その横では、、、無口だったか?アイツがそれを手伝っていた。

マッチョは、正座姿勢のまま放置されている。

やる造は私の中。

目の前には小さな子供。

今は、その体を洗ってやっている。


なんだろ・・・

神としては、あり得ない状況。

でも、どこか暖かくなる光景。


悪くない、、、

悪くない気が、、 するのだ。



「こーーらーーーー! くろちゃん!駄目だよ!

 服はちゃんと脱がしてあげて!!!」


ルシフがこちらの様子に気付き、声を上げる。

クロノークは子供を服ごと洗っていた。


「えーーー。

 だって汚いよ! この服・・・ 粗相してるし・・・

 私だって汚れるし!」


ん? 

そこで、クロノークが閃いた。


近くには水辺。

ルシフの案内で、森の中にある湖沼に立ち寄っていた。


そう、水辺である!


ニヤ!

クロノークが不敵に笑う。


「汚れるけど・・・ まあ、いいや!」


服を脱ぎ捨てる。

勿論、パンツも全てだーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!


「フグ!!」

ルシフが変な声を漏らし、真っ赤な顔で固まっていた。



ハハハ!

ザマ―みろである。


ああ、、楽しい。

この時間。


本当に、悪くない気がしていた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ルシフの表情に満足を得て、

子供を連れ、

いざ水の中へ。


・・・

・・・・・・



なん、、 だ、これ。。。


服を脱がせると、



子供は痣にまみれていた。

酷く深い傷も、いくつか存在する・・・・

受けたであろう仕打ちを、

否が応にも想像してしまう、見るに堪えない姿。



「みないで・・・」消え入りそうな声。

子供・・・

いや、小さな女の子は目に大きな涙を浮かべて、震えていた。



「あーーー・・・、、、


 その、、 

 なんだ、、、」

 ―――――― えい!


クロノークはシャボンをまき散らす。

そして、勢いよく少女をシャボンで包み上げた。



少女はキョトンとした表情で、目の前の男を見詰める。

「ハハハ!」楽し気に自分の体を洗う男。

変態が、そこに居たのである。


傷だらけで、気持ち悪い筈なのに・・・ 何も言わない男。

少女はただ男の行動を見詰めていた。


気付けば、顔が熱くなるのを感じる。

「おじさんの、、、 エッチ・・・」自然に漏れた言葉。

当然の反応であった。



赤い顔で、ごもっともな意見が少女から返してきた・・・

やる造おとこの体で、べたべたと触ったのだ。

そら、そうなるよね。


岸へと戻り、

乾いた布をとると少女へと向き直り、放ってやる。

少女はキョトンとしていたが、慌てて受けとった。


「体を拭いたら、あっち行け! 私は、服を洗うから・・・」


素っ気ない態度で、ルシフの方を指す。

少女はやはりキョトンとしていた。



その後、

少女の服を拾い集め、洗い始めたのだが・・・


少女は布にくるまり、

クロノークの横に陣取って、楽し気にこちらを観察している。



「はぁ~~~~~」

ため息が漏れていた。


ホント、どうしてこうなってしまったのか・・・

時計には、それが分からない。


ただ、

やはり、、、 悪くない。


そんな気持ちが、時計の心を満たしていた。

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