第11話 暗殺者
当初の予定が狂う。
まあ、誤差ではあったのだが、、 やる造は不満を隠さなかった。
「はーーーーつっかえ」
「ちょっと、やるくん、、、 言い過ぎ!」
ルシフが気を回し、無口を庇う。
「・・・いいんです」
無口は珍しく口を開いていた。
申し訳なさそうに、そのトーンは小さい。
(はーーーーーー)
やる造は大きなため息を一つして、整理をつける。
人の力を当てにした自分も悪い。
ここはルシフの顔を立てて、やる造は無口を許す事にした。
別に、無口に非がある訳でない。
ただ突っかかっていただけであって・・・
落とし処としては、助かったのであった。
▶空間転移◀
簡単に使うから、どこへでも行ける能力だと思ったのだが・・・
とんでもない、、、 条件が存在していた。
身近な確認が取れる場所なら、どこへでも行けるらしいのだが、
遠方となると話が変わる。
印付けは、そのままの意味。
対象の場所に印を残すか、それに準ずる痕跡を残す事。
無口の場合は血。血を垂らし、痕跡を残す。
記憶とは、印付けを維持できる上限数の事。
つまり、
一度行った場所で、且つ、印を残しておかないとダメなのである。
無口が、これから目指す村に足を運んだ過去は無い。
故に今回、歩きでの現地訪問となった。
ただ、予定の狂いは誤差で済んでいる。
目的地が、無口の記憶している場所に近かったのだ。
そして今、
やる造達は足を踏み入れた―――
そこは何の因果か、やる造が降臨した場所。
枯れた土地であった。
かつては鬱蒼と木々が生い茂り、人の出入りを許さなかった森の聖域。
現在は枯れ果て、その面影すらない。
見渡せば、遠い場所に森林地帯への入口が不自然な形で口を広げていた。
足元を確認すると、腐葉土特有の湿り気は存在せず、乾いた土と枯れた木々を縫い砂塵が舞い始めていた。
(おれの所為じゃ・・・ ねーし)
あまりの惨状に、やる造の表情は暗い。
やる造が不満を漏らしたのは、なにも移動手段の件だけではかった。
自身のやらかした惨状を、改めて目の当たりにし、、、
心が、、 ざわついていたのだ。
「やるくん、、 ちょっといいかな・・・」
ビクッ!
ルシフの躊躇いがちな声かけに、やる造は動揺した。
あの時の様に。初めて出会った時の様に。
責められるのでは? と考えてしまったのだ。
「あ、うん。。 なに、かな?」
歯切れの悪い態度を返す。
やる造は、自身のこういった小心なところが嫌いだ。
もっと豪胆に生きれれば・・・ 楽なはずなのに。
「あのね、 ここ、私の小屋から近いの。
良ければなんだけど、、 荷物を取りに行っても、いいかな?
勿論、私だけでいいよ。すぐ終わるし」
ホッ!
想像と違った言葉にやる造は安堵する。
・・・・・・何が(ホッ!)だよ。
心に悪態をつき、悟られぬよう笑顔で了承した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ルシフと別れて歩みを進める。
一行が森林地帯に足を踏み入れて、数時間が過ぎようとしていた。
想定していた事だが、思いのほかしんどい。
だが、やる造の士気は高かった。
やる造は初めルシフに同行するつもりだったのだが拒否されてしまう。
理由は教えてくれなかったが、大体の想像はついた。
少女にも見られたくない物がある筈なのだ。
(ルシフがムッツリ? 私は一向にかまわん!!)と鼻息を荒げるやる造。
勝手な妄想なのだが、機嫌を持ち直していた。
足取りは軽く、一行の先頭で目的地を目指す。
警戒など、何もしていなかった。
―――パン!
進める足が止まる。
やる造の鼻先を、何かがかすめていた。
恐る恐る確認する。
音の発生源には、矢が一本。
殺意の高さが伺える程に、幹に深々と突き刺さっていた。
無口が素早くやる造を庇う立ち位置につく。
すると、
ここまで静かに成り行きを見守っていた男が動いた。
「やる殿の命を狙うとは、、、 許せませんぞ!
我自ら、成敗してくれるーーーーぅ!!!!!!!!!!!!」
極太の血管が浮き上がり、隆起した筋肉が着ていた服を吹き飛ばす。
一瞬でパンプアップを果たした肉体から立ち昇る煙が、その怒りの強さを表していた。
事は一瞬。
マッチョの動きは早すぎて、目で追う事は出来ない。
ただ、結果を告げるなら、、
マッチョが拳を振り抜いていた。
その先、無残にも伐採された木々の隙間より覗く光にライトアップされた場所。
そこにへたり込む存在。
攻撃をわざと外したのか、無傷であった。
「申し開きはありますかな?」
「ヒィィィ!」
無慈悲な宣告が、へたり込んだ者の近くで響く。
マッチョが距離を詰めていたのだ。
追い詰められた者は、堪らず悲鳴を、、って、子供?
「まてーーーーーーー!!」
気付いたやる造がマッチョに待ったを出す。
が、手遅れ。
ジョババババババ・・・・・
「うわあああああああああああああああああああああああああん!!」
へたり込んだ子供の周りから、香ばしい匂いと共にあがる泣き叫ぶ声。
「なん、、 ですかな、 これは・・・」
力の抜けたマッチョが、困惑の表情をうかべていた。
子供の手には、確りと握りしめられた弓があり、それは犯人である事を示す証拠となっていた。
だが、そこに居たのは明らかに小さな子供。
あまりにも幼すぎる暗殺者だったのだ。
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