第10話 異世界での初仕事

宿で待っていたのは、

「お帰り」という優しい言葉だった。

ルシフが眠い目を擦りながら、掛けてくれた迎えの挨拶。


やる造は、心が痛くなるのを感じていた。

(本当に申し訳ない・・・)感情が抑えきれず、涙と鼻水を垂らす。


「変なやるくん。 フフフ、n?」

可笑しな態度をとるやる造に、ルシフは微笑む。

と、優しい声が不意に疑問に変わり、途絶えた。


ルシフは真赤な顔でやる造を凝視し、固まっていた。

眠気が取れ、認識力の向上により、おかしな点に気付いてしまったのだ。


「ははは」笑って誤魔化すやる造。

何があったの?と心配そうに見詰めるルシフ。


視線をそらし、口を開いた。

「ちょっとした投資活動で・・・ 失敗しちゃた・・・かも」

(嘘は言っていない!)やる造は、心にそう言い聞かせる。


言い訳は続く。


やる造は投資の為、単身で取引現場に。

そこで待っていたのは、何者かによる策略である。

最後までビジネスパートナーを信じた、やる造であったが・・・

気付けば、身ぐるみを剥がされていた。

何を言ってるのか分からないかもしれないが、これが真実である。

そう、悪いのはやる造ではなく、世知辛い世間の方なのだ!


と、言い訳を締めくくった。

旨く騙せたか、、、 自信はなかった。



だが、心配とは裏腹にルシフさんはちょろかった。

やる造の話を完全に鵜吞みにしたのだ。

最後まで人を信じ抜いたやる造に、「頑張ったね」と涙ぐむ始末である。


と、そこへ、

「我も、興味がありますなー、その話ー」

様子を窺っていたのか、マッチョと無口が割り込んでくる。

怪しまれる訳にはいかず、拒む事はできなかった。


仕方なく、

賭博を仕切っていた胴元の特徴をそのまま告げ、話しに真実味を持たせた。

プラスして悪評も言っておく。


「不逞ー野郎ですな・・・」魔人は怒りを露わにする。

「ええ、やるくんは、、 頑張ったのに・・・」

ルシフの瞳は先ほどから光を失い、危険な闇を灯し始めていた。

そして、顔を縦に振り肯定する無口。



まずい事になってしまった。

少々、調子に乗ってしまったかも、しれない・・・

このままでは、、



「いいんだ! 地獄を甘く見た俺が悪い。

 勉強料だと思って、今回は見逃して・・・」


「舐められては、不味いですぞ!」「でも、、」「ブンブン!(頭を振る音)」

食い下がる3人。

どうしても許せない様だ。


「いいんだ! 今回は俺が悪いんだ。アイツは悪くない」

悟った顔で項垂れる。

「いいんだ! 俺が悪かったんだよ」(真実)

やる造は話を終わらせようと、必死だった。



「やるくんが、、 そこまで言うなら・・・」煮え切らないルシフ。

「そうですな、、 これ以上はやる殿の問題、、 と言う事ですな」

(やる殿ってなんだよ・・・)

「そういう事でしたら、宿ここの払いは我が持ちましょう」

マッチョが優し気に接してくる。

どうやら、ショックを受けていると思い込み、気を使っている様だ。


ここは素直に甘える事にした。



しかし、今後の事を真剣に考えなくてはいけない。

何方にせよ旅費の工面は必須事項であった。



話し合った結果、、、



仕事をする事になりました。

異世界に来てまで・・・

仕事をする事になりました。


今思えば、4.5畳の世界が懐かしい。


お父さん・・・

お母さん・・・

俺・・・ 働く事になりました;;



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


仕事は直ぐに見つかった。

寂れた町のどこにハロワがあるんだ?と思ったら、何の事は無い。

酒場で聞けば紹介してくれたのだ。


何度か使った酒場ではあるが、そんな側面があるとは気が付かなかった。

だが、気付いてしまうと、周りが見渡せる。

酒場の片隅には掲示板が設置され、魔獣の討伐依頼や薬草・鉱石の採取依頼、

その他雑事の依頼書が張り出されていたのだ。


なんか、昔やったゲームを思い出す、いい雰囲気である。

何処か懐かしい光景を、やる造は暫し楽しんだ。



引き受けたのは、町長からの依頼。

物資の運搬依頼である。

魔獣の討伐依頼が目を引いたのだが、こちらを選んだ。


理由は簡単。

報酬が高かったのだ。

それに支度金まであるときたら、選ばない理由は無かったのである。


報酬の理由は、直ぐに分かった。


『距離』である。

物資を運搬する距離がネックとなっていた。

物資を受け取り、町に帰って来るまで時間を要するのだ。

それは、酒場の依頼で生計を立てる者にとって、忌避すべき問題であった。

時間がかかるなら別の依頼で数をこなす、それが常識となっていた。

仕事がある内は、誰の目にも止まらなかったのである。

美味しい話には裏があるというが、今回はそれが距離であったのだ。


ただし、やる造達には適応されない問題である。

何故なら、

「それでは行くか! 無口くん!」

やる造には無口がいた。

彼は空間転移能力を持っている。

それを利用しない手はなかったのだ。


依頼成功のビジョンが、やる造の頭に描かれる。

飛んで行って、飛んで帰ってくる。

そしたら、お金がタンマリ!ウッハウハ!無口くんマジ有能!


いいイメージである!

さあ、お仕事頑張っちゃうぞ!!!!


ここに全て人任せの初仕事が、幕を開ける!!!



はず、、 であった。

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