第9話 クロノークの消失

クロノークの教え。

「汝、今を生きよ!」から始まる。

とても短く、意味のない教え。


教えを説いたのは、

壊れた時計ことクロノーク自身だったとされている。

当の本人に、教えを説いた記憶は無いのだが・・・これは真実であった。


意味を持たせたのは、敬虔なる信徒に他ならない。

勿論、解釈の仕方には個人差がある。

しかし、地獄において力あるモノの言葉とは、それだけで途方もない力を持っていた。

受取る側の熱も強過ぎた。

藁にも縋るという言葉があるが、まさにそれである。

過酷溢れる世界の住人にとって、

意味のない教えにこそ、救いは存在していたのだ。

力なき者の救いとして、教えは意味を持ってしまったのだ。


簡単にいえばギフト

敬虔なる信徒の、それもごく一部から現れた。


時の化身たるクロノークの支配。

その限りなく小さな破片に辿り着いた者達が、現れたのだ。



「汝、今を生きよ!

 過去に驕ること無かれ 浸ること無かれ

 汝、今を生きよ!

 明日に生きること無かれ ただ、今を懸命に生きよ!」


何を思い言ったのか、クロノークですら思い出せぬ黒歴史。

教えに従うなら、忘れてしまった方がいいのだろう。

しかし、この言葉は信徒達の胸に深く刻み込まれている。


最も尊き教えとして。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「父上-------------!!」

「静かに、 御神体の御前ぞ!」


父と呼ばれた男は、動じる事なく祈りを捧げていた。


「・・・なん、たる!」


神前に響く悲痛な叫びは、少女のモノ。

祭られた岩にひびが入っていた。


「父上、、 これでは、やはり・・・」

「狼狽えるな娘よ! 神は生きておられる!」


疑う事は許さぬとばかりに、キツイ言葉を娘に投げかける父。

しかし、それは自らの動揺が大きい事を示していた。


心配そうに見詰める娘。

いつもならピン!と立っているケモ耳が、シュンと折れてしまっていた。


「心配するな

 ギフトつながりは活きている。

 我らの信仰ある限り、神が消える事などあり得ぬ!」


娘はホッとした顔で、懸命に笑顔を浮かべて見せた。

よくできた娘だと、男は娘の頭を撫でてやる。


男は思う。

(クロノーク様が御隠れになるなど・・・あってはならぬ!

 あり得ぬのだ! 何か理由があるに違いない。

 我らには想像も及ばぬ、深き事情がある筈なのだ。

 ならば、クロノーク様の御考えを尊重するほか・・・ない)


しかし、事は一刻を争う。

他の国々も気が付き始めている事であろう。

何しろ神官様とも連絡が通じないのだ。

異教徒共が嗅ぎつける前に、対処せねばならなかった。


事は慎重に、なれど迅速に。


会談をする必要があった。

王として・・・

国を統べる魔王として。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ダーーーーーーーーーーーーーーハハハハ!

 友よ! 許すぞ、いけいけいけ!」

「任せろ相棒!

 俺の感かみが言っている! 次は半だと!」


ここは賭博場。

神は今を大いに楽しんでいた。

自覚があるのかは、定かではない。

だが、教えをそのままに生きていたのだ。

ただし、クズの中で。



やる造は旅費を稼ぐと意気込み、ここへやってきていた。

勿論、ルシフ達には内緒である。

軍資金はたんまりあった。

旅費の管理を任されていたからである。疑われる事もなかった。


それに、負ける気がしない。

バックには時の支配者が控えている。

事が起きたとしてもどうとでもなるのだ。グフフ。

浅はかな考えが、やる造を後押ししていた。


景気の良い連勝の後、

それは起こった。


胴元がニヤリと笑う。

「丁---------------!!!

 にいさん! わるいねー、へへへ」


え?

まさかの敗北に意識が追い付かないやる造。


気を取り直し、頭に語り掛ける。


「相棒! 負けたんですけど・・・」

「負けたなガハハ!

 いいではないか! 今を楽しめ!」


何言っての、、このばか・・・


「相棒? 勝たないと困るんだけど・・・」

「おう、そうだな!

 次は勝て! 私しが許すぞ! いけいけいけ!

 ダーーーーーーーーーーーーーーハハハハ!」


とても楽しそうである。

今まで抑え込まれていたモノの解放が、そこにはあった。

神は、今を純粋に楽しんでいたのだ。


青ざめる、やる造。

此処より先は戦場!

負けを取り戻す闘いが始まる。




・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・


ダメでした;;

頑張ったけど、ダメでした;;


やる造はパンツ一丁で放り出されていた。

今は夜も明け、とぼとぼと帰路の途中である。


この先に待つ、ルシフの怒りが憂鬱でならない。

今回、生きていられるのか不安で仕方がない。


ばかは、楽しむだけ楽しんでドロンしやがった。

やる造だけが、そこに取り残されてしまったのだ。


重い足を、再び帰路に向ける。

帰る場所など、、 一つしかないのだから。

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