第9話 クロノークの消失
クロノークの教え。
「汝、今を生きよ!」から始まる。
とても短く、意味のない教え。
教えを説いたのは、
壊れた時計ことクロノーク自身だったとされている。
当の本人に、教えを説いた記憶は無いのだが・・・これは真実であった。
意味を持たせたのは、敬虔なる信徒に他ならない。
勿論、解釈の仕方には個人差がある。
しかし、地獄において力あるモノの言葉とは、それだけで途方もない力を持っていた。
受取る側の熱も強過ぎた。
藁にも縋るという言葉があるが、まさにそれである。
過酷溢れる世界の住人にとって、
意味のない教えにこそ、救いは存在していたのだ。
力なき者の救いとして、教えは意味を持ってしまったのだ。
簡単にいえば
敬虔なる信徒の、それもごく一部から現れた。
時の化身たるクロノークの支配。
その限りなく小さな破片に辿り着いた者達が、現れたのだ。
「汝、今を生きよ!
過去に驕ること無かれ 浸ること無かれ
汝、今を生きよ!
明日に生きること無かれ ただ、今を懸命に生きよ!」
何を思い言ったのか、クロノークですら思い出せぬ黒歴史。
教えに従うなら、忘れてしまった方がいいのだろう。
しかし、この言葉は信徒達の胸に深く刻み込まれている。
最も尊き教えとして。
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「父上-------------!!」
「静かに、 御神体の御前ぞ!」
父と呼ばれた男は、動じる事なく祈りを捧げていた。
「・・・なん、たる!」
神前に響く悲痛な叫びは、少女のモノ。
祭られた岩にひびが入っていた。
「父上、、 これでは、やはり・・・」
「狼狽えるな娘よ! 神は生きておられる!」
疑う事は許さぬとばかりに、キツイ言葉を娘に投げかける父。
しかし、それは自らの動揺が大きい事を示していた。
心配そうに見詰める娘。
いつもならピン!と立っているケモ耳が、シュンと折れてしまっていた。
「心配するな
我らの信仰ある限り、神が消える事などあり得ぬ!」
娘はホッとした顔で、懸命に笑顔を浮かべて見せた。
よくできた娘だと、男は娘の頭を撫でてやる。
男は思う。
(クロノーク様が御隠れになるなど・・・あってはならぬ!
あり得ぬのだ! 何か理由があるに違いない。
我らには想像も及ばぬ、深き事情がある筈なのだ。
ならば、クロノーク様の御考えを尊重するほか・・・ない)
しかし、事は一刻を争う。
他の国々も気が付き始めている事であろう。
何しろ神官様とも連絡が通じないのだ。
異教徒共が嗅ぎつける前に、対処せねばならなかった。
事は慎重に、なれど迅速に。
会談をする必要があった。
王として・・・
国を統べる魔王として。
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「ダーーーーーーーーーーーーーーハハハハ!
友よ! 許すぞ、いけいけいけ!」
「任せろ相棒!
ここは賭博場。
神は今を大いに楽しんでいた。
自覚があるのかは、定かではない。
だが、教えをそのままに生きていたのだ。
ただし、
やる造は旅費を稼ぐと意気込み、ここへやってきていた。
勿論、ルシフ達には内緒である。
軍資金はたんまりあった。
旅費の管理を任されていたからである。疑われる事もなかった。
それに、負ける気がしない。
バックには時の支配者が控えている。
事が起きたとしてもどうとでもなるのだ。グフフ。
浅はかな考えが、やる造を後押ししていた。
景気の良い連勝の後、
それは起こった。
胴元がニヤリと笑う。
「丁---------------!!!
にいさん! わるいねー、へへへ」
え?
まさかの敗北に意識が追い付かないやる造。
気を取り直し、頭に語り掛ける。
「相棒! 負けたんですけど・・・」
「負けたなガハハ!
いいではないか! 今を楽しめ!」
何言っての、、この
「相棒? 勝たないと困るんだけど・・・」
「おう、そうだな!
次は勝て! 私しが許すぞ! いけいけいけ!
ダーーーーーーーーーーーーーーハハハハ!」
とても楽しそうである。
今まで抑え込まれていたモノの解放が、そこにはあった。
神は、今を純粋に楽しんでいたのだ。
青ざめる、やる造。
此処より先は戦場!
負けを取り戻す闘いが始まる。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
ダメでした;;
頑張ったけど、ダメでした;;
やる造はパンツ一丁で放り出されていた。
今は夜も明け、とぼとぼと帰路の途中である。
この先に待つ、ルシフの怒りが憂鬱でならない。
今回、生きていられるのか不安で仕方がない。
やる造だけが、そこに取り残されてしまったのだ。
重い足を、再び帰路に向ける。
帰る場所など、、 一つしかないのだから。
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