第8話 逃避行とその仲間

不思議な一行の様子を酒場の面々は奇異の目で確認していた。

酒場の目立たぬ位置に陣取る一行は、堕天使の少女が一人と魔人が一人。

厚手のローブを羽織った男一人。後、少女の奴隷?からなる4人組であった。

中でも目を引いたのは、一際美しい少女と彼女に媚びへつらう奴隷である。

魔人の存在にも驚いたのだが、二人がそれを霞ませる程の異彩を放っていたのだ。


奴隷がへこへこと少女のご機嫌を窺う。

少女はあたふたと身振り手振りで「もういいから!」と奴隷を窘めていた。

そんな仕草が堪らなく可愛く、動向を見守る酒場の面々の癒しとなっていた。


少女は一行の主人である。というのが、酒場の面々の予想だ。

恐らくは、どこぞの国のお姫様であり、

身分を隠して出歩いていると勝手な設定付けをしたのだ。


奴隷はというと・・・

コイツが小物感半端ない奴で、

何故、少女がコイツの同行を許しているのか謎であった。

少女以外に尊大な態度を取とる男の言動は、外野から眺めているだけでストレスがたまる。

魔人を含む残りの面子が、それを許している事がとても不思議でならなかった。


魔人と言えば天魔の中でも上位にあたる周知の存在。

プライドが高く、本来なら領土持ちの貴族や覇を唱える王であってもおかしくないのだ。

そんな存在が奴隷の蛮行を許している。

本当に不可思議な一行であった。


彼女達が、この町にやってきて2日が経つ。

辺境の小さな町であるが故に、彼女達は酒場での話のタネになっていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「しかし、 目立っておりますなー、我らは・・・」

「一番目立っている、お前が言うな。

 目立ちたくないなら服を変えろ。 俺の様にな」


マッチョは周りに目を向け警戒を怠らない。

やる造は気だるげに、マッチョに駄目だしをした。


やる造の言い分は概ね正しい。

何故ならマッチョの服装は悪目立ちが過ぎている。

中世ヨーロッパ貴族のいで立ちと言えばいいのだろうか?

やる造に知識はないが、これが場違いな服装である事ぐらいは理解できる。

世界観的には合っていると言えなくもないが、こんな寂れた町の酒場に貴族様が来るわけないのだ。


やる造はというと。

ザ・冒険者という感じの服装である。

麻の服に麻のズボン、皮の靴。

そして決めのマントを羽織り、腰には護身の短刀。

本当は立派な剣を持ちたかったのだが・・・ 重くて使えなかった。


服は無口に用意してもらった。

無口とは使者の事である。

あまりに喋ろうとしないので、やる造がそう呼ぶ事にしたのだ。

無口自身、それを気に入った様で、、

というか・・・ この男、やる造に懐いていた。

無口の方を向くとフードに隠れた顔が若干うれしそうである。

何処でフラグを立ててしまったのか・・・

何方にせよ、やる造に男色の趣味は無かった。


「ハハハ、我が目立つ? ご冗談を。

 見て下さい、この筋肉を!

 そして、我が肉体美に花を添えるこの衣装を!」

ミチミチ!

マッチョのポージングにより、服が悲鳴を上げていた。


「破れるぞーーーー(棒」

「フフフ、 至高の美とは一瞬の中に輝くモノ!

 心配無用です! 余所行きの服なら幾らでも御座いまぞーーーー!」

ビリ!!

マッチョの肥大した筋肉が破れた服からのぞいている。

やる造は呆れた表情で笑う事しかできなかった。


「フフフ」

美しい声が響く。

ルシフが楽しそうに笑い、やる造を見守っていた。

機嫌の良いお姫様に、やる造も一安心である。


今日も一日、五体満足に過ごせそうであった。




やる造達は旅に出ていた。


―――逃避行の旅に。




魔神の喪失が意味するところ・・・

それは大混乱である。

天魔 壊れた時計。

彼女が消えた事により、地獄は大きく動こうとしていた。


勢力図が塗り変わるのだ。

とは言っても、時計に領地は無い。配下も無口だけである。

支配地域が在るとは聞いていたが、それは意味が違っていた。

宗教勢力といった形に近い。

なんと時計は3か国の魔王から信奉される神であったのだ。

それもかなり熱心な信徒であるとの事。

それ故、支配圏も3か国にまたがり、他神の支配圏と鎬を削っていたらしい。


ここから神の一柱が消えたのだ。

他の勢力圏も黙っていないだろうし、

何より熱心な信徒であるという魔王達が如何動くのか、、

気になるところではあった。



やる造は時計から大方の事情を聴かされたのだが・・・

「逃げる!」即答であった。

時計は止めしない。

「お前らしい、クズないい答えだ」と、どこか納得した雰囲気でやる造の心に潜ってしまった。



「責任、、 取って下さい!」まさかの言葉が、やる造に向く。

逃げる事を決めたやる造に、ルシフではなくマッチョが言ったのだ。


マッチョは拗ねていた。

今回の願い・・・

それはマッチョにとってはじめてのモノであったらしい。(実に嫌な響きである。

魔神がまだ消えていない事に、仕事の消化不良を感じている様だった。

やる造が出て行くと知ると、付いて行くと言い出したのである。


無口ももれなく付いてきた。

時計曰く、うちの神官様だとの事。

よく働くから遣ってやってくれと言われたのだった。



そして、お姫様。

ルシフはというと、、、、


モジモジとしていた。

言いたい事がある様で、でも言い出せない。

そんな感じでソワソワしていた。


あまりにもじれったかったので、やる造は言ってやった。


「ついてこい!」


差し出した手に、小さな手が絡む。

その温もりを離したくないと思えた。

ルシフの目から涙が零れる。

やる造はそっと拭いてやった。


見詰め合う二人・・・





「いいところ、 悪いけど・・・

 私の親友に手―出したらコロスゾ? な、ロリコン!」


!?


頭の中に響く少女の声。

何時、、親友になったんですかね・・・


やる造の疑問は空しく心に消えていった。

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