第7話 兵どもが夢の跡

どうしてこうなったのか・・・ やる造はそう嘆く。

今現在、やる造は床に額を擦り付けていた。

膝をたたみ正座の姿勢からの、その体制である。

俗にいう土下座であった。


そして何より、

やる造の顔が、今は見る影もなくパンパンに腫れ上がってお・・・

というか人の形すら成していなかった。

「いぎでいでごべんだざい! どうがおゆじぐだざい!!」

その上で、念仏のような言葉を唱え続けているのだった。


ビク!

近くで動いた気配にやる造が反応するおびえる

これはもはや、やる造が逃れえないかるまになろうとしていた。

何故なら、、


「やるくん・・・ まーだ生きてるんだ、、、へーー丈夫だねーーフフフ」

そんな声が辺りに響く。

やる造はブルブルと震えていた。


ドーーーーーン!!!!!

それは床に新たな亀裂が刻まれた音である。

床には深紅の鮮血溜まりが出来上がり、新たな血で上書きが行われていた。

分かると思うが、それ全てやる造の血液であった。


声がもう一つ。

やる造の内なる側から響いてくる。

「友よ、お前の罪を言ってみろ!」

とても冷たく、許す気配などさらさらない声音であった。


すぐさま、やる造の念仏が開始される。

「いぎでいでごべんだざい! どうがおゆじぐだざい!!」

「いぎでいでごべんだざい! どうがおゆじぐだざい!!」

「いぎでいでごべんだざい! どうがおゆじぐだざい!!」

「いぎでいでごべんだざい! どうがおゆじぐだざい!!」

「いぎでいでごべんだざい! どうがおゆじぐだざい!!」

「いぎでいでごべんだざい! どうがおゆじぐだざい!!」

「いぎでいでごべんだざい! どうがおゆじぐだざい!!」

「いぎでいでごべんだざい! どうがおゆじぐだざい!!」

「いぎでいでごべんだざい! どうがおゆじぐだざい!!」

「いぎでいでごべんだざい! どうがおゆじぐだざい!!」


これがずっと続いているのである。

ルシフが・・・ 魔王と化していたのだ。



ここでは魔王と化したルシフの他に、2人の男が存在を許されていた。

ちなみに数にやる造は含まれていなかった。

魔王様から天魔としてすら認めてもらえない状態になっていたのだ。


他の男はというと・・・

その光景をただ見守っていた。というかドン引きである。

ルシフを捕らえ、脅しの道具として使っていた男は、その矛先が己に向かない事を唯々祈り続けていた。故に、口など挿める筈もなかった。

ルシフを視野すら入れなかった魔人が絶句している。

魔神にも匹敵しうる重厚なオーラ纏うルシフ姿に、魔人は黙り込む事しかできなかったのだ。


では、何故こんな事になったのか・・・

勿論、やる造の罪である!としか言えない出来事であった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


悟りを啓いたやる造は、十全に満ちる内なる力に驚いていた。

魔神を内包し、溢れだしそうになる力のコントロールに、少々手を焼いていたのである。


そんな矢先に、美少女ルシフが現れた。


やる造は意識するよりも早く、それを行う。


―――時間停止。

絶対なる時の支配を、

今まで使用してきた能力であるかの如く、慣行したのだ。


夢は現実となり、一割の妄言こそ真実となっていた。

美少女ルシフが動かず固まっていたのである。


そんな光景を前に、我慢など、、 出来る筈も無く。


美少女ルシフに後ろから抱き着き、頬ずりをする。

停止しながらも感じる事の出来る温もりとその柔らかさ。

或いは感じられないのでは?と、思っていたその事実に、興奮の度合いが増す。

そして、美少女ルシフの頬に舌を這わせようとした、その時の事だった。


頭にそれが響いてきたのだ。

「友よ、お前の罪を言ってみろ!」

消えた筈の魔神の声。「お前の罪を言ってみろ!」

確かに轟いてくるのだ、その思念が、、 内側から・・・


耳元では肝が凍るような声が響く。

「やるくん、、 何、、、 してるのかな・・・」

手元に小ぶりながらも、確りとした感触のある膨らみが、収まっている。

やる造の舌は美少女ルシフにかろうじて触れない位置で制止していた。


口を閉じ、美少女ルシフから距離を取る。

美少女ルシフが満面の笑みをこちらに向けていた。

「あの、、、 ルシフさん・・・ これには訳が・・・」


「受け入れよ!その罪を!」頭に声が響く。

「心の友、、、 なのか?」聞き返すと冷たい返事が返ってきた。

「友よ・・・

 私はお前と交じり合い・・・消える筈だった・・・

 そうでなければいけなった・・・

 友よ・・・ 

 いや、友よごみくず・・・

 貴様なんかと交わっていられるか!!!!!!!!!!!!!!

 貴様などに能力はくれてやらん!!!

 叩き直してくれる!!! この私自ら!!

 壊れた時計と恐れられた、この魔神自らな!!


 さあ、お前の罪を言ってみろ・・・」


「やるくん・・・ どうしたのかな?」

顔の近くに感じる吐息。

それに気づき正面を見る。そこには・・・・


魔王様ルシフのニッコリスマイルがお出迎えしていた。


「ねえ、やるくん・・・ 額に虫が止まってるよ?」


そう言った直後であった。

ドゴーーーーーン!!!!!

床に亀裂が生まれていた。

赤い鮮血が染み出し、血留りを形成していく。

勿論、それは全てやる造の血であった。



「友よ、お前の罪を言ってみろ!」

その言葉が、次第にやる造の心に刻まれて行く。


・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・


「ごめんなさい。。。 生きていてごめんなさい! どうか赦してください!!」


その願いが聞き届けられるのは、まだ先。

無尽蔵にも思える程に続く、ルシフの体力と魔神の精神がすり減り始めた時の事である。


ただし、その場所にやる造が生存しているかは、、 定かでは無かった。

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