第5話 時計とパズル
・・・状況は頗る悪い。
やる造は薄暗い部屋に放置され、途方に暮れていた。
やる造が辺りを確認する。
そこには周囲をかろうじて照らす燭台の光。
それを支える豪奢なテーブルとイス。
場違いに思える家具の上に置かれた時計があるのみであった。
時計の刻む音が、やる造の心を次第に擦り減らしていた。
あれから随分と時間がたっている。
ルシフとは別の場所に離され、今は一人。
やる造にとってルシフと離された事は大きな痛手となっていた。
だって、この状況は・・・
ルシフはとてもいい子である。
初対面の印象こそ酷かったものの、
どういった思考が働いたのかは分からないのだが、
見ず知らずのやる造を助け、飯を与え、何も知らないやる造に知識を与えてくれたのだ。
そんな優しい子、、、
可愛くも美しく可憐な少女が・・・ 酷い目にあっているかもしれない。
・・・けしからん。
何という事だ・・・
きっとあれだ、弱みに付け込んであんな事やこんな事に・・・
けしからん!!!!
やる造はそん事を、
悶々と鼻息を荒げながら考え続けていたのだった。
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時間を少し遡る。
場所はルシフの小屋。
ルシフが謝りに行くと公言した時の事。
ルシフとやる造が謝りに行く為の相談を始めた時に、それは起こった。
使者が現れたのだ。
勿論、魔神様からの使者である。
フードで顔が隠れ表情こそ窺えないが、
やる造にも理解できる程に重厚なオーラを纏うその姿が、
ただ者ではないのだと直感できる貫録を、その男に与えていた。
素性と迎えに来た事を告げた使者は、それ以上を語らず手を差し出してくる。
有無を言わせないその態度と威圧に、ルシフが怯えていた。
やる造は自ずと前に出ていた。ルシフを庇う形だ。
それが、今できるやる造の精一杯だった。
手を差し伸べた使者に言葉で返事をする。
「今から行くところだった」
声が上ずってないか心配ではあるが発声は出来た。
舐められる訳にはいかないと、やる造は丹田に力を籠める。
震えを悟らせたくなかったのだ。
差し出した手を戻した使者は「掴まれと」と告げて、背を見せてくる。
彼は、用件だけ手短に伝えてくる寡黙な男のようだった。
話しがそれ以上進まないと見越して、やる造とルシフは指示に従った。
何れにしろ、その選択肢しか無かった。
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そして今に至る。
いや、少し大雑把すぎるか。
使者に掴まると直ぐに場所が変わった。
これが俗にいう空間転移というやつなのだろうか?
やる造は少し思案したが、時間は待ってくれない。
周りを見渡すとそこは暗がり。
近くで燭台が光を振り撒いているものの、辺りを完全に見渡す事は出来ない。
そこはとても暗い部屋だった。
使者はやる造に此処で待機する事を命じた。
ルシフは、、 連れていかれてしまったのだった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
暇である。
あれから椅子に腰を下ろし、時計と睨めっこの時間を過ごしていた。
悶々とする気持ちは時間の経過が沈めてくれていた。
やる造の名誉の為に言っておくが、別に何を致したという訳ではない。
やる造でもTPOはわきまえているのだ。
場所が違えば、或いは・・・それ以上は辞めておこう。
やる事がない・・・
事が全く進展せず、暗礁に乗り上げた感じだった。
時間の経過がやる造の気を散らし、今ではこの場所で寛げるようにまでなっていた。
なんというか、、、 どうにでもな~れ♡てな感じである。
これから起こる事、それはやる造にとって抗いようのない出来事なのだ。
そう悟れる位には、やる造にも知恵が備わっていた。
力が抜け余裕が出てくる。
するとやはり辺りが気になった。
暗がりで何も見えないのだ。
頼りになるのは燭台の明かりだけ、
そしてそれに照らされる・・・
そこで気づいた。
テーブルの上には時計以外にもモノが存在しているのだ。
それは何かの破片の様なもの。
それが幾つも存在し、テーブルの上に置かれていたのである。
やる造は徐に何かの破片に手をだした。
少し重みのある光り輝く破片。
もう一つとってみる。
同じ様に光り輝く高価そうな破片だった。
見比べてくっ付けってみる。
「お!」
くっ付いた!!
2つの破片が1つになり、先程より光を増している様にも思える。
これはパズルなのか?
そう気づいた時には動いていた。
やる造はテーブルにある破片を見比べ次々に組み上げていく。
破片は一度別の破片とくっ付くと離れなくなってしまった。
しかし気にしない。作業を続ける。
破片は大きさを増し次第に一つの形を成していく。
それは円柱状の筒。
そして最後のピース。
これで・・・
「ちょーーーーーーとまった!!!」
それは可愛い声だった。
女の子の声?そう思い辺りを見渡すやる造。
以前と暗闇に包まれた世界がそこに広がっていた。
「おーーーーーーーーーーい! 聞こえているのか?」
それは近くから聞こえた。
確認を取るも誰もいない・・・
「こっちこっち!」
声がする方を確認しているのだが、やはり誰もいない。
やる造の心に恐怖が芽生え始めていた。
幽霊?でもまさか・・・
いや、この世界ならありうるのか?
そんな思考をしていると、
「私だ! ここだここ!」
その声は、確かに時計から発せられていた。
不思議に思い「君なの?」と指で突いてみる。
すると「ちょ、おま! 何処触ってんだよ!!!! エッチ!!」
と時計から思わぬ反応が返ってくる。
やる造が口をあんぐりと呆けていると、
「それ!返せよ」と組み上げたパズルを取り上げられてしまった。
いや、厳密に言うとパズルは宙に浮いている。
今は吸い寄せられて、時計の前で浮遊していた。
やる造が呆気にとられる中、それは喋り続ける。
「お前、やるじゃん!
まさかここまで組み上げるなんて思わなかったよ!
いや~、マジ助かったわ!」
パズルと最後のピースが浮遊しながら組み合わさ・・・・らなかった。
「って、おい! なんだこれ・・・・
なんでハマらないんだよ!! おかしいだろ!
ああああもう!!!!」
イライラとする時計。
なかなか組み上がらないパズルに悪態をつき始めた。
やる造は頭を掻き、そして、
「貸せよ、俺がやる」そう言って宙に浮くパズルを奪い取り組み上げる。
パズルはあっさりと組み上がり、その光を限界まで輝かせた。
「うお、眩し!」やる造は我慢できず一度目を瞑る。
目を開いた時には円柱状のパズルは砕けて床に転がっていた。
それと予想にもしていない事が一つ起きていた。
モクモクとした雲状の下半身、それと筋骨隆々の上半身が特徴のオッサンが姿を現したのだ。
そして、、、
「我は、愚者のパズルの化身! さあ、我が問いかけに答えし者よ!
なれの願いをかなえてやろう!」
そう言ってきたのである。
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