第5話 時計とパズル

・・・状況は頗る悪い。

やる造は薄暗い部屋に放置され、途方に暮れていた。


やる造が辺りを確認する。

そこには周囲をかろうじて照らす燭台の光。

それを支える豪奢なテーブルとイス。

場違いに思える家具の上に置かれた時計があるのみであった。


時計の刻む音が、やる造の心を次第に擦り減らしていた。

あれから随分と時間がたっている。

ルシフとは別の場所に離され、今は一人。

やる造にとってルシフと離された事は大きな痛手となっていた。


だって、この状況は・・・


ルシフはとてもいい子である。

初対面の印象こそ酷かったものの、

どういった思考が働いたのかは分からないのだが、

見ず知らずのやる造を助け、飯を与え、何も知らないやる造に知識を与えてくれたのだ。

そんな優しい子、、、

可愛くも美しく可憐な少女が・・・ 酷い目にあっているかもしれない。



・・・けしからん。

何という事だ・・・

きっとあれだ、弱みに付け込んであんな事やこんな事に・・・


けしからん!!!!


やる造はそん事を、

悶々と鼻息を荒げながら考え続けていたのだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


時間を少し遡る。

場所はルシフの小屋。


ルシフが謝りに行くと公言した時の事。

ルシフとやる造が謝りに行く為の相談を始めた時に、それは起こった。


使者が現れたのだ。

勿論、魔神様からの使者である。


フードで顔が隠れ表情こそ窺えないが、

やる造にも理解できる程に重厚なオーラを纏うその姿が、

ただ者ではないのだと直感できる貫録を、その男に与えていた。


素性と迎えに来た事を告げた使者は、それ以上を語らず手を差し出してくる。

有無を言わせないその態度と威圧に、ルシフが怯えていた。


やる造は自ずと前に出ていた。ルシフを庇う形だ。

それが、今できるやる造の精一杯だった。

手を差し伸べた使者に言葉で返事をする。


「今から行くところだった」


声が上ずってないか心配ではあるが発声は出来た。

舐められる訳にはいかないと、やる造は丹田に力を籠める。

震えを悟らせたくなかったのだ。


差し出した手を戻した使者は「掴まれと」と告げて、背を見せてくる。

彼は、用件だけ手短に伝えてくる寡黙な男のようだった。


話しがそれ以上進まないと見越して、やる造とルシフは指示に従った。

何れにしろ、その選択肢しか無かった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そして今に至る。

いや、少し大雑把すぎるか。


使者に掴まると直ぐに場所が変わった。

これが俗にいう空間転移というやつなのだろうか?

やる造は少し思案したが、時間は待ってくれない。


周りを見渡すとそこは暗がり。

近くで燭台が光を振り撒いているものの、辺りを完全に見渡す事は出来ない。

そこはとても暗い部屋だった。


使者はやる造に此処で待機する事を命じた。

ルシフは、、 連れていかれてしまったのだった。



・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・


暇である。

あれから椅子に腰を下ろし、時計と睨めっこの時間を過ごしていた。


悶々とする気持ちは時間の経過が沈めてくれていた。

やる造の名誉の為に言っておくが、別に何を致したという訳ではない。

やる造でもTPOはわきまえているのだ。

場所が違えば、或いは・・・それ以上は辞めておこう。


やる事がない・・・

事が全く進展せず、暗礁に乗り上げた感じだった。

時間の経過がやる造の気を散らし、今ではこの場所で寛げるようにまでなっていた。

なんというか、、、 どうにでもな~れ♡てな感じである。

これから起こる事、それはやる造にとって抗いようのない出来事なのだ。

そう悟れる位には、やる造にも知恵が備わっていた。


力が抜け余裕が出てくる。

するとやはり辺りが気になった。

暗がりで何も見えないのだ。

頼りになるのは燭台の明かりだけ、

そしてそれに照らされる・・・


そこで気づいた。

テーブルの上には時計以外にもモノが存在しているのだ。

それは何かの破片の様なもの。

それが幾つも存在し、テーブルの上に置かれていたのである。


やる造は徐に何かの破片に手をだした。

少し重みのある光り輝く破片。

もう一つとってみる。

同じ様に光り輝く高価そうな破片だった。

見比べてくっ付けってみる。


「お!」


くっ付いた!!

2つの破片が1つになり、先程より光を増している様にも思える。


これはパズルなのか?

そう気づいた時には動いていた。


やる造はテーブルにある破片を見比べ次々に組み上げていく。

破片は一度別の破片とくっ付くと離れなくなってしまった。

しかし気にしない。作業を続ける。


破片は大きさを増し次第に一つの形を成していく。

それは円柱状の筒。

そして最後のピース。

これで・・・


「ちょーーーーーーとまった!!!」


それは可愛い声だった。

女の子の声?そう思い辺りを見渡すやる造。


以前と暗闇に包まれた世界がそこに広がっていた。


「おーーーーーーーーーーい! 聞こえているのか?」


それは近くから聞こえた。

確認を取るも誰もいない・・・


「こっちこっち!」


声がする方を確認しているのだが、やはり誰もいない。


やる造の心に恐怖が芽生え始めていた。

幽霊?でもまさか・・・

いや、この世界ならありうるのか?

そんな思考をしていると、


「私だ! ここだここ!」


その声は、確かに時計から発せられていた。

不思議に思い「君なの?」と指で突いてみる。


すると「ちょ、おま! 何処触ってんだよ!!!! エッチ!!」

と時計から思わぬ反応が返ってくる。


やる造が口をあんぐりと呆けていると、

「それ!返せよ」と組み上げたパズルを取り上げられてしまった。

いや、厳密に言うとパズルは宙に浮いている。

今は吸い寄せられて、時計の前で浮遊していた。


やる造が呆気にとられる中、それは喋り続ける。


「お前、やるじゃん!

 まさかここまで組み上げるなんて思わなかったよ!

 いや~、マジ助かったわ!」


パズルと最後のピースが浮遊しながら組み合わさ・・・・らなかった。


「って、おい! なんだこれ・・・・

 なんでハマらないんだよ!! おかしいだろ!

 ああああもう!!!!」


イライラとする時計。

なかなか組み上がらないパズルに悪態をつき始めた。


やる造は頭を掻き、そして、

「貸せよ、俺がやる」そう言って宙に浮くパズルを奪い取り組み上げる。

パズルはあっさりと組み上がり、その光を限界まで輝かせた。


「うお、眩し!」やる造は我慢できず一度目を瞑る。

目を開いた時には円柱状のパズルは砕けて床に転がっていた。

それと予想にもしていない事が一つ起きていた。


モクモクとした雲状の下半身、それと筋骨隆々の上半身が特徴のオッサンが姿を現したのだ。


そして、、、

「我は、愚者のパズルの化身! さあ、我が問いかけに答えし者よ!

 なれの願いをかなえてやろう!」

そう言ってきたのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る