第3話 天魔《せかいのてき》

大昔に神を怒らせたモノがいた。

些細な事がきっかけだった様なのだが、神はそのモノを許さなかった。

神にその自覚は無いのだが、怒りは神を愚行へと走らせる。

天に歯向かいし魔として、そのモノを天上から追放したのだ。


そして、神はそのモノに烙印を捺した。

烙印レッテルを捺されしモノ。

天上より追放された異端。穢れしモノ。赦されざる悪。

様々な表現により侮蔑の対象、忌み嫌われる存在としてやり玉にあげ、絶対悪として晒し上げたのだ。


それが、  天魔の始まり。



しかし、事はそれで終わらなかった。


天魔。

天上から追放され、神の庇護を受けず消えていくだけの存在。侮蔑の対象。

それが当初の評価。


だが、天上からの追放。神の庇護の消失。

それらは神からの解放を意味していた。


むろん、大多数のモノに開放など意味はない。

むしろ神の恩恵が失われ、地獄を味わう事になる。

なるのだが、、  



敵が現れたのだ。  神の敵。


解放は可能性を天魔に与えていた。

神の庇護を受ける世界、その理を外れ顕現する力を与えてしまったのだ。


その後に起こるのは、もちろん戦争。

力を持つ者同士の激しい戦い。


そして最後に勝利したのは、、、 神の側だった。

だが、それも辛うじてのもの。

天魔討滅には至らず。封印という形で終わりを迎えたのである。



話しにはさらに続きがある。

天魔が封印後も天上延いては世界に悪影響を及ぼし続けたのだ。

それは理を外れてしまったがゆえに発生した可能性。

理の上で成り立つ封印など、天魔の前では意味を成さなかったのである。


神は慌てて世界を創る。

天魔を押し込める為の世界を。

そして、その世界に神意に背きし存在を全て送り込んだのである。


後に言う魔界。または地獄。

人々からはそう想像され恐れられる世界の誕生であった。



天魔。

それは天に歯向かいし悪。

せかいを滅ぼしうる可能性てき

そして、今では地獄に堕とされたモノに送られる総称となっている。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「って、やるくん聞いてる?

 ねえ、、 なんで? なんで寝てるのよ!!」


華奢な腕でやる造の胸ぐらを掴み、揺さぶるルシフ。

必死に講義したのに受講生ときたら幸せそうに寝息を立てていた。


「ふわぁ~ああん。 ん? 話し終わった?」


寝ぼけ眼からの、この態度である。



やる造は眠い目を擦りながら前方を確認する。

そこには、、、


ルシフが立っていた。

ルシフが顔を引き攣らせ、ぴくぴくと痙攣している。

瞳に宿る光は緩やかに暗さを帯びはじめ、次第にその色を失っていった。

体からは黒いオーラが漏れ出し此方に蔑む目を向けてくる。

掴まれた胸倉辺りからミシミシと危険な音が漏れ出していた。


やべぇ・・・

やる造は思う。魔王が降臨したと。

雰囲気で言えば初対面のルシフの方がまだ好感を持てる。

そんな形相であった。


「あの~、 ルシフさん?」


冷や汗を垂らしながら声をかける。

しかし、その問い掛けに返る言葉は無かった。


ルシフさんの瞳が雄弁に告げている。

「屑が話しかけるな!」と・・・


あ、ははは。

もう笑うしかなかった。

そして、、、


「やるくんの馬鹿-------------------!」

お約束の様な声ともに振るわれる鉄拳。

ギャグ補正があるなら、顔面が陥没したのではと思える程の衝撃。

それも胸ぐらを掴んだままの滅多打ちである。


この日、俺はとても大切な事を学んだ。

ルシフを怒らせてはいけないと言う事。

それともう一つ、話を聞く事の重要性だ。


ん?何の話をしていたんだったか???

重要な講義を受けていた筈なのに・・・ その内容が思い出せない。

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