第2話 ルシフ
日が傾き夜の帳が下りはじめた頃。
水鏡は意識を取り戻した。
近くからは、すきっ腹を擽るいい匂い。
それと包丁がまな板を叩く音が響いていた。
―――トントントン!
小気味よく流れるその音に、鼻歌が色を添えていた。
音程がとれたそのリズムは、彼女のオリジナルなのだろうか?
とても楽しげで明るいメロディーが、彼女の機嫌を表している様に思えた。
・・・どういう事なの?
それが目撃した光景に対する率直な感想である。
料理を作る少女は、水鏡の意識を刈り取った少女とは別人なのだろうか?
いや、あの子である。可愛いし、美しい。
しかし、水鏡が目を覚ました事にも気付かずに料理を続ける少女からは、初対面の時に見せた暗く蔑む様な表情を浮かべる姿を想像できない。
というか無防備にも程がある。
意識が戻った水鏡の気配に気づく様子がない。
慌ただしく、炊事場の様な場所と暖炉に設置された鍋を行ったり来たりしている。
どうやらスープを作っている様なのだが、その挙動の一挙手一投足がとても可愛く思えた。
そんな彼女の料理もいよいよ大詰めのようだ。
鍋をかき回し味を確認。そして調節。
猫舌なのかフーフーと冷ますその姿は年相応の幼さを垣間見せていた。
そして、
「フン、フフ、フーーーん フフフフフ。
さあ、これで最後! 美味しくなーれ♡」
そう言って振りかけられる隠し味。
ああ、うん、、何というか。いいんじゃないかな・・・
そう思いながらも、「プッ!」水鏡は思わず吹き出してしまった。
だってギャップにも程があるだろ?
少女はこちらを向いて固まっていた。
見る見るうちに顔が赤くなり、わなわなと震えだす。
「み、みてたの?」
その言葉に即答で返す。
勿論、「みてた」である。
ボフ!そんな擬音と共に頭から湯気を出す少女。
顔はさらに赤くなり涙目で此方を見詰める。
やりすぎただろうか?と水鏡が思った時には、もう遅かった。
パチーン!と一発ビンタをもらい、小屋から締め出されてしまったのである。
その後少女の機嫌が直り、小屋に入れてもらうまでは暫しの時間を要した。
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少女の名前はルシフ。
ルシフの機嫌が直り小屋に招き入れられるとそこにはスープとパン。
質素ではあるが食事の用意がされていた。
有難く頂戴しながら、軽い自己紹介。
少女は照れながらも「ルシフ」と名乗り水鏡はその名を知ったのだった。
水鏡もこのタイミングと名乗りを上げようとしたのだが・・・
「知ってる! 天魔
ルシフが事も無げにフルネームで答えた。
「フッ」っと失笑をオマケする性悪さである。
「知ってるよ! やる造くん これ地雷なんだよね? フフフ」
その通りだった。
これまで水鏡やる造が生きてきた人生において、全ての苦労の切っ掛けがそこに在った。
やる造。
どうして「やる」ひらがななのか、勿論意味がある。
昔流行った某アスキーアートのキャラクターからとった名前らしい。
そして、そのままだと芸がないと「やる造」にしたそうだ。
やるぞーーーーーーー!ってな感じで響きがいい。そういう理由らしいかった。
いわゆるキラキラネームと言う奴だ。
その後、名字とのギャップもあり水鏡やる造は・・・苦労をしたのだ。
「なぜ知ってる!」
やる造が声を荒げる。
知られたくない過去は誰にだってあるのだ。それを知られてしまったかもしれないのだ。
「
やるくんが森の命を食べちゃうから・・・私もつい・・・
ごめんなさい。 強くし過ぎて、私やるくんの心を見ちゃった」
バツが悪そうに語るルシフ。
耳慣れない単語を聞かされるやる造。てか、やるくんって・・・なに・・・
言葉が詰まったやる造に再びルシフが語りだす。
「やるくん。
あのね。
実は、、、ね。
私も、、、 天魔なんだ」
その声音がとても寂しそうに感じて、やる造は口を開けなかった。
羽人間達がむせび泣く姿、それに寂しげな表情をしたのを思い出す。
その姿が、、 今のルシフと重なって見えていた。
天魔・・・よくわからないけど。
それについて詳しい話を聞く必要が、やる造にはあるようだった。
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