第15話「生徒会総戦挙終了です」

「これで五十八枚か。結構集めたな……」

「うむ! 天晴見事な活躍ぶりじゃな! 鬼気迫る活躍ぶりじゃ」

 日も傾き始めた頃、校内で戦挙に参加している生徒が減ったなか、総一郎は遮二無二構わず手当たり次第に、詩織の教えてくれた方法を使い、半ば強引な形で決闘を申し込んでコインを増やしていた。なかには好戦的な生徒もいたが、それでも総一郎を見るや否や逃げ出そうとする生徒のほうが実際には多かった。

「まぁ、これだけ貯めれば十分だろう。もうそろそろ終了の時間になりそうだしな」

 一息つき、大きく伸びをする。午後の一件から休まずに戦い続けてきたため、疲労の色が見えてきている。

そんな総一郎の瞳が、こちらへと近づいてくる一つの人影を捉える。遠くからでも自分目掛けて歩いて来るのが分かった。そういう気配を総一郎は感じていた。

「よぉ、噂の一年生君」

 目の前にやってきた男子生徒は、やはりというか、予想通り話しかけてきた。

「何か用?」

「ご挨拶だな、この俺がせっかく話しかけてあげたんだ。もっと喜んでもいいだろう」

「は?」

「この伊集院天哉様が、話しかけてあげたんだ。何か言うことがあるだろう」

 こいつは一体何を言っているのか、一つも理解できなかった。傲岸不遜な奴というのが第一印象だ。

「ふん、あまりの嬉しさに声も出ないか。まぁいい」

「……」

「あの兜を倒したそうだな。貴様の実力が本物かどうか、俺様が確かめてやろう」

「……」

「どうした? 早く構えたらどうだ? それとも俺様に恐れ戦いたのか?」

「うるさい」

「なんだと!」

「さっきからベラベラと何様のつもりで喋ってるんだよ」

「何様とはなんだ、何様とは。この俺様を知らないというのか!」

「知らん。初対面の変な奴のことなんか知りたくもない」

「なに! この桐生高校のエースである俺様、伊集院天哉様を知らないというのか!」

「エース?」

 聞きなれない単語を耳にし、反応する総一郎。

「エースとは! 全生徒のなかでも特に優れた生徒のみが就任する唯一無二の存在! 至高にして最高、そして最強である生徒のことだ!」

 身振り手ぶり激しく動きながら自分を誇示する天哉。

(気持ち悪い奴じゃのう。いや、キモい奴とも言えるのかのう)

 アカが嫌悪感を抱きながら話しかけてくる。

(同感だ)

「さあさあ! どうした! 早いところ剣を抜いて戦おうじゃないか!」

 いつの間にか自分の剣を抜いていた天哉は切っ先をこちらに向けてきたり、振り回しながら自分がかっこいいと思うポーズの数々を決めている。それを見ているだけで段々と腹が立ってきた。

(ワシ、こいつ苦手じゃ)

(激しく同感)

(こんな奴と戦うのか、総一郎よ。バカがうつるぞ)

(勘弁してくれよ)

 総一郎が思ったその時、生徒会総戦挙終了の鐘が学校中に大きな音を鳴り響かせた。

「なに! もうそんな時間か!」

「残念だったな。アンタと戦う理由が無くなっちまった」

 皮肉をたっぷり込めて天哉に言う。今にも、ぐぬぬと言いたそうな顔をしている。

「ぐぬぬ……。ふん、命拾いしたな。噂の一年生」

 考えていたことをそのまま言ってきたことに思わず吹き出しそうになる総一郎。目の前にいる奇々怪々な天哉の言動や行動は理解出来ないし、したくもなかったが、少しだけ先程の言葉が心残りになっていた。

「なぁ、アンタ」

「……」

 無視したことへの仕返しなのか、呼びかけに応じようとしない天哉。

「伊集院だっけ? 聞いているのかよ」

「……」

「……おい、エース」

「ん? なんだ? 噂の一年生よ」

 面倒くさい性格の奴だな。それが率直な感想だった。こんな奴が本当にこの学園で一番強い生徒なのかと疑いの目で見つめながら総一郎は思ったことをそのままぶつけてみた。

「アンタがこの学園で一番強い生徒って本当か?」

「無論だ。ゆえに俺がエースなのだ」

 自信満々に答える天哉。その顔は真剣そのものだった。虚言でもなければ妄言でも無いのだろうと総一郎は感じていた。

 この第三区に来てから、愉しいと思ったことが一つだけあった。それが、今日の兜との決闘である。久しぶりに全力で戦うことの出来た相手よりも強い相手が目の前にいる。そんな相手と戦いたいと思うのは武術家として当然のことだ。

しかし、生徒会総戦挙が終わった今、優先して考えるべきことが多い。果たして今持っているコインで役員になれるのか。結衣の残滓はどうなっているだろうか。アカにもさっき諭されたばかりだ。物事の優先順位に私情を挟むべきではない。

「本気で戦ったことはないが、あの時政も認めてくれているからな。ということは、俺が最強で間違いない」

 そう言って天哉は来た道を帰って行った。その一言の真偽を確かめたかったが、拳を握り、堪える。

時政というのが前期の生徒会長を務めていた生徒の名前だと気付いたのは、天哉の背が完全に見えなくなってからだった。

 こうして、色々なことが起こった総一郎の初めての生徒会総戦挙は幕を閉じた。 

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