第6話「異変が起こりました」

 あの夜から一週間が経過しようとしていた。あれ以降、鬼の出現は少なくなっているみたいで、総一郎くん曰く一人でも対処出来るくらいに減ったみたい。千秋ちゃんはなぜか残念そうにしていたけど、子供だから危険だと言う総一郎くんの言い分も分かるし、何よりこれ以上被害者が増えないのは良いことだと思う。 それに伴ってか、学校でも事件の噂話はめっきり聞かなくなった。代わりに、ある行事の話で学校中は大盛り上がりしている。

「あと一週間で戦挙だな。どうよ意気込みは?」

 もちろん、話題大好きな雄二がこの話をしないわけが無かった。

「戦挙って、私たちにあんまり関係ないじゃん」

「戦挙ってなんだ?」

 ひとり、当然みたいに話題に乗り遅れている総一郎くん。

「総一郎。もしかして、学園戦争も知らないのか?」

「なんだか物騒な名前だな」

 そのお婆ちゃんみたいな反応を見る限り、本当に知らないみたい。中学生の時から学校で嫌というほど教わっているはずなんだけど。

「本当に何も知らないんだな。よしわかった、俺が説明してやろう。戦挙っていうのは正式名称『生徒会総戦挙』で毎年この時期に生徒同士が戦って生徒会役員を決める学校行事だ。で、決まった役員を筆頭にして他校と一年間を通して戦うのが『学園戦争』だ。総一郎のことだから、なんでそんなことしなくちゃいけないのかとか思っていると思うけどな、高校卒業後の進路なんて生徒会役員になっているかとか、学園戦争でどれだけ功績を上げたかで大体決まるからな。ちなみに生徒会の定員は生徒会長、副会長、第一から第三会員の五人。特例のある学校もあるけど桐生は五人だったな」

 総一郎くんに質問させる隙きを与えず矢継ぎ早に話す雄二。言っていることは合っているから私も特に口を挟まないでいたけど。

「つまり、みんな生徒会役員になりたくて頑張っているんだな」

「まぁそんなところだ。俺は総一郎になら一年生で役員になれる可能性があると思うんだけど」

「興味ない」

 あっさりと一言。やっぱり本人は気づいていないみたい。学校の話題のなかに総一郎くんのことも少なからず含まれているのを私は知っている。

 身体測定のことと、決闘で圧勝したことが主な原因。身体測定の結果なんて全校生徒が注目しているし、決闘していたことも噂が広まったのもあっという間。

「興味がなくても役員にはなっておいたほうがいいと思うぞ!」

 雄二がこんなこと言うのにはたぶん理由があるんだろう。なんとなく分かるけどあんまり良いことじゃないと思うけどな。

「落ちこぼれみたいな俺がなれるわけないし、将来のことなんてまだ早いだろ」

 そう言った総一郎くんは本当に興味がなさそうだった。転校してきた理由を知っているから、やっぱりそんなことしている場合じゃないんだ。

「なんだよー、せっかく総一郎が役員になれたら補佐にしてもらおうと考えていたのに」

 やっぱり、それが目的だったんだ。

「?」

「えっとね、生徒会役員は『補佐』って言って役員を色々サポートする人を選べるの。一人だけつける人もいれば何十人とつける役員もいるけどね」

「なるほど」

 その一言で総一郎くんも雄二の話の意図が分かったらしい。役員じゃなくても補佐なら、学園戦争の代表者戦とかでも出番が貰えることもあるから、普通の生徒よりは功績を上げられる可能性が出てくる。雄二はそれが狙いだったんだ。他力本願なのはどうかと思うけど、それだけ必死になるのも分かる。     

 一年生と二年生は不安と期待を抱えながら、三年生は最後のチャンスになる生徒会総戦挙。私もなれるなら補佐にでもなってみたいけど、一年生のうちになれるなんて稀だし総一郎くんの言う通りまだ将来を考えるのも早い気がする。今年の戦挙の目標はとりあえず生き残ること。一年生なんだからまだチャンスはあるし、小さい目標かもしれないけど、私なりに精一杯頑張ってみることにした。




 お昼休み。中庭のベンチでサンドウィッチを頬張る。ここは静かなところで私にとってのお気に入りのスポット。たまには二人と別行動しないと変な噂とか流れちゃうかもしれないからね。澄んだ空気と柔らかい風。ありきたりな表現かもしれないけど、ここにはそれらを感じることが出来るのもお気に入りになっている理由。

「ちょっと! いい加減離してください!」

 静かな中庭に響く女子の甲高い声。そちらに目を向けると男子数人に囲まれている女子が一人。腕を掴まれているらしく必死に振りほどこうとしている。

「いいじゃねえかよ、ちょっと俺達と楽しくお話しようぜ」

 いつの時代かと思わずツッコミをしたくなるセリフを吐くのは見た目からも容易に想像できそうなガラの悪い男子。周りにいる生徒も騒ぎに巻き込まれたくないから見ないようにしている。

「ですから、さっきから何度も言っていますけど、私はあなた達とお話することなどありません!」

「そんな堅いこと言わずにさぁ」

 ヘラヘラと笑う男子。他の二人も同じ様に下卑た笑い方をしている。他人事なのに、なんだか無性に腹が立ってきた。面倒なことになりそうなのに、何故だか昂ぶる気持ちを抑えきれない自分がいる。

「いいから! 来いよ!」 

「きゃっ!」

 男子が更に強く腕を引っ張る。その反動で女子は体制を崩し、地面に膝をついてしまった。なんて暴力的な男なんだ。

それをみて、わたしのなかのいかりは頂点にたっした。いつしか、足は自然と男子のもとへと進んでいた。

 むかつく。いらつく。ゆるせない。あいつだけはぜったいに。じぶんのことじゃないのに、じぶんことのようにいかりがわきあがる。

 たすける?そんなことより、あいつをやっつけなきゃ。あいつを、こらしめなきゃ。

「あん? なんだてめぇ?」

「やめてあげなよ、いやがっているでしょ?」

「ああ? お前には関係ないだろ。つーかよく見ると可愛いじゃねーか。お前が俺達の相手をしてくれるのかな?」

 そのことばで、またげひんにわらいだす。ひどくみみざわりだ。

「なんとか言えよ、シカトすんなよ」

 てがのびてくる。わたしをつかもうとしている。のばしてきたうでをぎゃくにつかんでやる。おもいっきり、ちからをいれてやる。おんなのこをきずつけるこんなうでは、おれちゃえばいいんだ。

「っ! いてててて! 離せよ!」

「あんただってはなさなかったでしょ」

 みるみるうちにだんしのかおがくつうでゆがむ。みていて、そうかいだった。

「ふざけんな! はなせ!」

 だんしはぎゃくのてでなぐりかかってきた。じぶんがされていやなことをされたらだめだっておしえてあげなきゃ。

 なぐられるよりはやく、がんめんをなぐってやった。はなをおったかんかく。へんなほうこうにまがっている。ざまあみろ。

「おい! なにしてんだよ!」

 ほかのふたりも、どうざいだ。なぐってやる。いっぱつじゃたりない。てっていてきに、なぐって、にとどこんなことできないように、こらしめてやる。





~あとがき~


 第六話です。まず最初にごめんなさい。あえて途中から変換していません。偉そうに何言っているんだと思われるかもしれませんが、今の結衣の状態を表すのにはひらがなが適しているのかと思いまして変換をしていません。読みづらくてもここまで読んでくださってありがとうございます。

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