第9話
家に帰る。その頃にはほとんど明け方、四時近くなっていた。
玄関の電気が付いている。おかしい、確かに切っていったはずなのに。そして玄関の鍵も開いていた。
中に入る。こんなことをするのはきっとアイツくらいだ。
リビングの明かりをつけると、ソファーにぐったりと六条千沙都が横たわっていた。すぐに飛び起き、見回すと僕の顔を見る。立ち上がり、つかつかと歩み寄ってくる。
僕の顔をにらむと思い切り頬を叩いた。
「手に血がついてる。雨にも濡れているし、とりあえずシャワーを浴びようか」
僕を浴室へ連れていく。そしてドアを閉めた。着替えを取りに行ったのだろうか、二階へ上がっていく足音が聞こえる。
言うなりになってシャワーを浴びた。血を洗い流し、シャワーで温まるとどっと疲れが出てくる。早く寝たい、今は千沙都のことなどどうでもよかった。
脱衣所のドアが開く。
「着替えはここに置いておくから」
返事はしない。ドアが閉まる。僕もシャワーを止め、風呂場を出た。
服を着替え、リビングに行く。そこで千沙都は黙って座っていた。
どうしようかと気まずい空気が流れるが、それを千沙都が破る。
「こんな遅くにどこに行っていたの? 全身びしょぬれで。そんなに大事な用事があったの?」
「話すようなことは何もない」
「そんな言い方ないでしょう!」
千沙都の怒声が響く。思わずたじろぐ。
「隼人は前に比べて感情が出るようになった気がする。だけど今、何をしているのかわからない」
「関係ないだろう」
「あまり褒められたことをしているとは思わない。第一夜中に出歩く必要があるなんて、普通じゃない」
「普通じゃないことがそんなに悪いのか」
「問題はそこじゃない。……誰かに会いに行ってるんでしょう?」
「……」
「ほら、答えられない。ということはあっているということね。隼人は昔から優しかったし正直だった。でも今は何? どうしちゃったの? 毎晩毎晩外をふらついて。その人はきっと隼人にいい影響を与えない。最近の隼人はおかしい。何かに取憑かれたみたいで……、ねえ、本当に隼人なの?」
「僕が僕以外の人間になると思うか? 何を当たり前のことをきいている」
「そうよね、それなら尚更、隼人はもとに戻らなくちゃならない。前は今より苦しそうだった。だけど優しかった。苦しみまで元に戻れなんて言わないけど、もっと優しくいられるまま、苦しみを取ることはできないの?」
「そんなこと興味はない。僕は今のままでいいんだ」
「嘘。現に隼人はとても疲れている。何時間寝ているの? 日中ずっと寝ているでしょう?」
「分かっているなら帰ってくれ。僕は寝たいんだ」
千沙都はリビングから出ていこうとする。
「私、また来るから」
強い語気だった。今まで泣いて懇願していたのとは違っていた。
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