第226話 ■千織の転生 (タイ編 その29)
■千織の転生 (タイ編 その29)
秀一は50mほど後方に、こちらに真っすぐに飛んでくる未来の姿を捉えた。
時々、薄い雲が凄いスピードで通り過ぎ、その度に未来の姿を見失う。
あと40m、 30m、 20m・・
体を機体から外に乗り出し、左腕をこれ以上もう伸ばせないという限界まで差し出す。
あと少し・・未来の手までの距離は、1mも無い。
次の瞬間、ジェット機のスピードがほんの僅か落ちた。
この距離だが、時速10Kmほどの減速で、未来は恐ろしい速さで、ジェット機の機体に接近する。
ガッ
未来は後部ドアの縁に激しくぶつかり外側に弾かれる。
が、秀一が執念で未来の左腕を掴んだ。
秀一の体も一気に機外へと引きずり出されるが、胴体のベルトを近くの座席のシートベルトにつないであったため、何とか未来を機内に引き込むことに成功する。
「未来ミク、大丈夫か!!」
「秀一、ありがとう。 ドアにぶつかった時は、もうダメだと思って思わず目を瞑りました。 怖かった・・」
「右腕を怪我したんだね?」
「はい。 肩から下が動きません。 フレームが歪んでしまったようです」
「これからって時に、右腕が動かないのは痛いな」
フレームの歪みは、大型の工具が無いと修理は不可能だし、一度歪んだものは極端に強度が落ちてしまう。
「交換パーツや修理機材も無いから、応急処置しか出来ないよ」
「はい。 すみません」
「僕らを救ってくれたのに、未来が謝る事は無いよ」
「わたし・・人を殺してしまった・・」
未来は顔を真っ青にして俯いてしまった。
未来は秀一と一緒に暮らしているため、秀一が思いつく度、日々改良されていく。 顔色も表情や心情と連動し微妙に変化するのだ。
「その事なら大丈夫。 あの後、パイロットは緊急脱出して、パラシュートも開いたし、今頃は海上で救難信号を発信してるだろう」
「ほんとうですか?」
「ああ、ほんとうだよ。 そんなに心配なら、救難信号のチャネルに受信周波数を合わせてみたらどうかな」
「よかった・・・」
未来の目から涙が流れる。
「兄さん! 未来さん!」
鋭二が操縦をオートパイロットに切り替えて、客室に駆け込んで来た。
「ああ。 未来さん・・無事で良かった。 てっきりこの機体に接触してしまったかと思って焦ったよ」
「鋭二。 実はぶつかってたんだよ。 間一髪で機内に引っ張り込めたんだ。 まさに奇跡だよ」
「えっ? そうか・・じゃあ、さっきの衝撃は・・」
「ああ、未来の右腕がやられた」
「ええっ! 未来さん、ごめん。 僕の腕が未熟だったために・・」
「いいえ。 鋭二さんの操縦だったからこそ、今わたしは、こうして此処に戻って来れたんです」
「そうとも。 お前は優秀なパイロットだよ、鋭二」
「あ゛ーーー でもまだ手の震えが止まらないよ!」
鋭二は、震える両手を見つめながらも、だいぶ落ち着いてきた様子ではある。
「それにしても、まさか戦闘機と行き成りドッグファイトになるとは思わなかったな」
「ほんとうだね。 国際組織と言うより、まるでどこかの軍隊と戦争しているみたいだ!」
「これから先が思いやられるな・・」
一難を乗り切ったが、3人の表情は益々険しいものになっていた。
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