第227話 ■千織の転生 (タイ編 その30)

■千織の転生 (タイ編 その30)


ジュディとジェイソンを懲らしめた後、ミキは陽子を連れてソンティの診療所に戻って来た。

「それで千織さんは?」

目の前に横たわる千織の体を見ながら、陽子はミキに霊体の方の千織がどうなったのかを訊く。

「さっきは、そこのドアの前に居たんだけど・・ こう、暗い顔して・・」

ミキは、両手を胸の前に揃えて、オバケの格好をして見せる。

「そうですか。 今は気配は感じませんね」

陽子は、ミキの仕草をスルーする。 ドSだから決っして甘やかさないのだ。

「そうなんだよ。いったい何処にいっちゃったんだろう?」

ミキも陽子のS攻撃に早くも順応し始めている。


ミキは復活の神である。

故に霊体となって浮遊している千織も、本来であれば西の神の管理下になければならない。

「秀一お義兄さん達は、もうこっちに向かってるって連絡があったし、千織も早く見つけておかなきゃね」

「でも、こうして改めて見ると、メカの塊って感じですね」

陽子は銃弾の痕の穴から興味深そうに中を覗き込んでいる。

人と違って、血が出ていないので、それほど凄惨な感じを受けないのは幸いである。

「ふ~ん。 陽子さんってもしかしたら大学は理系だったの?」

「わたしですか?」

「そう。 他に誰も居ないじゃん」

「わたしは、大学では学んでいません」

「じゃっ、あたしと同じ高卒?」

「いいえ。 いわゆる義務教育を含めて、日本の学校では学んでいないのです」

「へ~え。 帰国何とかってやつかぁ・・・」

「ふふっ」

「えっ? 何、その笑い?」

「な、なんでもないです」

珍しく陽子が慌てて、顔の前で大きく手を振る。

「なんか、怪しいなぁ・・・」

まあ、陽子は謎に包まれていた方が面白そうではあるのだが。


・・

んっ?

ミキが遠くから近づいて来る、クルマの音に気付く。

「ひょっとしたら、また奴らかも知れない!」

一瞬、二人に緊張が走るが、すぐに陽子が安全宣言を出す。

「大丈夫です。 あのクルマには、鋭二さんたちが乗ってるようですよ」

「えっ? えっ? なんで鋭二さんが?」

遠くからモウモウと砂塵を舞い上げ、一台のランクルが診療所を目掛けて走ってくる。

数分後、ランクルは診療所の前で、ゆっくり停車した。

「すっげー このクルマ、まるで装甲車みたい」

ミキが感心の声を上げてクルマに駆け寄り、グルリと周りを見て歩く。

ドムッ

重たいドアが開くと、鋭二、秀一、未来の3人が続けて降りてきた。

「ミキっ! どこも怪我して無いかい?」

「うん。 平気、平気!」

鋭二の心配をよそに、ミキはクルマの装備の方に夢中だ。

「この装甲は、ロケットランチャくらいなら弾き返せるんだ。 その代わり最高速度は70kmくらいしか出ないけどね」

ミキがあまり熱心に見ているので秀一が説明してくれる。

「ふ~ん。 なら対戦車地雷ならどう?」

元男の子のミキは、こういう事への関心は高い。

「もし踏んでしまっても乗員は安全かな? もちろんタイヤや駆動系は無事には済まないだろうけどね」

「うん。 駆動系まで頑丈に作っちゃうと重すぎて動かなくなっちゃうもんね」

「まぁ、このエンジンだと、これが限界かな。 燃費とかもあるしね」

・・・・

「ミキさん。 ご無沙汰してます」

ミキの興奮が少し鎮まったところで、未来ミクが声をかけた。

「あっ、未来さん。 元気だった? ・・・って、ど、ど、どうしたの、その腕?」

通常では有り得ない形に曲がっている未来の腕を見て、ミキは大声を上げる。

「こちらに来る途中で、ちょっとしたアクシデントがあって・・・」

「大丈夫なの? 痛くない?」

「センサーで損傷の大きさは把握していますけど、わたしには痛覚はありませんから・・」

「げっ! アクシデントって・・ まさか・・もうアイツらと?」

「そう。 行き成り戦闘機とドッグファイトだったんだよ」

ミキに構ってもらえなかった鋭二が不満そうに会話に割り込んで来る。

「せ、戦闘機?」

「そう! しかも2機だぜ。 1機は未来さんが撃墜したんだ。 右腕はその時に・・」

「ええっーーー! どうやってーーー?」

「まぁ、それは追追説明するとして、千織ちゃんはどう?」

秀一がランクルから大きなケースを下ろしながらミキに訊く。

「ああ、そうだ。 千織は、頭と胸とお腹の3箇所を撃たれてるの。 中の一番奥の部屋に寝かせてあります」

「ある程度予想はしてたけど、3箇所もか・・それで全く動かない?」

「ええ。 3箇所とも弾が貫通してますから」

「そうか。 この娘たちは限りなく人に近く創ったんだ。 3発も撃たれたら動けないのは当然だったね」

秀一は一瞬、悲しそうな表情を浮かべたが、未来と大きなケースを持って処置室の中に入って行った。

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