第225話 ■千織の転生 (タイ編 その28)

■千織の転生 (タイ編 その28)


「あと、ワンチャンスね」

未来もすぐにジェット機の後を追って、高度を下げて行くが、その距離は随分離れてしまっていた。

背中の小型ジェットユニットの燃料も、後2分しか持たないだろう。

もし、それまでにジェット機に追いつけなければ、高度2000mから海面に激突し体は大破してしまう。

未来の電子頭脳は、HTV並みの精度で追尾計算を行っていた。

計算上では、2秒足りない。

未来のブルーの瞳がゆらゆらと揺らぐ。

『後は、秀一を信じよう』

このジェットユニットも秀一が設計したのだ。 燃料も秀一に言われた容量と燃費で計算した。

秀一は、燃料が後二分しか持たないのも、帰還が困難な状況なのも十分理解している。

一方、ジェット機内では、秀一がこの事態を何とかしようと焦っていた・・・

「鋭二! 未来が追いつけない。 速度を少し落とせないか?」

秀一は、機内のインターホンを使って操縦席の鋭二と通話する。

「兄さん、この速度で飛んでいると少しの減速でも、未来さんはこの機体に激突するかも知れないよ!」

「それは十分承知している。 でも未来の能力なら何とか回避できる可能性がある」

「でも・・・」

「構わない。 このままなら、どうせ燃料切れで墜落してしまう!」

「わかった。 やってみるよ」

鋭二は、スロットルを少しずつ緩めて行く。

ほんの数秒なのに掌にびっしょり汗をかく。


その汗の所為で、スロットルが僅かに滑ったような気がした。

次の瞬間。

ゴッ

機体に何かがぶつかったような僅かな衝撃が伝わった。

『ま、まさか・・ そんな・・・』

鋭二が握りしめた操縦桿がカタカタ震えた。

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