第220話 ■千織の転生 (タイ編 その23)

■千織の転生 (タイ編 その23)


大沢家の自家用ジェット機は、燃料が満タンに入れられた状態で、駐機場に待機していた。

そこに向かって真っ白なポルシェが1台、物凄いスピードで近づいてくる。


そう、乗っているのは、秀一と未来ミクの二人である。

秀一はニューヨークからタイまで、大沢家の自家用ジェットを飛ばしてもらうよう鋭二に頼んだのだ。

秀一のもとには、千織のAIが判断し直前までの蓄積された情報が送られて来ていた。

それらの情報(映像やその他の情報の分析結果)から、おおよその状況を推測し、未来にも特別な対策装備をしてきた。

千織のロボットの体は、少なくとも頭部、胸部、腹部の3箇所を損傷して動作停止状態である。

特に頭部は、カーボンファイバ素材で間にはチタン合金も入っており、人間の頭骨よりも数倍の強度がある。

それが損傷したのだから、銃のようなもので至近距離から撃たれたと考えるべきであろう。

動作停止前に、サイレンサーの発射音らしき音も記録されているが、頭部損傷後から完全停止までの情報は欠落している。

おそらく頭部の通信装置がやられたのだろう。


千織の体は、最新テクノロジーの固まりであり、それが第三者の手に渡れば大変なことになる。

もし軍事利用のために大量生産でもされたら、それこそ世界が滅びてしまうだろう。

何としても誰よりも早く回収し、修理する必要があった。

幸いな事に動作が停止したのは、病院らしき場所であり、犯人が千織を持ち出した形跡も無い。


秀一と未来は、ジェット機の荷物室に大きなトランクを3つ詰め込み、自分たちもタラップを駆け上がった。

「兄さん、思ったより早かったじゃない!」

「鋭二、お前・・?」

「近頃は出番が無くてねぇ・・・」

「でも、お前は会社の方が忙しいだろう?」

「そうでもないさ。 こいつの操縦免許だって取ってたんだぜ」

「それじゃあ・・」

「今日のキャプテンはオレだよ!」

「おいおい。 無事にタイまで着くんだろうな?」

「まぁ、コイツはほとんど、オートパイロットだから安心していいよ」

「こんな事になって、すまん」

「オレに謝る必要なんかないよ。 千織ちゃんも大変だけど、ミキの方がもっと心配だしね」

「だけどミキさんには、あの陽子さんが付いているんだろ?」

「いや。 それが逸れたって連絡があったんだ。 どうやら殺し屋に狙われているらしい」

「やっぱりそうか。 あの渋谷の時の一味なんだろう?」

「うん。 思ったより大きな組織で、こっちも迂闊に手出しは出来ない」

「そうか・・・」

「ああ、裏ルートの交渉も行き詰まってる」

「まずいな」

「ああ・・下手をするとこっち(会社)も大きな被害を被る可能性があるしね」

「ほんとうに申し訳ない」

「いや、元はと言えば、ミキが間違えて奴らのアジトに飛び込んで暴れたのが原因だしね。 さぁ、そんな事よりも離陸時間が迫っているし、早く座席についてベルトをしっかり締めておいてよ」

そう言うと鋭二は速足で操縦席へと向かった。

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