第219話 ■千織の転生 (タイ編 その22)

■千織の転生 (タイ編 その22)


ドサッ

強い衝撃を受け、そのまま地面に倒れこんだ。

意識はあるが体は、もうピクリとも動かない。


すぐさま死の恐怖が襲ってくる。

自分が殺してきた何十人という人間たちも同じ恐怖を味わったのだろうか。


横たわった自分の目の前に、白く細い足首が見える。

あの女の足だ。

プロとして一度たりとも相手に後ろを取られるような、無様な状況に陥ったことは無かった。

百戦百勝が自慢であり、誇りでもあった。


あの時、後ろに跳躍して地面に足が着くまでの僅かな間に、首に電気ショックのようなビリビリとした衝撃を受けた。

そのまま体がピクリとも動かない。

首にショックを感じるまで、全く気配は感じられなかった。


自分は銃で撃たれて、死ぬ寸前なのだろうか。

人は死ぬ間際は痛みを感じないと聞いた事がある。


「別に死なないから、安心してもいいわ」

頭の中で自身への問いかけなのに、頭上からその返事が聞こえてくる。


『殺せっ! こんな辱めを受けるのなら、プロとして潔く死んだ方がましだ』

「そうね。 あなたには、わたしの服を着てもらって、そこの茂みに身代りに立っててもらおうかしら」

「!!」

「そう、あなたの逞しいお友達が、わたしと間違えて楽にしてくれるかも知れないわ」


アハハッ

「あんたバカじゃないの! ジェイソンだってプロの殺し屋よ。 プロを甘く見ないで! ジェイソンが来たら死ぬのはあなたの方よ!」

「うふふ。 わたしは普通の人間じゃないの。 だって、ほらっ。 こんなことだって出来るのよ」

陽子がジュディの体の前で手を振るとジュディの顔が陽子と瓜二つに変わった。

顔だけではなく、服装も陽子のソレと全く同じになっていた。

「倒れたままじゃ、わからないでしょ! いま鏡を見せてあげるわ」


陽子が持っていた手鏡に映った自分の顔を見て、ジュディは恐ろしさのあまり気が狂いそうになった。

だが叫びたくても声が出ない。 体の自由も利かない。

これでは、ジェイソンが到着したら、自分は一瞬で殺されてしまうだろう。

しかもロケット砲で、跡形も無く。


「それじゃ、この辺りが、あなたの生前最後の場所と言う事でいかがかしら?」

陽子は、先ほどジュディが倒れていた場所から、少し離れた木の陰にジュディを立たせた。


『お願い・・助けて・・まだ死にたくない』

「あらあら、ジュディさんはプロの殺し屋さんじゃなかったの? さっきの威勢のよいセリフはどうしたの?」

陽子の目が、だんだん怪しい光を帯びてくる。 そう、ミキが恐れるあのドSの目に・・

「それじゃ、み・が・わ・り、よろしくね♪」

遠くから聞こえて来るクルマの音を後に、陽子はミキの後を追って移動を開始した。

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