第216話 ■千織の転生 (タイ編 その19)
■千織の転生 (タイ編 その19)
そのころ千織は、ソンティが担当医をしている診療所にいた。
診療所には大勢の病人や怪我をした人たちが沢山やってくるため人手が足りない。
千織は、そんなソンティの仕事を手伝うことにしたのだった。
医学の知識がなくても(本当はデータベースの活用すれば世界的名医にも匹敵するが)出来る仕事は沢山ある。
カルテの整理や医療器具の消毒、シーツや包帯の洗濯・・・毎日が目の回る忙しさだ。
でも、千織は自分が少しでもソンティや病気に苦しんでいる人たちの役に立っている事がとても嬉しかった。
まだ難しくてはっきりは分からないけど、これが生きがいと言うものなのだろうか?
千織は、自分がやりたかった事(自分が誰かの役に立てる事)が、おぼろげながらに分かり始めていたのだ。
日が傾いて、ようやく今日の患者さんたちの姿が少なくなった頃、その女はやって来た。
「次の方、お待たせしました。 どうぞお入りください」
千織が診察室のドアを開けて、待合室の人に声をかける。
「はい」
この診療所には場違いな黒いボディスーツ姿の金髪の女が短く返事をすると、診察室のドアに向かって歩み寄った。
「どうぞ、お入りくだ・・・」
千織がそこまで口にしたところで。
プシュッ、 プシュッ、 プシュッ
サイレンサー付の拳銃から発射された銃弾が千織の体を貫通して行く。
3発の銃弾は、体の別々の箇所(頭部、胸、腹部)を貫通した後、反対側の壁にめり込んだ。
バサッ
千織は声を上げる間もなく、その場に倒れこみ、そのまま動かない。
「千織っ!」
ソンティは咄嗟の事に千織が銃で撃たれたとは思わなかった。
ただ、異常な事態が目の前で起きているという実感はあった。
金髪の女は、至近距離で銃弾が確実にそれぞれの急所(脳、心臓、肝臓)を貫いた事を見ると、踵を返して診療所の外に停めてあったバイクで逃走した。
ソンティは倒れている千織に駆け寄ったが、その場で足が止まったままになる。
ヂヂヂッ
千織の頭部を貫通した銃弾の穴から、うっすらと薄紫色の煙が出ている。
「な、なんなんだ? ・・・」
膝がガクガク震える。
それでもソンティは、千織の傍にしゃがむと、千織の体をゆっくりと抱きしめた。
「ソンティ・・ ご・・め・ん・・ね」
すると千織の唇はもはや動かなかったが、内臓スピーカーから小さく声が漏れてくる。
「あ・たし・の体は・・ロボッ・・トだったの・・」
「あ、あぁっ、 そんな事は関係ないんだ。 僕は千織のすべてが好きなんだから」
「・・ソ・ン・・ティ ありがと・・」
千織は、今度は本当に、そのまま動かなくなってしまった。
「ちおりーーーーっ! うおーーーっ!!」
***
**
*
「こちら、ジュディ。 ボス、あの千織とか言う少女はたった今、始末しました」
金髪の女はヘルメットに装着されたヘッドセットで組織に千織の暗殺完了の報告をしていた。
「そうか。 よくやった。 残りの二人も3日以内に片付けるんだ。 いいな!」
「了解しました」
『やっぱり殺しは銃に限るのよ。 スティーブみたいに無い知恵を働かせて失敗するのはプロじゃないわ』
ジュディはバイクのスピードを上げ、ミキたちが少し前まで居た、ゴルフ上へと向かった。
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