第173話 ◆神様がしてはいけない事(その2)

◆神様がしてはいけない事(その2)


「消滅はしないが、もしかしたらもっと最悪な事態になるかも知れないぞ」

「ど、ど、どうしよう」

あのランクAのイケメン神様が恐れる大神から、ミキは呼び出されたのだ。

まだ会ったことも無い大神だが、ミキは震えが止まらない。


「ぐずぐずしてはいられない。 さあ、一緒に来るのだ」

イケメン神様はミキの肩に手を回し、無遠慮にもぐいっと引き寄せる。

「あっ・・」

不意の事だったので、ミキは小さく声をあげるが次の瞬間には、もう何度も見たあの景色の中に降り立っていた。

「い・・いやだ・・・会いたくないよ! 大神なんて」

「君が嫌でも、大神に逆らうことなど出来はしないのだぞ」


イケメン神様は、更にミキの腰に手をまわして、そのまま天界の中央へ瞬時に移動した。

目の前には、西の神殿の何十倍もある、巨大な神殿がそびえている。

「わっ、わっ、ちょっとだけ待って! お願いだから」

ミキは、巨大な神殿を見て、恐怖感が更に増している。


「悪いが、それは出来ない」

「な、なんでよ! あなたは、こっちの世界ではあたしの夫なんでしょ!」

「おいおい、こういう時だけ夫婦であることを認めるのかい?」

「こんな時くらい、ちょっとは役に立ちなさいよって言ってるのよ!」

「それなら、ほらっ。 今こうして役に立っているだろ?」

「ど、どこがっ! ただ大神に言われて、あたしを連行してるだけじゃないの!」


「何か誤解してないかい? 大神の思し召しは絶対なんだ。 もし君が怖がってココから逃げ出しでもたら、もっと事態が悪化するじゃないか」

「だ、だからって、これじゃ酷いじゃない!」

「いいか。 もしココから逃げたら、大神の逆鱗に触れるかも知れないんだぞ!」

「逆鱗?・・げきりん・・げっ、キリン・・げっ、麒麟。 なんちゃって。 アハ、アハ」

ミキは恐怖のあまり、現実逃避を始める。


しかし、イケメン神様も保身のためか、ミキを抱えたまま巨大な神殿の中にどんどん入って行く。

その間、ミキの頭の中に、生まれてから今までに起きた事が走馬灯のように流れていく。

「お母さん、お父さん、鋭二さん、ルナ・・・」

もう皆とは二度と会えないかも知れない。


「さぁ、ここからは独りで行くのだ」

「どうして? 夫婦なんだから連帯責任じゃないの?」

「勝手に巻き込まないでくれ。 其れでなくとも忙しいんだから」

「薄情ものっ!」

ミキは、どうしても独りになりたくない。


「ここまで一緒についてきてあげたじゃないか」

「何よ! 最後まで運命を共にしようと思わないの?」

「思わない」

イケメン神様はあっさりと言う。


「あ、そう。 ならいいわ。 で? どっちに行けばいいの?」

「ここを真っ直ぐに行けばいい」

「わかりましたっ!」

ミキは、イケメン神様に思いっきり、”イーーダッ”の顔をするとスタスタと歩き始めた。

『まったく、人助けをしたら怒られるなんて・・・どうかしてるよ!』

ブツブツ言いながら大理石の通路を歩いて行くと。


パカッ

急にミキの足元が二つに割れ、落とし穴のような真っ暗闇の中に吸い込まれていく。

キヤァー

ミキは突然の事に対応できず、パニックに陥る。

真っ暗闇の中、上も下も分からない状態で落下して行くのは、物凄い恐怖感がある。

しかも、この神殿の中では、どうやら神の力は封印されてしまうようで、体制を立て直そうと幾らもがいても、ミキはどうする事もでき無い。

どのくらいの時間、もがいていたのだろう。

途中で意識も遠くなり、気が付いたときは真っ暗闇の中、床らしき所で横向きに倒れていた。


「うっ、痛てて・・」

体中が激しく痛む。

それが、床に全身を打ち付けた事によるものなのか、長時間もがいていたためなのか、わからない。

ミキは起き上がろうとするが、相変わらずどっちが上なのかもわからない。

「ココは、いったいどこなんだろう?」


ふぅっー

突然ミキの耳に息のようなものが吹きかけられる。

ぞわわっ

一瞬にして体中の皮膚が泡立つ。

「うわっーーーー!!」

「こらこら。 もう大きな声を出すんではない!」

声と同時に、まるで映画館で上映が終わり、客が帰り始めるときのように

辺りがだんだん明るくなり始める。

目が慣れてくるとミキの直ぐ前に、白い犬がちょこんと座って尻尾を振っているのが見えた。



次回、「神様がしてはいけない事(その3)」へ続く

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る