第172話 ◆神様がしてはいけない事(その1)

◆神様がしてはいけない事(その1)


ミキはひさびさにティンカーベル(アイドル)の仕事で、都内のあるイベント会場に美奈子マネージャのクルマで向かっていた。

「復活の神」の仕事は多忙で、休みを取りたい気もあったが、今日は歌って踊って思う存分ストレスを発散するつもりである。

イベント会場の地下駐車場にクルマを停めると、美奈子マネージャとエミと3人で地下3階からエレベータで1階のホールまで移動する。


ポ~ン

エレベータの扉が開くと、なんだか目の前が騒然としている。

「何かあったのかしら? 二人とも私の傍を離れないでね」

美奈子マネージャがその場の雰囲気から、ただ事では無いことを感じとったようである。


遠くから消防車と救急車のサイレンも聞こえてきている。

「やっぱり何かあったんだ!」

ミキの野次馬根性が顔を出す。

美奈子に傍に居るように言われたことなど、もうとっくに頭には無い。


「あたし、何があったか、ちょっと聞いてくるね」

そう言うとミキは凄い勢いで、人だかりがしている表玄関の方に駆けて行った。

「あっ、ちょっと! 時間までには、ちゃんと戻って来てよ・・・ って、あ~あ。 まったく困ったものね」

「す、すみません」

ミキの代わりに、良くできた妹のエミが謝る。

「あら、エミちゃんが誤ることは無いのよ。 あなたのお姉さんが落ち着きが無いだけなんだから。 今度、鋭二にもよく言っておくわ」


一方、表に飛び出してきたミキは群集が見上げ、ゆびを指している方に目をやり驚いた。

なんと、自分達が居るビルの20階あたりから黒い煙が、もくもくと立ち上っているではないか。

「た、たいへんだ。 このビルが火事じゃないの!」


ドォーーーン

消防車が来る前に小さな爆発があり、黒煙の中から真っ赤な炎が噴出した。

爆発し火が出たフロアよりも上には、まだ10階以上も上階があるのだ。

「こうしちゃ居られない!」

ミキは、ランクAの神の力を手に入れたため、どこでも即座に移動できる。


まずは火元と思われる20階のフロアに瞬時に移動した。

「うわっ、あっちっち・・こりゃたまらない!」

内部は以外に火の勢いが強く、激しく燃えている。

すかさずミキが手をかざすと勢いよく燃えていた炎も一瞬で鎮火する。

まさしく神の力である。


ふぅ~

「さてと、逃げ遅れた人は居ないかな?」

鎮火した20階のフロアをぐるりと一巡りし、負傷者が居ないことを確認するとミキは何食わぬ顔で1階に居る美奈子マネージャとエミに合流した。

ミキが二人のところに戻るとほぼ同時に消防車が到着し、隊員が慌しく上階へと上がっていった。


「この騒ぎじゃ、今日のイベントは中止だね?」

今日はストレスを発散させようと楽しみにしていたイベントだけに、ミキは残念そうである。

「そうね。 これじゃ仕方がないものね。 それじゃ、主催者に確認して帰りましょうか」

美奈子もさっさと撤収モードに入った。

結局、その日のイベントは中止され、消化活動に行っただけのようになったのだが、ミキが家に戻ると、そこにはイケメン神様が怖い顔をして立っていた。


「あらっ? ルナなら出かけてるよ」

「娘ではなく、君に用があって来たのだ」

「あたしに? こっちは特に用事はないわ」

ストレス発散できずミキは、棘とげしい。


「そんなに強気でいていいのか? 大神が君を呼んでいるのだぞ!」

「えっ? あたしを?」

「そうだ。 今日、ビルの火事を力を使って消しただろ」

「あー それは、偶然に仕事先のビルがね・・・ って、・・・ もしかして・・」

「そう、こっちの世界で起きることに勝手に干渉してはいけないのだ」

「そんな。 あたし何も聞いてないよ! だ、だって大惨事になるところだったんだよ! 別に悪い事じゃないよねっ。 ねっ、あたし消滅なんかしないよね!」

「消滅はしないが、もしかしたらもっと最悪な事態になるかも知れないぞ」

「・・・そ、そんなぁ・・」

ミキは最悪な事態と言う言葉が、頭の中でぐるぐると渦巻いて、ただその場に立ち竦むことしか出来なかった。


次回、「神様がしてはいけない事(その2)」へ続く

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