第162話 ◆ミキ消滅する(その1)

◆ミキ消滅する(その1)


ルナのチャイ、ミキのトロピカルマンゴージュースが女神効果を抑制する働きがあるらしいことが判明し、二人の芸能活動の障害問題は何とか治まったかに見えたが、実際には常にそれらを持ち歩かなければならないため、大変な苦労が伴った。

女神特効薬についても、徐々に効能の詳細もわかり始めた。

ルナの場合はチャイを飲んでから、効き目が持続している時間は、約2時間。

ミキの場合はトロピカルマンゴージュースを飲んでから、約2時間半という結果である。


これらの時間は、仕事をする上で非常に微妙な時間である。

テレビ番組は、長くても2時間程度であるが、編集後にそれだけの時間になるので実際収録時間は、対外2~3倍以上になる。 無論生放送なら別であるが。

モデルの方も同様で、例えばファションショーもショー自体の時間は2時間程度であるが、こちらも開始時間より遥かに早くスタンバイしなければならない。

もっともルナの場合は、ほぁ~とする気持ちで害の無い笑顔を作ることはマスターしているので、何とか誤魔化すことは出来るのだが、満面の笑顔ではないので、物足りなさを与えてしまう可能性が大である。


つまり、本人達にしてみれば、怪獣と戦うウルトラマンのカラータイマーのようなもので、ステージに立っているうちに、その効果有効時間が切れてしまえば、例のズッキューン攻撃が容赦なく開始されてしまう危険性を抱えているわけなのだ。

もし、そんな事態になったら、それこそ大騒ぎになってしまう。

ミキは娘のルナと一緒に良いアイデアがないか、いろいろ試してみた。

例えば、ドライフーズにして市販のピルカプセルに詰めてみたりゼリーにしてみたり、一口サイズにカチカチに凍らせたりと思いつくものは全てやりつくした。

結果は、全てNGだった。

やはり、「ほぉ~」とか「ふぁ~」とかの気持ちを兎に角、一旦作る必要があるのだ。

それには、チャイやマンゴージュースを飲む必要があった。

そして、それは数時間置きに行わなければならない。

結局二人は、少々オヤジっぽいがウィスキーのポケット瓶のような小さな水筒に、それぞれの特効薬チャイとマンゴージュースを入れ、持って出ることにしたのだった。

・・・

・・


事件は、突然起こった。

ミキ達が歌○の収録を行っているとき、照明装置の具合が悪くなり、ティンカーベルの番で40分ほど待ちが発生したのだ。

ミキは油断していた。 今日はどう転んでも1時間以内で収録が済むと思い、特効薬は持参していなかったし、このスタジオではトロピカルマンゴージューズは売っていなかった。

『う・・やばいかも知れないな!』

ミキは焦るが、いつ収録が再開されるかわからないため、勝手にスタジオの外に出て行くわけには行かない。

隣に座っているアヤは、疲れたのかミキの肩に頭を乗せ、スースーと寝息を立てている。

『もし、もしもだよ。 収録中にズッキューンが始まっちゃったら・・・ これって全国ネットだよ! いったいどうなちゃうんだろーーー』

ミキがオロオロしていると照明が復帰し、ADから収録再開の合図が出る。

「ほらっ、アヤ。 収録が始まるって! 起きなさい」

ミキは慌ててアヤを揺すり起こす。

「う、う~ん。 もう朝なの~」

「アヤ、寝ぼけてないで。 収録よ。 しゅ・う・ろ・く。 シャキッとしなさい。 さっ、いくわよ」

こうして、収録が始まったのだが・・・・


事件時は常に現場で起こっている! あたりまえの事だが・・・

イントロが流れ、アヤが歌いだし、アヤのパートが終わると直ぐにミキのアップが映る。

一拍おいてすぐにミキが歌いだすのだが、カメラがミキのアップに切り替わった瞬間、ミキは満面の笑みを浮かべる。


ドタッ

1カメさんは瞬殺だった。

すぐに3カメさんに切り替わる。


グハッ

3カメさんも殺られた。

でも3カメさんは偉かった? ミキのアップを捉えたまま失神していた。

ただし後日、この映像がオンエアされ、全国のお茶の間での大パニックが起こった。

テレビ史上、こんな事態は○ケット○スター放送時の光り点滅、大量発作事件依頼であろう。

テレビ放送が夜の9時だったため、翌朝から着歌配信やCDの売上げが物凄い勢いだった。

サーバーはアクセス集中によりダウンし、苦情の電話受付でも回線がパンクした。

・・・

・・


病院を1日で退院した美奈子マネージャーを前にミキは頭を抱えていた。

「ねぇ、いったいどういう事なのか説明してくれる?」

「ど、どういう事って?」

「だから、この現象についてよ! 全国中の歌○を見ていた人が、アナタを見て失神したか、しそうになったのよ。 わかってるでしょ!」

ミキは泣きそうだった。

「でも、あの時はどうしょうもなかったし・・ どうせ話したって信じてもらえないし・・」

「やっぱり! 何か秘密があるのね!」

「やっぱりって?」

「わたしが運転中にドッキューンってなった事と関係があるのねって事!」

「あ・ハイそうです。 関係ありますぅ」

「ふ~ん。  でっ?」

「・・・」

ミキはどう説明していいかが頭に浮かばない。


「黙ってたらわからないじゃないの!」

美奈子は、腕組みをしてミキを睨んでいる。

何しろ苦情も含め、問い合わせの電話やFAX、取材申込みが美奈子のところに山のように押し寄せてきていたので、どうしようもない。

ミキは、だんだん面倒くさくなってきていた。

『なによ。 直接あたしが悪い事したわけじゃないじゃない! それが証拠に、あたしはこの世から消滅していないわよ』

「大沢ミキさん! 早く説明しなさい!」

もともと気が強い美奈子であったが、だいぶキレてきている。


「わかりましたぁ♪♪♪」

ミキは美奈子に向かって思いっきり微笑んだ。

チュドーン

美奈子・・昇天する。

「へへっ、これで少しは静かになったわ」

ミキは失神した美奈子に向かって、思いっきりあっかんべーをした。

静かになったプロダクション事務所の中の大きなソファーの上にミキはしてやったりという顔をしながら、どさっと腰を下ろした。

しかし、その途端。

ミキの体がキラキラ輝きながら透き通り始めた。

「げっ! もしかして・・・今のは力の悪用って事?・・」


次回、「ミキ消滅する(その2)」へ続く

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