第163話 ◆ミキ消滅する(その2)

◆ミキ消滅する(その2)


ミキの体はキラキラ輝きながら次第に透き通り、1分後には体の輪郭だけが僅かにわかる程度になってしまった。

「あわわ・・・大変だぁ・・あたし、この世から本当に消えちゃうよ~」

そういう間に、最後の光りの粒がキラリと輝きを放ち、リビングからミキの姿が完全に消え去った。

・・・

・・

さて、この世からは消滅したミキであったが、何やら見慣れた景色の中を歩いていた。

そう、なだらかな丘の斜面のお花畑を・・・

なんだかココも第二の故郷ふるさとのようになりつつある。

ただし、いままでと違ったのは、頭の上に光る輪が浮かんでいることだ。


前に事故に遭ったときは頭の上にこの輪が乗っていなかった。

やはり、あの時は完全に死んでいなかったからなのだろう。

『これって・・天使の輪みたいなやつ? でもあたしは死なないはずだしなぁ・・ やっぱり消滅イコール死んだってことになるのかしら?』

普通、天国に居て頭の上に輪が乗っていれば、それは天使か死んだ人かのどちらかであろう。

『まっ、ダメ元で、神様に復活させてもらいに行こう』

ミキは、いつでもポジティブである。


ミキは丘のてっぺんを目指して歩いていくが、登れど登れどなかなか丘の頂上に着かない。

というか、まるでその場で足踏みをしているかのように景色も変化しない。

『前は空を飛べたのになぁ・・・ 今度はどうして飛べないんだろう?』

体は疲れるわけではないのだが、気分的には滅入ってくる。

ちなみにミキが空を飛べない理由は、霊体でも女神でも無い状態だからである。

実は天国は広大な空間を有している。 ほぼ無限に近い空間だ。

従って、人工密度?も恐ろしく低い。

ここで誰かに会うのは宇宙空間でどこかの宇宙人に遭遇するくらいの確率である。


『あたしが居なくなったんで、みんな心配してるだろうなぁ』

ミキは独り呟く。

ここ(天国)には時間の流れは、存在するのだろうか?

ミキがここに来てから、向こう(人間界)の時間で、もう1日は経っていると感じている。

それでも前を見ても後ろを振り返って見ても、着いた時と同じ場所にいるように思えるし、あたりも薄暗くもなってこない。

ただミキにとって幸い?なことは、ここ(天国)では、お腹があまり空かないことである。

向こうの世界で今の状況だったら、食いしん坊のミキはとっくにお腹が空いて動けなくなっているはずだ。

『あ゛ーーー いったいどうしたらいいんだろう!』

流石のミキも、だんだんめげてきていた。

お花畑の中に腰を下ろし、膝を抱えてぐったりしていると、突然後ろでガサガサッと草花が音を立てる。

それは明らかに、風によるものと違っていた。


「何? 誰かいるの?」

ミキはちょっと怖くなり、ここに来てから初めて声を出す。

辺りを見回すが、視界には草花以外何も入ってこない。

『なんだ気のせいだったのか・・』

と思った途端、少し前方に白い何かが動いたように見えた。

『なんだ、オマエ。 もう力を悪事に使ったのか? やはり人間は愚かな生き物だな』

目の前に群生する黄色の大きな花の間から白い犬(神様)が現れる。

「か、神様・・・」

『で、復活させてもらいたいのか?』

神様はストレートに聞く。

「は、はい。 すみません。 ものすごく反省しています」

神様に復活させてもらいに向かっているところだったので、ラッキーだとミキは思った。


『では、復活の交換条件はわかっているね?』

白い犬の目は、ちょっとスケベっぽい目になる。

「あ゛ーーー ハイ。 仕方ないですね」

『仕方が無い?』

「あっ、いえ。 喜んで」

『よし! それでよろしい』

白い犬は満足そうに言った。

仕方が無く、ミキは白い犬を思いっきり抱きしめる。

「ついでに、神様。 もしもまた、あたしが消滅した場合は必ず復活させてくださいね。 よろしくお願いします」

ミキは、着実に賢くなっている。

『汝の願いは聞き届けた。 願いは必ず叶うであろう・・・』

そう言い残すと神様はミキの前からフッと消え去った。


頭の上を見るといつの間にか光りの輪は、無くなっている。

『やっぱり、あの輪って・・・』

ミキは、一旦あちらの世界に戻ろうと思ったが、ちょっとの間考えてその場から飛び上がり、どんどん上昇して行った。

眼窩を眺めると遠くに地平線が広がっている。

ミキが思ったとおり、ここの地平線は湾曲していない。

『やっぱり、ここは天国なんだ』

ミキはあらためて、ここ(天国)の存在を実感したのだった。

ミキは復活したことで、あちら(自分)の世界には消滅前の時間に戻れるため、天国をゆっくり見物してから帰ることにした。

『あっち(地上界)も、このくらい広ければ、土地が安くていいのになあ』

ミキはいったん、300mくらいまで高度を下げ、神殿とは逆の西へ向かい始める。

んっ?

西の遠くの方が、何やら薄い赤色をしているのに気付く。

ミキは、それがいったい何なのか興味が湧いた。 あとで思いっきり後悔するのも知らずに・・・


次回、「禁断の果実(その1)」へ続く

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