第141話 ◆ミキ、神様に気に入られる(その3)

◆ミキ、神様に気に入られる(その3)


『なんなんだよ! この神様はストーカーか? 警察呼ぶぞ!』

ミキはイケメンに化けた神様を睨みながら、心の中で叫ぶ!

すると

『天国での約束を破った者には、厳しい罰ばつが与えられるんだぞ』

ミキの頭の中に、聞き覚えのある白い犬(神様)の声が聞こえてきた。

どうやら、口に出さなくても会話が成立するようだ。

『またかよ! 偽者も本物も! ・・・どうして、何も悪い事をしていないこのミキちゃんが、いつも罰ばちに怯えなきゃならないのかなぁ』

『おいおい。 悪い事はしていないけど約束はしただろ?』

『ふ~んだ。 こっちの世界では契約は違反に対して罰則があるけど、約束は破っても罪にはなりませんよ~だっ!』

↑注:ミキの経験レベルなので読者のみなさんは本当だと思わないでください!


頭の中で会話をしていると、それが表情にもでるようだ。

アヤが不思議そうな顔をして、自分を見つめているのにミキは気が付いた。

『神様、一時休戦ねっ!』

ミキは一方的に切り上げを決める。


「さっ、行こう。 アヤ!」

「うん」

ミキはアヤと手をつないで、自分たちの部屋に向かうが、頭から湯気が出ているかのように、傍からみてもカッカッしているのがわかる。

「っとにもう・・・」

部屋に戻って着替えながらも、ミキは鼻息が荒い!


「でも、これから取材後半のお仕事だから、そう怒りまくっていても仕方がないか」

大きく深呼吸をして、気持ちを切り換え、取材の仕度にかかる。


話しは逸れるが、ミキたちのメイクの仕方は、ちょっと変わっている。

普通は鏡を見ながら自分でするのだが、ミキたちはお互いの顔をメイクし合うのだ。

クローンの便利なところだが、何度か鏡に映った自分なのかエミかアヤなのか迷ったことがあったほどである。


仕度が整ったのでロビーに下りて行くと、イケメンに化けた神様がソファーに腰掛けて日経新聞を読んでいた。

「似合わねぇーっ」

ミキは神様の横を通り過ぎざま、神様の顔を覗きこむようにして一言言い放つ。

すると、神様は目にも留まらぬ速さで立ち上がり、ミキの手を取ると自分の方に抱き寄せた。

ムギュッーーー


「ちょっ! 何すんのよ!」

ミキは、急なことにイケメン神様の胸の中でもがく事しか出来ない。

カシャッ カシャッ

その瞬間、フラッシュが光り、ミキと神様が抱き合っている写真を誰かに撮られてしまった。

「しまった! 写真週刊誌?」

ミキは辺りを見回し、写真を撮ったヤツを探すが誰だかわからない。

神様は、まだミキを強く抱きしめたままだ。

「こんのぉー! いい加減にしろっ! 週刊誌に変な記事が載っちゃうじゃないか!」

ミキは渾身の力を込めて神様の腕の中から抜け出す。

「それなら、心配はいらない。 ほらっ、この通り回収済みさ」

そういうとイケメン神様は、自分の掌の上に乗った撮影に使ったと思われるカメラをミキに見せた。


「や、やるじゃない」

「僕に出来ないことは無いのさ」

神様は自慢げにミキに言う。

「それにしても、あんた常識ってものが無いの? もぉ、信じらんない。 神様が信用してもらえないって、どういう事かわかってんの?」

「別に信用してもらう必要は無いね。 常識って言ったてそれは人間界の、しかもごく狭い範囲のものじゃないか。 例えば、欧米では親しい人に会ったらハグするだろ?」

「うっ・・・そ、それは・・・  でも、ここは日本だし、あたしは日本人だもん!」

「僕は日本人じゃないしね」

そう言うと神様は、ミキに舌をぺろっと出して見せた。


「く、くやしぃーーー」

「お姉ちゃん。 何してるの? 早くロケバスに乗って!」

いつまで経っても来ないミキを心配してアヤが迎えにやってきた。

「お姉ちゃん、その人は?」

「あ、ああ。 えっと、ちょっとした知り合いよ。 それよか、ごめんね。 さっ、行こう!」

「ど、どうも」

アヤは、神様とは知らずペコリとお辞儀をすると、ミキと一緒にロケバスに向かった。

・・・

・・


バスの中で、アヤがミキの袖を引っ張って、小さな声で聞く。

「ねぇ、ねぇ、お姉ちゃん。 さっきのカッコいい人誰なの? 俳優さん? 歌手じゃないよね。 見たことないもん」

「ちょっち、説明しにくいなぁ・・・」

「え~っ。 ねぇ、今度あたしに紹介してくれる?」

「何、アヤ? まさか惚れたとか?」

「そんなんじゃないけど、カッコいいじゃない」

「悪い事はいわない。 アイツは止めといた方がいいよ」

「どうして?」

「性格悪いし」

「性格が悪いの?」

「そうだよ! それに、すっごいスケベなんだ」

「まぁ・・・鋭二お義兄さんみたい」

「・・・」


ミキたちはロケバスで芦ノ湖、箱根神社、関所跡、大涌谷などを巡り、最後は箱根登山鉄道に乗り替えて、箱根湯元を目指す。

「ねぇ、ねぇ。 あの人が乗ってる」

アヤが指差す方を見ると、イケメン神様がミキを見て手を振っている。

『っんとに、ストーカーだな。 そろそろ何とかしなくっちゃいけないぞ!』

『そんなに邪魔者扱いしないで欲しいな。 ギリシャ神話に出てくる神様達だって、結構どろどろしてるだろ?』

ミキがそう思った途端、神様の声が頭の中に響く。


『ねぇ、一つ聞きたいんだけど。 どうしてアタシに付き纏うの? そりゃ、確かに命の恩人だし、とっても感謝してるわよ。 でも、アタシは人妻だし』

『実は神様にも掟があるんだよ。 きみは神殿の祭壇の間に入ったよね』

『そ、それは、アンタがついて来いっていったからじゃない!』

『それは、きみが生きて帰りたいって強く願ったからだろ』

『それはそうだけど、あの場合、誰だってそう思うんじゃないの?』

『まぁ、それはどうでもいいや。 実はあの祭壇の間は、神族が結婚するときにも使う神聖な場所でね。 神族はあそこで契りを結び夫婦になるんだよ』

『それと、ストーカーとどんな関係があるっていうのさ?』

『それじゃ、ストレートに言おう。 あの時、きみを助けるために、きみと契りを結んだ』

『契りを結んだ・・・ えっ、ええーーーーっ!』


次回、「ミキ、神様と不倫」へ続く

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