第137話 ◆ミキ、本物の神様に会う(その3)

◆ミキ、本物の神様に会う(その3)


「も、もしかして・・・あたし死んだの?」

丘の上をフワフワ漂っているうちに、さすがのミキも気が付いたようである。

「そっか。 あのブレーキの音は・・・あたし、やっぱりクルマに撥ねられたんだ。 あ゛ーーー せっかくツツジ祭りを見に行こうとしてたのにー  って、それどころじゃないよ、あたし!」

ミキは空を飛びながら、これから自分に起こることを考えてみた。

「きっと、今頃はお葬式の準備をしてるかも知れない。 鋭二さんや、お母さんやお父さん。 エミにアヤ。 サキ・・・ みんな泣いてるかな・・・」


それにしても、ここはどこなんだろう?

すごく綺麗なところだし、やっぱり天国なんだろうか?

遠くの雲の間から、光の束が丘の先に幾筋も伸びているのがみえる。

天使の梯子・・・

「そ、そ、そ、そうだ! 思い出した! あたし、これから神様に会わなくっちゃいけないんだった!」

ミキは急に、クルマに撥ねられて意識を失う短い間に聞こえてきた声の事を思いだした。

『天国に着いたら、東の神殿に来なさい。 いいですね。 必ず来るのですよ』

確かにそう聞こえた。

         ★

「それでは、人工心臓からクランケ自身の心臓へ切り換えます」

執刀医の坂本は、ひとつ大きく深呼吸をしながら、自分にも言い聞かせるように宣言した。

「それでは、レベル3で1回目をお願いします」

バチッ

開胸したまま、ミキの心臓に電気ショックが与えられる。

ビクンッ

「ダメです」

「ではレベルを1つ上げて、もう1回!」

「はいっ!」

バチッ

ピッ、 ピッ、 ピッ

「心拍戻りました!」

「血圧、下52、上86です!」

ピーーーーーー

「さ、再停止しました!」

「くそっ! 戻って来い!! つぎ! 同じレベルで、もう一度!」

バチッ

         ★

「東の神殿って言ってもね~ ・・・東って、いったいどっちだろう?」

ココ、すなわち天国らしき所は当然初めて来たわけで右も左もわからない。

また、一面花畑なのでランドマーク的なものもない。

「ちぇっ、花畑牧場でもつくっとけよなぁ・・・」

思わず愚痴が出る。


「確か太陽を見て左手が東・・・で良いのかな?」

ミキは取り敢えず、東だと思う方向へ向きを変えて進み始めた。

「まぁ、空を飛べるんだから、あんまり疲れないし、誰もいないから気も使わなくっていいけどね。 ゆっくり探せばいいや」

ところで霊体は、スーパーマンのように早く飛ぶことは出来ない。

ふわふわ、ふわふわと人が歩く早さより少し遅いくらいだ。

その代わり風が強ければ、その流れに乗って結構早く飛ぶことができる。

ここは天国だからなのか、心地よい程度の風は吹いている。

その風に乗って、ミキは時速6kmくらいで漂っていく。


「あぁ、なんだか眠くなってきちゃうよ~」

天気は良いし、暑くも寒くもない、湿度もちょうど良い。

ミキはふと、五月晴れでツツジ祭りを見に出かけようと思った陽気を思い出す。

「あの朝、雨が降っていたら死ななかったのに・・・」

ふわふわ・・・ふわふわ・・・

ミキはいつの間にか飛びながら居眠りをしていた。

どのくらい時が経ったのだろう・・・

寝ぼけ眼まなこで見回すと、辺りは相変わらず代わり映えのしない景色であった。

一つ違うところは、真下にキレイな川が流れており、その先に湖が見えているところだ。


湖面がキラキラと輝いて、とても綺麗なので、ミキはその方向に向かって飛んでいく。

「うわぁ、この湖の色は・・・」

湖はエメラルドグリーンに輝き、物凄い透明度だ。

湖岸を更に東へと進むと前方に神殿らしきものが見えて来た。

「きっとあれが東の神殿だよ。 いよいよ本当の神様に会えるって事ね」

ミキは以前、神様からのメール騒動でコスプレをする羽目になったが、本物の神様は、ミキにいったいどんな話しをするのだろう?

「良い子にしていたから、もう一度生き返らせてくれるとか? だったら良いな。 あたし、まだ若いし、やりたい事もいっぱいあるもん!」

ミキは、そう思いながら、千織の言っていたことが、やっと本当に理解できたような気がしたのだった。


次回、「ミキ、本物の神様に会う(その4)」へ続く

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