第138話 ◆ミキ、本物の神様に会う(その4)

◆ミキ、本物の神様に会う(その4)


さて、近づくと神殿は、かなり大きなものであった。

現代の構築物に例えるならば、国会議事堂を10個ほどくっつけたぐらいだろうか。

ただし、神殿の高さは30mくらいである。

人口密度が高いわけでは無いし、土地の価格が高いわけでもないのだから当然であろう。

ミキは神殿の入口らしき所を目指して降下していった。


「ここから入ればいいのかな? でも勝手に入って地獄行きは、いやだしなぁ・・・」

入口らしき所でうろうろしていると、ソフ○バ○クの【お父さん犬、○イ君】によく似た犬が、ミキの方に向かって歩いて来た。

「おいで、おいで。 あんた可愛いね。 もしかしたらココ(天国)に住んでるの?」

ミキは白い犬の頭を撫でながら、話しかける。

「ねぇ、ココに神様いる? あんた知らない?」


白い犬は尾っぽをハタハタと振り、ミキの頬をペロペロ舐めた。

「アハハ、くすぐったいよ!!」

・・・・

白い犬に頬を舐められて笑っていると思っていたのに、自分の頬を涙が流れているのにミキは気が付く。

「やだ・・・死ぬのはやだよ。 家に帰りたい・・・」

ミキは白い犬をギュッと抱きしめる。

ミキは犬を抱きしめていたので見えなかったが、白い犬の顔は明らかに、にへらっとスケベそうに笑ったように見えた。


「そんなに帰りたいの?」

「もちろんだよ~  って! あ・・あんたしゃべれるの?」

「へへっ もちろん。 しかも世界中の言語をマスターしてるんだぞ!」

白い犬は少し自慢げに言った。


「でっ、あたし帰れるの?」

「帰れないわけでは無いよ」

白い犬は、相変わらず白い尾をハタハタと振りながら答える。

「ほんとに? ねっ、ねっ、どうしたら帰れるの?」

白い犬は、尾っぽをゆっくり左右に振りながら、ミキに向かって言った。

「聞きたかったら、もう1回ムギュってして」

「ムギュ?? って何?」

白い犬は何も言わずに、へっ、へっ、へっと舌をダラリとだして呼吸を荒くしながら、ミキをじっと見つめている。

「あ゛ーーーっ  ムギュって、もしかしたら・・・」

「うぉっほん。 あんたが嫌なら別にいいんだよ」

白い犬はクルリと向きを変え神殿の方へ歩き始める。


ちっ

ミキは舌打ちをすると慌てて白い犬に向かって声をかけた。

「嫌だなんて言ってないじゃん! ほらっ、おいで、おいで。 何回でも、ムギュってしてあげるから」

「ほんとうだね?」

白い犬は、そう言うとミキを目指して一目散にダッシュしてきた。

「ほんとうよ! ほらっ」

大きく広げた手の間を目がけて、白い犬はミキに飛びつく。

ミキは、白い犬をがっちりと抱きしめる。

そして、力を込めて絞めていく。


ググッ

ぐぇっ

白い犬はミキの胸の谷間に鼻先をうずめたまま、蛙がつぶれたような声をあげる。

「どうだ。 スケベ犬! 参ったか?」

あまり長い時間絞めていると危険なので、少し力を緩めてあげる。


「おいっ! ここ(天国)では、ウソをついたらいけないんだぞ!」

「うそ? あたし、うそはついて無いじゃん!」

「おいおい。 ムギュは、ムギュだぞ! しかも何回でもしてくれるって言ったよね?」

「うっ・・・ い、言った」

「ならいいんだ。 約束は忘れないことだね」

白い犬は勝ち誇った目をして言った。


「そ、それなら、あんただって約束は守ってよね! 早くうちに帰る方法を教えてよ!」

「フンッ それなら、僕の後についてきな!」

そう言うと白い犬は神殿の中に、どんどん入って行く。

「あっ、 ちょっ・・ 待ってよ!」

ミキも白い犬の後を追う。

         ★

バチッ

ピッ、 ピッ、 ピッ

「先生、心拍戻りました!」

「血圧、下40、上75です!」

「よしっ! このまま安定したら縫合する!」

坂本医師やスタッフの顔にも、ようやく安堵の色が浮かぶ。

こちらの世界では、どうやらミキは一命を取りとめたようだ。

あとは意識が戻るか? 後遺症が残らないかだが・・・

処置が終わって手術室から出てきたミキのもとに、事故に遭った事を警察から知らされた、鋭二や山口夫妻、エミ、アヤが駆け寄る。

皆が見守る中、ミキは病室へと運ばれる。

ミキの体には幾本もの点滴チューブと心電図モニターへのコード類などがつながっている。

まるで何時ぞやに見た、完成前のミクを思わせる姿である。

個室とはいえ、大勢の人が付き添うのは衛生面からも望ましくないので、今晩は鋭二ひとりが付き添うことになった。 

         ★

ミキは神殿に入って行った白い犬の後を追い、自分もひんやりとした神殿の中へと進んで行った。

神殿の中は高い天井があるだけで、何階層にもなっているわけでは無かった。

そして、ただ真っ直ぐにどこまでも伸びた廊下が続いているだけであった。


前方遥か先の方に小さな点のようになった白い犬が歩いているのが見える。

ミキは見失わないように、駆け足で白い犬を追うが、その距離は一向に縮まらない。

「ねぇ、ちょっと待ってよ!」

ミキは大きな声で白い犬に声をかけるが、聞こえないのだろうか、振り向きもしないでどんどん進んで行く。


「ちぇっ、名前を聞いておけばよかったな! ねーーえ。 ムギュしてあげるから待っててよーーー!」

その声に白い犬はピタリと動きを止める。

「ちっ、聞こえてるんじゃないか! あんのスケベ犬め!」

ミキは、ウソをついたらいけないと言う言葉を思い出し、白い犬の傍に着くと直ぐに一発ムギュをやってあげた。


白い犬は嬉しそうに尻尾を左右に大きく振ると、また歩き出した。

敵は四本足なので、パタパタと結構早く歩く。

ミキは早歩きと駆け足を混ぜながら後を追う。

それでも距離が離れる度に、ミキは仕方が無くムギュで対応する。

「あいつ・・・ わざと早く歩いてるんじゃないだろうな?」


果てし無いと思われた長い廊下も「ムギュ17」(←ミキが作った新しい単位)で、ようやく終わりが見える。

そう、長い廊下を抜けると、そこは雪国・・・じゃなくて祭壇の間であった。

「ここは? ここに神様がいるの?」

ミキが訊くが、白い犬は祭壇の前にちょこんと座り、ゆっくりと尾を振っているだけで答えない。

ミキもしばらく白い犬を見つめていたが、何も動きが無いので、いらいらし始める。

「そう言えば、あんたの名前を聞いてなかったわ。  あんたは何て言う名前なのかしら? まさか”ムギュ”じゃないわよね! ”祭壇の下のムギュ”なんて言ったら殴るわよ#」


白い犬は、ゆっくりと振り返ると、にへらっと笑いながら言った。

「僕はね。 人間の世界では”神様”って言う名前なんだ」

「あちゃーーーっ また想定外の展開だよーー!」

ミキは頭を抱えて、その場にしゃがみ込む。


しばらくして、気を取り直したミキは、白い犬にもう一度訊ねた。

「あのぉ・・神様・・それであたし・・どうしたら、うちに帰れるんでしょうか?」

「んじゃ、裸になって」

「へっ?」

「だから服を脱いで」

「な、なんでですかぁ?」

「あんたは、人間界で事故に遭った。 今、手術をして一時的に心臓も動いている。 だけど、このままでは、あと半日持たないだろうね」

「そ、それとここで裸になるのと、どんな関係があるんですか?」 

「ここは、祭壇の間だ。 あんたは何も供物を持っていないだろ? だから、あんたが供物ってわけ・・」

「あ、あんた。 やっぱり偽者の神様ねっ? あたし・・また騙されるところだったわ」

ミキは、またしても白い犬を羽交い絞めにして、じわじわ締めていく。

「あっ、いや。 誤解だ、誤解!」


「何が誤解よ! スケベ犬!」

「いや、僕の言い方が悪かった。 そこの祭壇に裸になって横になれば、ちゃんとした治療をしてあげようってことだ。 ほらっ、服を着ていたら治療は、できないだろう?」

その言葉にミキの腕の力が少し緩む。

「それ、ほんとうなの?」

「ほんとうだ」

「ここ(天国)では、ウソをついたらいけないんだったよね?」

「うっ・・・そ、そうさ。 神様ウソ言わない。 約束する!」

「それインデアン、ウソ言わないみたいで、超ウソっぽいしぃ・・・」

「それじゃ、これでどうだ!」

そういうと白い犬は、瞬時に超イケメンの若い男の姿に変身した。


「ほぇ・・・」

ミキの目は一瞬でハート型になる。

が・・・

「いかん、いかん。 騙されてはいか~ん!」

「おいおい。 別に騙すつもりは無いよ。 残念ながら、神様に実体は無いんだよ」

「それじゃ、白い犬の姿も・・・」

「当たり前だ。 いきなり人の姿で現れたらどう思った?」

「・・・」

「だろう? だから人間界で人気の動物の姿を借りたってわけさ。 さぁ、 もう時間が残っていないぞ! あっちの世界で死んで、直ぐにまたココに来るのか?」

ミキは覚悟を決めた。

スルリと服を脱ぎ捨て、祭壇に横になり目を瞑る。

するとミキの全身が眩い光で覆われ、やがて白い光の中に消えて行った。 

・・・

・・

「う~ん。 あ~ 良く寝た~」

シャーー

ミキはベッドから降りると、遮光カーテンを左右に開く。


「あれぇ・・・ 何だ凄い雨だよ! せっかくツツジ祭りを見に行こうと楽しみにしてたのに・・・」

こうして、ミキは事故に遭う前の世界に戻り、また平和な日々?を送れる事になったのであった。


次回、「ミキ、神様に気に入られる(その1)」へ続く

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