第136話 ◆ミキ、本物の神様に会う(その2)
◆ミキ、本物の神様に会う(その2)
ミキは、光溢れる大きな扉を押し開け、その中に入って行った。
あまりの眩い光のせいで、辺りは一瞬真っ白な世界へと変る。
「うわぁ、眩しくて何も見えないぃーー」
ミキは目を瞑り、その場にしゃがみ込んでしまった。
どのくらい時間が経ったのだろうか。 そぉっと目を開けてみると目の前は、どこまでも広がる花畑が続いていた。
花畑には、いままで見たことが無い美しい花が咲き乱れている。
一つ一つの花は自らが淡く発光しているようで、きらきらと輝いてみえた。
また、空を飛んでいる鳥も、まるで極楽鳥のように色鮮やかであった。
あたりに吹く風も、なんだか甘くてよい香りがする。
それは花畑のせいだけでなく、風自体に香りを含んでいるような感じなのだ。
ミキはしばらく、この美しい景色を眺めていたが、ふと自分は何処かに行かなければならない気がしてきた。
しかもその場所に着いたら、誰かに会わなければいけなかったはずだ。
でも、いったい誰に会わなければいけなかったのだろう・・・
「でも、あたしは絶対に会わなければいけないんだ!」
そう声に出して言うと、ミキは立ち上がり小高い丘を目指して歩きだした。
★
貴子は駆けつけてきた警官から事情聴取を受け、住人たちは通報して出動してきた救急車の隊員達と辺りを捜索していた。
「おいっ! 見つけたぞ! こっちだ。 こっち!」
近くで豆腐屋を営んでいる男が大声を上げる。
救急隊員達は、担架を抱えて声の方に走りだす。
残りの住人達も一斉に集まり始める。
「おい。 息をしていないぞ!」
「こりゃ、もうだめだな」
その会話を聞き、後から警官とやってきた貴子は、その場で気を失った。
そんな中でも、救急隊員達は冷静にテキパキと行動して行く。
ミキと貴子を救急車に乗せ、ミキには直ぐに蘇生術を施し始める。
サイレンが鳴り響き、いつもなら静かな住宅街を救急車は病院へと疾走する。
「あれっ? この人どっかで見たことあるなぁ・・」
救急隊員の一人がミキの顔をしげしげと見つめて呟く。
「そうだっ! この娘は歌手の・・・ほらっ、双子のさっ・・・ あ゛ーー 何て言ったっけ?」
「そうだ! ティンカーベルのどっちかじゃないか?」
心臓マッサージをしているもう一人の隊員がどうやら気が付いたようだ。
「脈が戻って来ないな・・・外傷はあまり無いけど内臓破裂とか頭を強打してるかも知れない」
「もうじき病院に着く。 ダメかも知れないが続けてくれ」
「あぁ、わかってる」
心肺停止状態から3分経つと生存率が急に悪くなる。
ミキが事故に遭ってから、既に10分が過ぎていた。
★
丘を目指して歩き出したミキであったが、足で地面を強めに蹴るとまるで月面を歩いている宇宙飛行士のように、ふわ~んと飛べる事に気が付いた。
「ははっ、これは楽チンだねぇ~。 おもしろい、おもしろい!」
ぽよ~ん ぽよ~ん
「それっ、大ジャ~ンプ。 これで頂上につくだろーーっ!」
勢いよく最後に一蹴りすると、なんと空を飛べるではないか。
「うわっ、あたし飛んでるーー。 夢見たいーー。 アッハハ」
ミキは楽しくなって、丘の上をフワフワと飛び回る。
「きっと、千織もこんな感じで飛び回ってたんだろうな~」
はっ!
そう思った時、ミキはやっと気が付いた。
「も、もしかして・・・あたし死んだ?」
★
救急車は、けたたましいサイレンの音を響かせて、○○大学の付属病院に到着した。
ミキを乗せたストレッチャーが、慌しく処置室に吸い込まれていく。
貴子の方は、そのまま一般患者用の病室に運ばれ、ベッドの上で点滴を受ける。
ミキは相変わらず心肺停止状態のため、AED(Automated External Defibrillator)「自動体外式除細動器」で電気ショックを与えられる。
スイッチONで、ミキの体がベッドの上でビクンと撥ねる。
1回、2回、3回・・・・心電計に波形は現れない。
並行してCTやレントゲン撮影がされ、次第にミキが受けたダメージがわかってくる。
どうやら、左からクルマにぶつかったようで、腰からお腹にかけて強打しており、骨盤を骨折した上、肝臓、腎臓などが損傷しているようであった。
内臓からの出血がかなり酷いようで、直ぐに開腹手術が行われる。
未だ甦らない心臓は手術中、一旦人工心臓に切り換えられる。
幸いな事にミキが運びこまれた大学病院の外科スタッフはみな優秀だった。
損傷を受けた内臓は素早く縫合され、骨折した骨盤も金具で固定された。
一番問題であったのは、停止した心臓である。
人工心臓から自分自身の心臓に戻された後、果たして鼓動は甦ってくれるのだろうか・・
次回、「ミキ、本物の神様に会う(その3)」へ続く
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