第121話 ■千織、海に沈む その8
■千織、海に沈む その8
海は比較的穏やかで、ボートもさほど揺れずに、二人は目的の沖合い100m地点に到達した。
陽子が千織の霊波を辿っていったので、ここがダイビングポイントである事に間違いは無い。
千織は確かに、この真下の海に何らかの理由で沈んでいる。
「ミキさん。 時間はそんなにかからないと思いますので心配しないで待っててください」
陽子は、ミキにそう言うとウエットスートとアクアラングを身に着け、海に潜っていった。
この辺りの水深は10mほどで透明度も良いため、陽子はすぐに千織の姿を発見する。
千織は海底の砂の中に横たわっていたが、どうやら首から上が無いように見える。
!!っ ゴボッ!
それを見て陽子は思わずパニックに陥り、危うく海水を飲み込んでしまうところであった。
陽子はボンベから酸素を何回か大きく吸い込み、気を落ち着かせると再び千織に接近していく。
そして陽子が千織の体に手を触れた途端、一瞬辺り一面」が真っ暗になる。
千織の頭に巻きついていた蛸が墨を吐きながら、逃げていったのだ。
首から上が無いように見えたのは、実は千織に巻きついていた蛸が海底の砂と同じ模様に擬態していたためだったのだ。
「ふぅ・・ びっくりしたわ。 一瞬殺人事件かと思った。 でもロボットだから殺人じゃないか・・」
そう思いながら陽子は、千織の顔の方に周り込んでいった。
千織は目を開いたままで、瞳は動かず前方をただ凝視しているように見える。
目の前で、手をひらひらさせてみるが反応は無い。
「やはり、故障しているようね。 でも霊波は感じるから、中にいるのは確かだわ」
陽子は千織を起こして自分の前に抱え、一緒に浮上するつもりだったが、その考えが甘かったことを
思い知らされた。
そう、千織の体には浮力が無く、実質50kgの石を持って浮上するのと同じ事になるのだ。
「これじゃ、だめだわ」
陽子は一旦、そのまま自分だけ浮上することにした。
一方、千織は突然目の前に、ボコボコと泡を出しながら泳いでいる陽子を見て、びっくり仰天したのであった。
千織は、ウエットスースを着てアクアラングを背負って泳ぐ人間を見るのは生まれて初めてだったし、最初、それが人間だということすら理解できなかった。
陽子が接近したので水中めがね越しに、あの霊媒師であるということがわかったのだ。
次回、「千織、海に沈む その9」へ続く
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