第113話 ■千織が苦手なもの
■千織が苦手なもの
「そうだ! アレがあったか」
秀一は、一人でニコニコと嬉そうだ。
「なぁ、だからその苦手なものを、早く俺にも教えてくれよ」
「鋭二。 それは、もう少し後だ」
「またそんな事を。 なあ、自分だけ知ってるなんてずるいぞ! 早く教えてくれよ!」
鋭二は、なかなか教えようとしない秀一がじれったくて、再びせがむ。
「だから、教えたくてもまだわからないんだよ!」
「ちぇっ、わけがわからないよ! 兄さん俺の事を馬鹿にしているのか?」
「いや、悪い悪い。 苦手な設定っていうのはだな。 つまり、千織の行動パターンから探り当てようって言う設定プログラムの事さ。 わかりやすく言うとだな、例えば千織が犬を見て、ぎょっとしたとするだろ。 それが何回も記録されたり、犬を見つけた時、通る道を変えたりすれば千織は犬が苦手って事になるだろ。 つまり、データベースに蓄積された情報を分析して判断するのさ」
「そういう事か。 でも、それならデータの蓄積には随分時間がかかるんじゃないかな」
「そうとも限らないさ。 要は同一行動の解析なんで、犬のケースなんかなら、犬を5回見て5回とも怖がれば、苦手な確立は高いと判断できる。 短期間で判断できるものもあるし、遭遇確立が低ければ何年もかかるかも知れない。 例えば大地震とかなら一生に一度あるか無いかだし・・・」
「でも、データが蓄積できたとして、それを回収するのには千織を捕まえる必要があるんじゃないの?」
「それなら大丈夫。 千織の体は、こちらの都合が良いように作ってある。 つまり、情報は遠隔操作(無線)で取れるってことだ」
「おおっ、そんな仕掛けまであるのか」
「仕掛けか・・なんだか江戸時代のからくり人形みたいだな。 まぁ、ロボットの原点ではあるかも知れないけどね」
「そうそう、そういえば、ロボット固体としての苦手なものの設定は、幾つかしてあるって言ってなかったっけ?」
「そっちは、3つほど設定してあるよ。 一つ目はやはり犬だ。 犬は嗅覚で人間ではないと判断する可能性がある。 最悪の場合は噛み付かれる危険性があるからね」
「なるほど・・」
「二つ目は、銃や刃物。 こちらはセンサーで判定して危険を察知し回避する。 至近距離で攻撃されたら、いくらロボットでも無事には済まない」
「そうか、渋谷の件はスカウトマンがそう言う物を持っていなかったから普通に付いて行ったわけか」
「そうだと思うよ。 ロボットとして苦手なものは、千織の意志とは無関係に機能するからね」
「残りの一つは?」
「鋭二が設計者だったら、どんな設定をするかな?」
「う~ん。 もし僕だったら・・・ そうか! わかったぞ! 火とか水とか機械が苦手なものだろっ!」
「ピンポ~ン。 耐水性の方は問題ないけど、耐火性は問題ありでね。 火傷やけどこそしないけど火に関しては残念ながら人間とほとんどかわらないんだ。 だから、火を怖がる」
「そうか。 髪や皮膚の部分とか、内部の配線や半導体チップなんかが熱に弱いんだ」
「そうなんだ。 その部分を強化すると、どうしても昔のアニメのロボットみたいになっちまうからな。 人間に近いものを作ると、どうしてもその他の部分も人間に近づいてしまう」
「犬と銃と炎か・・・ そして残るは、ほんとうに千織が苦手なもの・・」
「そうだな。 データが取れるまでどのくらいかかるか・・ それまでの間、千織は自分のやりたい事をやればいいのさ」
そう言いながら秀一は、また窓の外の遠くの景色を見つめた。
次回、「千織、海に沈む その1」へ続く
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