第112話 ■ロボットの進化
■ロボットの進化
さて、事件の翌日の昼近く。
警察の事情聴取やらなんやらで忙しかったので、ミキも清水さんも陽子も女性陣はまだ眠っている。
鋭二と秀一は、林太郎が淹れた遅めのモーニングコーヒーを飲みながら、千織のことについていろいろ話しをしていた。
「なあ兄貴。 千織はまだ逃走中だけどバッテリー容量とか問題あるんじゃないの? もし街中で突然停止したら大変な騒ぎになるぞ。 これほど高性能なロボットは、まだ世界中のどこからも公表されていないしね」
鋭二はロボット工学について少し勉強したようだ。
「千織なら、その心配は無いと言ってもいい。 未来ミクにもこれから取り付けるつもりでいるんだけど、自分自身の駆動メカの振動を利用して逆発電し、それを充電しながら稼動できる装置を組み込んである。 いざとなったら、折りたたんで腹部に格納してある太陽電池パネルを広げて充電もできるように改良済みだ」
秀一は、そう言ってコーヒーを一口ゆっくりと飲んだ。
「それは凄いな。 もう完璧じゃないか。 それで世間にはいつ発表するんだい?」
「それは、まだ随分先の事になるだろうな。 何しろ安全性の検証については自動車なんかの比じゃないからね」
「それってどういうこと?」
鋭二の目から見れば完成度が高く、大沢グループの産業ロボット工場でいつ量産されるのかと思っていただけに秀一の意外な返事に驚く。
「例えばクルマは、衝突安全性や旋回性能、制動試験など安全基準が定まっていて、それをテストでクリアして行くだけだけど人型ロボットには、そういう基準がないだろ? もし、一般販売して事故が起きたら、その保証金だけで会社は倒産してしまうよ」
「なるほど、それは確かに大変だな。 でも、未来ちゃんや千織や林太郎を見た限りだと、ロボットって言われてもわからないほど精巧にできているし、動作も滑らかで人間と変わらないように見えるけどね」
鋭二がそう言うと秀一は一旦天井に目を向け、一呼吸してから続きを話し始めた。
「鋭二。 いまオレが悩んでいる、次の課題が何んだかわかるか?」
「う~ん。 急に聞かれても俺には難し過ぎるなぁ」
「それじゃ教えよう。 それは、故障時の自己修復方法だ」
「自己修復?」
鋭二には秀一の言っている事が、何のことかサッパリわからない。
「例えば人の場合は、怪我をしても自然に治るだろ。 まあ大怪我のときは医者の世話になるけどね。 産業用ロボットの場合、故障したらメーカーの技術者をコールして修理してもらう。 でも人型ロボットが普及したら家電製品と同じくらいの修理体制が必要になるだろ。 修理する度に技術者が出張するのはコスト的に厳しい。 それじゃ、購入者が梱包してメーカーに修理を依頼するかって言うと、こんなに大きなものを修理に出すとは思えないよな」
「確かにそうだね。 重量はかなりあるしなぁ。 輸送費だって馬鹿にならないぞ」
「そこでだ。 お互いがお互いを診断し、修理できるようにしようと考えているんだ」
「なんだかよくわからないな? 具体的にはどうするんだい?」
「つまり、千織が故障する。 するとセンサーが故障箇所を判断してHELP信号を発信する。 通信でどこの何と言うロボットの、どこの具合が悪いかを全てのロボットが検知する。 そして一番近くに居るロボットがそこに行き、一時診断をする。 もし交換パーツが必要ならばその部品だけを中央センタから配達すればいい。 修理技術は予め全てのロボット達のチップに記録させておけば、人間の技術者は不要だろ」
「す、すごい。 やっぱり兄貴は天才だな」
「ははは、名前が秀一だから、まっ、秀才ってところだな」
秀一のダジャレは結構つまらない。
「ところで、さっきの話しに戻るんんだけど、千織にエネルギー切れの問題が無いとすると彼女は、もうずっと戻ってこないって事なのかな」
鋭二は腕組みをして考え込む。
「まぁ、しばらくは好きにさせておくさ。 居場所は特殊電波を発信してるんで追跡可能だからね」
「なんだ、そういう事か」
「それはそうと、鋭二のところで林太郎と千織を引き取ってくれないかな?」
「えっ、とんでもない! 僕もミキも千織は無理だよ! それに林太郎の方だって千織と引き離すのはなんとなく偲びないだろう」
「ふむ。 それもそうだな。 でも千織を無理やり捕まえてアメリカに連れていくのも時間がかかるし。 弱ったな~」
「そういえば兄貴。 千織の暴走を止められるかも知れないって言ってた、あの苦手なものの設定って結局なんだったんだい?」
「おぉっ! 鋭二、お前本当にいいタイミングで思い出してくれたな。 そうだ、アレがあったか」
秀一は、一人でニコニコと嬉そうだ。
「なぁ、だから早くそれを俺にも教えてくれよ」
「それはだな・・・」
次回、「千織が苦手なもの」へ続く
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