第97話 ■イケメン林太郎
■イケメン林太郎
秀一は、完全にスイッチが入っていた。
1週間の間、ほとんど寝ずに林太郎のロボットの製作にあたったのだ。
♪
鋭ニとミキは、もともと長期の滞在予定で来ていなかったため、3日目の朝にはニューヨークを発って東京へ帰らなければならなかった。
「じゃぁ、兄貴。 すまないけれど後は頼むよ」
「あぁ、鋭ニ。 任せておけ。 たまには兄貴らしいところを見せなければと思っていたところさ!」
「ありがとう。 僕とミキを救えるのは、兄貴しかいないと思ってる」
「お義兄さん。 よろしくお願いします」
ミキは深々とお辞儀をする。
「ミキさん。 安心して待っててください。 必ず10日以内に東京へ届けられるように頑張るから」
「はい。 でも、無理をして体など壊さないでくださいネ」
「大丈夫ですよ。 僕には、未来ミクがついてますから。 彼女がいれば、百人力です」
「確かにそうですね。 未来ちゃん、頼むね」
「はい♪」
未来は優しく微笑んでふたりを見送った。
こうして、鋭ニとミキはグローバル・エクスプレスで再び東京を目指したのであった。
「ねぇ。 鋭ニさん。 林太郎くんのロボットを見たとき、千織は本当の林太郎くんだって思ってくれるかな?」
「う~ん。 何しろ地縛霊っていうのには、初めて付き合うわけだから予想が全く付かないよ。 うまくいけばいいんだけど・・・ 今は兄貴を信じるしかないな!」
ミキは神妙な顔で鋭ニを見詰め、こっくりと頷いた。
***
**
*
秀一の研究所には、様々な最新の工作装置が導入されていた。
まずは、林太郎の写真が高性能スキャナで読み込まれる。
次に、3Dに変換されてモニタに映し出されたその立体映像を補正していく。
この作業にアーティストの資質は必要ない。
なぜならコンピューターが操作員のリクエストに答え、少しずつ理想的な立体像に仕上げてくれるからだ。
しかし、この作業は秀一がこだわり、納得できるものになるまで永遠と続けたため、全体工程のおよそ半分を費やしてしまった。
一方、未来は並行してボディと人工知能を担当していた。
未来ミクはロボットのため、普段の人間動作モード※を解除すれば、疲れ知らずでの連続作業が可能である。
林太郎用のボディは、頭部が付いていないため、シミュレーターを使って調整作業を進めていった。
そして、いよいよ秀一が担当したマスク付き頭部を、ダミーの不要な部品を外しながら本体に取り付けていく作業になった。
ここからは、二人の共同作業となる。
「秀一・・・」
未来の声が僅かだがうわずっている。
「なんだい? 未来ミク」
「この人が林太郎さん?」
「うん。 凄いイケメンだろう」
「ええ・・とっても素敵♪」
秀一が隣に立つ未来ミクの顔を見ると、目がハート型になっている。
オイオイ。 僕は、こんなプログラムを組み込んだ覚えは無いぞ! 秀一はイケメンに作りすぎた林太郎に思わず嫉妬を憶える。
「未来。 チップの初期化は?」
「メイン以外は全てシミュレーターを使って設定済みです」
「OK。 それじゃ、記憶回路をMAIN-CPUに接続するぞ!」
「はいっ」
「そこのケーブルを緑色のソケットに刺してロック」
「完了です」
「よし、今度はそこのボルトを通してから頭部を固定する」
「OKです」
「次っ! 首からの皮膚と頭部の接合にかかるぞっ!」
「はい」
こうして、林太郎が作業台の上で完成した。
「よし! これで完成だ! 後は主電源を入れて起動テストだ」
林太郎は、初起動の際に暴走する可能性があるため、作業台に体と手足を固定されている。
「しゅ・・秀一・・・」
未来ミクの顔がどんどん赤くなっていく。
「くそっ! イケメンに作りすぎたか!!」
秀一は、またもや嫉妬心がメラメラと沸き起こる。
「き、起動前にタオルを持ってきます」
未来は赤い顔のまま、研究室を早足で出て行った。
秀一は自分が勘違いしていたのがわかった。 どうやら未来ミクの顔が赤いのは、林太郎の下半身があまりにもリアルすぎたのが原因のようだった。
「そうか。 幽霊用に、ここまで精巧に作る必要は無かったんだなぁ」
・ ・林太郎のそれを、しみじみ見つめながら秀一は思ったのであった。
***
**
*
さて、ミキ達の知らないところで、ひと波瀾あったが、ぴったり10日後、ミキのマンションに大きな荷物が届いた。
ピンポ~ン
「大沢さん。お届け物です。 こちらの伝票に判子をお願いできますか?」
ドアを開けると目の前の荷物は、大きな台車に縦に積まれていた。
おそらく、エレベーターに乗せるのに苦労したと思われる。
配達員は大汗をかいていた。
「あ、 はい。 ココでよろしいでしょうか?」
ミキは配達伝票に、三文判をぺたんと押す。
「はい。 どうもありがとうございました」
「ご、ご苦労様でした」
ミキは配達員の後ろ姿を見送った後、早速、大きな荷包みの梱包を清水さんに手伝ってもらって、ゆっくりと解いていく。
ガサッ
ガサッ
バリバリッ
ビリッ
「ふぅ~。 ミキさま、もう少しで開きますよ!」
清水さんの額にじんわり汗が滲んでいる。
「ほんとだ。 何か見えてきたよ」
「きゃっ。 あ、あ・・・人の頭が・・・」
清水さんが、悲鳴をあげて後ろに尻餅をつく。
そう言えば清水さんは、箱の中に何が入っているか知らなかったっけ!
「あわわ・・」
どうやら腰が抜けたらしい。
清水さんてば、格闘家なのに、ちょっとだらしないかも。
そう思いながら、ミキは早く林太郎の顔を見てみたくて、清水さんを放置したまま梱包をとき続ける。
バリバリ
ベリッ
「おっ、おぉっ!」
次回、「林太郎起動!」へ続く
※人間動作モード: このモードになっていると、より人間らしく動作する。
例えば体内時計によって眠ったり、お腹がすいたり・・・
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