第89話 ■霊媒師、陽子

■霊媒師、陽子


「どうしよう~ もう、あんな夢二度と見たくないよーーー!」

ミキは、目から滝のような涙を流しながら、かれこれ1時間は鋭二に訴えて続けている。

「う~ん、ダメだっ! いくら考えてもいいアイデアが浮かばない。 もう僕たちだけじゃお手上げだ」

「そうだ。 高辻先生ならっ?」

「ああ、そうか! 彼なら自縛霊のことも信じてくれるかもしれないね。 なにしろクローンの存在だって知ってるくらいだからさっ」

鋭二は、手をポンッとたたきながら確信したように、にっこりと笑った。

一睡もせず次の朝早く、ミキと鋭二はあの懐かしい、きのこ型の建物が建つ、高辻が経営する病院に向かっていた。


今日は、久々に赤いBMWを鋭二が運転している。

ミキは、あの日から何だかレ○シィに乗る気がしないのだ。

だからお気に入りの○ガシィに乗るためにも、千織との関係は一刻も早く断ち切りたいのだ。


「ねぇ、昨日高辻先生に電話してた時、霊媒師のことを話していなかった?」

「うん。 さすがにミキは地獄耳だな」

「そこって、感心するとこじゃないし」

「ははは、そうそう霊媒師の話しだけどね。 高辻先生の知りあいなんだけど、なんだか凄い人がいるらしいよ」

「凄い人って?」

「なんでも、殺人事件の犯人逮捕の捜査に協力して、解決した事件が100件を超すんだって」

「それって、テレビなんかでたまにやってるアレっ?」

「そうそう、そう言うやつだと思う」

「ふ~ん」

そんな話しをしていると、小高い丘の向こうにきのこの形の建物が小さく見えてきた。

何度見てもかわいらしい建物である。


建物に着くとDr.高辻がエントランスで待っていた。

「先生、ご無沙汰してます」

「鋭二くん、ミキさん、いらっしゃい」

「すみません、急にお願いしてしまって」

「いや~。 こういう話って結構好きなんですよ、僕は」

「ほんとうですか? あたしなんか怖くて昨日は一睡もできなかったんですよ」

「ごめん。 被害に遭ってる人からすれば、とんでもない事だよね」

「あっ、いえ。 でも今日は、ご相談にのっていただけるんですし、ほんとうに感謝してるんです」

「それじゃ、早速紹介しましょう。 お~い。 陽子さ~ん」


高辻が大きな声で呼ぶと、エントランスホールの奥から、一人の女性がミキ達の方に歩いてきた。

その女性は、白いワンピースに長い髪を後ろで束ねている。

「うわ~。 すごっい、スタイルがいい人だねー」

優雅に歩いて来るが、だんだん近くに来るにつれて、二人は何か違和感を感じる。

更に近づいた時、その違和感が何だったのか、はっきりした。

「あーーーーっ!!」

「おぉっーーー」

なんと、その女性の顔は、あの千織にそっくりだったのだ。


「あ、あわわわ・・・」

ミキは、おもわずその場にへなへなとしゃがみこむ。

その場にやっとの事で立っている、鋭二の背中にも冷たい汗が流れている。

「はじめまして、霊媒師をやっております、陽子と申します」

そう挨拶をする声まで、そっくりに聞こえる。

「ひぃーーー」

ミキは、あまりの恐怖に小さく悲鳴を上げる。


「二人とも、どうかしたの?」

高辻は、不思議そうに二人を見て言った。

「あっ、そっ、その人が」

鋭二は、陽子を指差して何かを言おうとするが、上手く言葉が出てこない。

「こちらが、僕の友達の霊媒師をやっている陽子さんです」

高辻がもう一度、紹介してくれるが、二人の反応は相変わらずだ。


「すみません。 それじゃ、3つ数えますね。 はいっ! いち、 にぃ、 さんっ」

陽子が数を3つ数え、最後に大きく拍手かしわでをうつと陽子の顔はゆらっとゆらいだ後、まったくの別人になった。

「あっ、ああーーーっ」

高辻は、大きな声を上げる二人を不思議そうに見ている。


「お二人に取り憑いている霊は、さっき見ていただいた姿をしていましたね?」

「そ、そ、そうです。 あいつです。 間違いない! あっ、 いや、失礼。 いったい何が起きているのか・・・」

さすがの鋭二も疲れた顔を隠せない。


「いえ、いきなり怖がらせてすみませんでした。 霊を感じた時のイメージを逃がさないようにして、お二人にだけに、その姿を念写して感じてもらったんです。 さっきの霊で間違いないと思います」

「すご~い。 でもどうして?」

「お二人が来られる前に、わたしの傍に、さっきの霊がやって来たのでもしかしたらと思って」

「えっ? 千織が・・ ですか?」

「えぇ、普通の人は、霊が傍にいても気配は感じないでしょ。 いろいろ話しをしている事も、傍にいる霊には筒抜けなんです。 こちらにいらっしゃる前に、お二人でココの話しをしていませんか?」


「そう言えば・・・ きのこの形をした建物のことや、クルマで行くか、電車にするかって話しをした時に、駅の名前なんかも話したかも・・・」

「あの娘の霊には、恨みのようなものは感じられませんでした。 それよりは、何かもっと深い悲しみと想いが感じられました」

「そうですか? アタシには、すっごく怖い幽霊にしか思えないですけど」

そして、ミキは今までの夢の事を陽子に、細部まで話して聞かせた。

「だいたいの事は、わかりました。 この事件を解決させるために、しばらくの間はお二人と行動を一緒にしたいと思いますが、よろしいでしょうか」

「ええ、よろしくお願いします」

「よかった~。 これで今晩は、ゆっくり眠れるよ~!」

ただ、陽子は、喜ぶミキたちの顔を複雑な表情で見つめていたのだった。


次回、「千織の望み」へ続く

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