第88話 ■千織の正体

■千織の正体


「お、おいっ。 いい加減にしろっ! 僕たちが、君に何か迷惑をかけたことは無いだろう。 いったい何なんだよ。 何で僕たちに付き纏うんだ?」

「それは・・・」

血檻は、急に悲しそうな顔になり、ぽつり、ぽつりと理由を話し始めたのだった。


「実は、わたしが住んでいる、アノお屋敷が、今度取り壊されることになりそうなの」

「えっ、 やっぱり、アノ屋敷は実在してたのか!」

「そうよ。 当たり前じゃないの!! だから、わたしがココにいるのよ!」

血檻は、そう言うと ぷっくりと頬を膨らませた。

こういう仕草はかわいらしくもあるのだが・・・

「やったぁ♪ 取り壊しぃ~」

思わずミキがガッツポーズを作りながら、小さな声で囁いた。


「なんですって!! もう一度言ってみなさい! またアノ水車で拷問してやるからねっ!」

血檻の顔は、急にまた元の怖い顔に戻る。

「キャー そ、それだけは、勘弁してぇーーーっ!」

ミキにとっては、もはや水車という道具は、自分を苦しめるため、いや・・死に至らしめる拷問道具でしか、なくなっていた。

ついこの間見たテレビ番組で、そば粉の粉引き用水車が映しだされただけで思わず、ちびってしまったほどだ。


「だからって、アノお屋敷と僕たちには、何の関係もないじゃないか!」

「いいえ、わたしの存在を知っているのは、あなた達二人しかいないわ。 それに・・・」

「それにって、なんなんだよ?」

「あのお屋敷を取り壊そうとしているのは、大沢グループって言うところのゴルフ場経営会社みたいなの。 そっちのお兄さんの方は、確か大沢って苗字だよね」

「まてよ? そう言えば・・・この間のパーティー会場の近くに、今度うちのゴルフ場ができるって、確か奥山が言ってたな・・・」

鋭二が天井を見あげて、何かを思い出しながら呟いている。


「奥山さんて?」

「ああ、うちの企画専門の部長なんだけど。 完成したら是非コンペに参加してくれないかって、誘われてたような気がした」

「やっぱりそうか。 わたしって昔から勘がよかったんだ」

血檻が少し得意そうな顔をする。

「付喪神って神様なのに、勘なんて変なの~!」

すかさず、ミキがつっこみを入れる。


「あぁ。 あれは、ウソ」

「嘘なの? えっ? うそって? えっ? じゃあ、アンタは何なの?」

「わたしは、あの額に描かれていた肖像画の人物の孫娘の千織よ」

「なんですって?」

「わたしが小さい頃、たまたまアノ部屋でかくれんぼをして遊んでいた時、事故が起きたの」

「事故?」

「そう、急いで隠れようとして、ギロチン台の上を横切った時、脆もろくなった綱が突然切れて・・・」

「やめてーーー その先は、聞きたくないよーーー」

ミキは両手で耳を塞ぎ、その場にしゃがみこむ。


「それで、わたしのお腹の部分に刃が落ちてきて、真っ二つに・・・」

キヤーーー

「もう、その先を言わないでーーー!」

「真っ二つになるかと思ったら刃が錆びていて、背骨が砕けたところで止まったの。 その後直ぐに発見されなかったから、わたしは苦しんで、苦しんで・・・あの部屋の中で死んだんだわ」

「・・・」

ミキは青い顔をして下を向いている。


「それじゃぁ?」

「そう。 付喪神の話しは嘘。 わたしは、ほんとうは地縛霊の千織よ」

「いい歳して、カクレンボなんてするから、いけないんだよ!」

ミキは言わなくてもイイ事をまた横から口にする。

「なによ! わたしが死んだのは3つの時なの! 今の姿は、わたしが大きくなった時をイメージしたのよ」

「ふ~ん。 地縛霊ってそんな事もできるんだ」

「そう。 知っての通り、かなり怖い事だってできるのよ」

千織は、そう言うと「にやり」と冷たく笑って見せた。


ひっ、ひぃ~

「だから、もしアノお屋敷を壊したら、この家の人に憑いて、祟ってやろうと思って来たのよ」

「そんな・・・でも地縛霊って、そこの場所を離れられないから地縛霊って言うんじゃなかったっけ?」

「そう言うのは、怨念だけがその場所に強く残った場合なの。 同じ地縛霊でも、想いが沢山あった場合は、その他の場所にだって移動はできるのよ。 でもその場所が・・っと、それは関係がなかった。 兎に角、現に移動できてるでしょ」

ちっ

ミキは思わず舌打ちをする。


「でも、大沢グループって言ったって、僕は直接関係ないから、工事を止めさせる権限なんて無いよ」

「それなら、毎晩怖い夢にうなされる事になりますけど・・・可哀想ね。 でもしょうが無いか。 グループの人のせいだものね」

「そ、そんな・・・ 鋭二さん。 本当になんともならないの?」

「だって、だれも信じてくれないだろうし・・・それにグループ会社っていっても、実際にはそれぞれの会社の経営は独立していて、その会社の社長さんに任されているんだからね」

「まあ、いいわ。 そのうち、きっと気が変わるでしょうから」

そう言うと千織の姿はふっと消えてしまった。

「えぇーーーっ、今日もまたアノ夢を見なければいけないのぉーーー!」


次回、「霊媒師、陽子」へ続く

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