第84話 ■恐怖の千織ちゃん その1

■恐怖の千織ちゃん その1


真っ暗な山道を一台の○ガシィが走っていた。

4WDでパワフルなこのクルマが得意とするワインディングである。

ヘッドライトも特別にランプを交換してあるので、行くてを照らす光は青白く、辺りは真昼のようだ。

「鋭二さん。 すっかり遅くなっちゃったネ」

「そうだね。 みんなと会ったのは久々だったからなぁ。 でも、ああ言うパーティは、昔っから本当に苦手なんだよ。 そういえば、ミキは結構楽しそうにしてたねぇ」

「うん。 だってサ、凄いご馳走だったじゃん」

「ハハハ。 ミキは食いしん坊だからなぁ」

「えぇっ---!! 違うよぉーーー! 料理の参考になるからってことだよー」

「なるほどね。 それで、そんなにお腹が膨れてるんだー」

グッ・・

鋭二の気になる一言で、ミキは自分のお腹に手をあてて、そっと撫でてみた。

確かに、その手は胃袋のあたりで緩やかな曲線を描く。

明日は、スポーツクラブで汗を流すことにしよう。

そう、思った時、クルマが歩く速さほどに速度を緩めた。


「あれっ? こんな所で二股に分かれてたっけ?」

鋭二は、素っとん狂な声をあげ、前方の道をじっと見ている。

見ると、正面にこんもりした山が見え、確かに道はY字路になっている。

街灯も無く、山の中の道は真っ暗で、クルマのヘッドライトが当たっている所だけしか見えない。

もちろん道路標識もヘッドライトが照らした範囲には見当たらない。


ザザーーーッ

風が急に強くなってきて、辺りの木々がザワザワと音を立て始める。

「う~ん。 どっちかなぁ・・・」

「コホン。 鋭二さん、何のためにカーナビが付いているのかな?」

「それがね、不思議なんだけど画面に表示されている道は、直線道路で二股になってないんだよ~」

「それって、地図の情報が古いって事?」

「おかしいなぁ・・  自動更新だから最新のはずなんだけどなぁ・・」

「でも仕方ないね。 こういう時は、ミキちゃんの野生の勘で、ヒダリッだっ!!」

「えっ? こういう時は、普通右だろ」

「だからねっ。 アタシの勘だって!」

「ハイハイ。 ヒダリね・・ でもさ、いつも大概ろくなことにならな・・ イテテッ」

助手席からミキが、思いっきり鋭二の太腿をつねっていた。


そしてレ○シィは、ヒダリのウインカーを点滅させながら、ゆっくりと山奥に見える方角へと進み始めたのだった。

月も星も見えない。 どうやら、雨雲が出ているようだ。

風もだんだん強くなってくる。


ポツッ、ポツッ

フロントガラスに雨粒が落ち始める。

「あ~あ。 とうとう降ってきちゃった」

それに最悪なことに道は、だんだん細くなり、カーブも急になってきている。

「うわっ、ミキ、そっちを見てごらん。 左側は崖になってるぞ!」

「だって山の中だからね」

「でも、その先なんかガードレールも無いし、路肩も崩れそうだよ。 やっぱり、僕たち、道を間違えたんだ」

「い~や。 こっちが近道なんだよ。 ほらっ、旧道と分かれて遠回りなんだけど、こっちの方が道も広いし、速度も出せるからバイパスの方を走るように誘導される所って結構あちこちにあるでしょ。 あれと同じ」

「そのミキの自信はどっからくるんだか・・・」


相変わらずカーナビは、道の無い山の上を走っている表示と警告メッセージを発し続けている。

「大丈夫だったら。 鋭二さんって、本当に心配性なんだから」

「だって、こないだのクイズ・・あっ、ゴメン」


ズゥーン

「いいんだ。 いいんだ。 だったら引き返そう」

「ミキ、ごめん。 僕が悪かった」

この時点で、素直に引き返しておくきだったと、二人はこのあと心から思ったのだった。

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