第83話 ◆未来(ミク)の未来みらい

◆未来(ミク)の未来みらい(最終話)


さて、あれから、約一月が経ったある日の事。

未来から一本の電話がかかってきた。

「ミキさん。 秀一さんから今度の週末に記憶を移しかえるって連絡がありました。 こちらにいらっしゃいますか?」

「えっ? あっ、行く行く。 今度の週末って、23、24日って事?」

「ハイ。 そうです。 お昼に研究所に行くことになりました」


「それじゃ、スケジュールを調整して、必ず行くから」

「ありがとう、ミキさん。 わたしちょっと怖いんです」

電話の向こうからでもミキに未来の不安が伝わってくる。

「大丈夫、必ずいくから、安心して」

「それでは、お待ちしてますね」

「うん。 それじゃ~ね」

「ハイ」

・・・

・・


ここは、秀一の研究所のある一室。

ミキと鋭二、それに秀一がベッドのような作業台の周りで一人の女性を見つめている。

そこには、一月前に見た新しい未来の体が寝かされていた。

「それでは、起動スイッチを入れるね」

秀一はそう言うと、スカートの中に手を入れた。

「お義兄さん! またそこなのっ!」

「だって、他の場所だと誤って外部と接触する危険があるじゃない。 それに前に見た漫画のロボットだって、確かココにスイッチがあったし」

「ハイハイ。 もうどうでもイイです」

┐(´゜ε゜`)┌


そうこうしているうちに、コピーした新しい未来の瞼がゆっくりと開く。

ほぉぅ~

思わず皆から一斉にため息がでる。

それほど、美しい娘だった。

「もしビーナスが本当にいたなら、こんな感じの女性なんだろうなぁ」

鋭二が呟く。


透き通るような肌。 アクアブルーの瞳。 黄金の流れるような髪。 淡いピンクの唇。 均整の取れた肢体。 まさに完璧だった。

白い肌には、うす青い静脈までが再現されている。

「さぁ、未来。 立ち上がってみなさい」

純白のドレスを着た、女神がゆっくりと起き上がり始めた。

まず右足を床に降ろし、右腕で体を支える。

続いて左足。 そしてすっと立ち上がる。


「ミキさん」

「未来ちゃん・・?」

「ミキさん。 わたし、ミキさんの事、ちゃんと覚えてます」

「よかった。 記憶は元通りなんだね」

「ミキさん」

未来はミキを抱きしめる。


バキバキバキーーー

「イ゛、イデデデーー!!」

「!? ???」

「未来ちゃん。 痛い痛い。 早く離して!」

ミキは少し前に骨折してたのだが、まだ完治してなかったのか酷く痛がった。

「ご、ごめんなさい」

未来は慌てて抱きしめていたミキの体を離す。


ふぅ~

「死ぬかと思った」

「新しい体だから力の加減がまだわからないんだね?」

鋭二が未来に話しかける。

「・・・」

未来は無表情のまま、俯うつむいている。


「そ、そうなんだ。こんどの体は、軽く出来ているんだけれど、パワーは約2倍になってるんだ」

代わりに秀一が答える。

「そう言うことは先に言ってあげなきゃ! 工学博士なんでしょ!」

ミキが猛烈な勢いで突っ込む。

「ゴメン、ゴメン」


「それで、肝心のところは、どうなの? 未来ちゃん」

「そうですね。 今のところ自分では、前の体や感情などは、特に変わった気はしません」

「今度の体は、味覚もわかるんだ。 だから皆と一緒に食事もできるし、飲み物も飲めるんだ」

秀一がいろいろ説明しだす。

「凄いね。 未来ちゃん」

「水分はエネルギーの一部に使い、食べ物は体外にそのまま捨てられるよう、圧縮して内部タンクに貯められるんだよ」

「ふ~ん。 そういう事か」

鋭二は一人で納得している。


「それに体温だってある」

「それだったら前の未来ちゃんだって、あったかかったよ」

「それは、ただ単に内部の熱が表に伝わっていたに過ぎない。 今度は、体温分布も人と同じようになっているのさ」

「兄貴、そこまでやったのかよ。 ったく。 信じられないよ」


「お義兄さん。 ところで前の未来ちゃんは、どうしたの?」

「あぁ、未来は別のところに寝かせてある」

「えっ? だって、新しい未来ちゃんに大丈夫なのかを聞いてみるって・・」

「そう、確かにあの時は、そう言った。 でも、未来が・・」

「そうです。 ミキさん。 それは前のわたしが決めた事なんです」

続きを、新しい未来が語り始める。


「コピーした時点で、わたしは二人になってしまう。 記憶はコピーです。 わたしが秀一さんを愛している事を含めて。 だから、元のわたしはその時に再び電源を落とされる事に耐えられないでしょうし、新しいわたしも、それは同じだろうと」

「未来ちゃん・・・」

ミキは、この娘がほんとに人と同じ感情を持っていることに驚き感動している。

「だから、秀一にお願いして、前のわたしは電源を落としたままにして欲しいってお願いしたんです」


「悲しい・・・悲し過ぎるよ~」

「本当に切ない話しだな・・」

鋭二も俯いたまま、ぼそりと呟いた。

「いいんです。 前のわたしは新しいわたしに未来をたくしました」


ミキには一瞬、あたらしい未来の体に過去の未来が重なって見えたような気がした。

「未来ミクちゃんの未来みらいかぁ。 未来ちゃん、ほんとうに幸せになってね」

ミキは心からそう願ったのだった。


未来編 完


これで、ひとまず美少女ロボット編は終わりです。




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