第85話 ■恐怖の千織ちゃん その2
■恐怖の千織ちゃん その2
「ねぇ、ごめんね。 勘がハズレちゃったみたい」
そうミキが言うまでも無く、道は大きな岩に遮られ行き止まりになっていた。
ボッボッボッ
水平対向エンジンのアイドリングだけが、虚しく山道に響いている。
「ミキ、行き止まりじゃ無いよ! ほらっ、ここは山が崩れて土砂が道を塞いだんだ」
「そっか。 仕方が無いね、引き返すのも大変だけど、これじゃあね」
「バックでこの道を引き返すんだと時間がかかるぞー」
「うん。 途中でユーターンできそうな道幅があるところって無かったもんね。 アタシが運転変わろうか?」
「いや、僕だって生きて帰りたいからね。 遠慮しておくよ」
「あ゛ーーー アタシの運転技術を信用してないんだ!」
「うん。 してない」
「ずいぶん、アッサリ言うのね」
「ミキの運転て、今まで事故が起きないのが不思議って感じのところがあるんだよな」
「へ~んだ。 18歳で免許を取ってから、まだ無事故ですよーーっだ」
「だってまだ、18歳じゃん」
「だから何なの? アタシ間違った発言した?」
「あーー ハイハイ。 僕が悪かったデス」
そんな事を言っているうちに、ポツポツ降っていた雨が、本降りになってきた。
ザーーーーッ
雨は瞬く間に強くなり、風もゴーゴーと辺りの木々を揺らす。
「こりゃぁ、早くバックして元の分岐点まで戻るのが先決だな」
「うん。 崖が崩れてきたら、それこそ大変だもんね」
マーフィーの法則というのがあったが、まさに付いていない時、起こって欲しくない時にそれは起きる。
ドーンという大きな音と地響きがしたと思った途端、レガシーの後方20mほどの場所が、上の崖ごと斜面に沿って流れ落ちていった。
「あっ、あっ、あ゛ーーーーー!!」
「お゛ーーーーーー」
二人は濁点つきの大声を上げ、しばしの間、土砂崩れを見て固まっていた。
「ミキ。 ここに居ては危険だ」
「だって・・・」
「後ろのラゲッジルームの黒いカバンの中にビニールガッパと懐中電灯が入っている」
「あっ、キャンプの時に持っていったやつ」
「そう、まだ降ろしてないから、隅の方にあるはずだ」
「よっしゃ、了解」
ミキは助手席の背もたれを後ろに倒して、クルマの中をラゲッジルームに向けて移動していく。
こういう場合、ワゴンタイプのクルマは便利である。
(ちなみに作者は○士重工の社員ではありません)
「あった、あった。 カッパも二人分入ってた~」
「それじゃ、早く着て。 ここもいつ崩れるか分からないよ」
「はいっ、鋭二さんの分」
「ありがとう」
「懐中電灯は?」
「大きいけど、これでいいんでしょ?」
「あーーそれそれ。 キャンプ用だから、いろいろ付いてるんだよ」
「よし、いくぞ!」
「この子(レ○シィ)をここに置いていくのは、可哀想だよ」
「仕方ないよ。 ここが崩れなければ、道が直ったら直ぐに取りにこれるから。 さっ、行こう」
二人は、嵐のような天候の中、前の大きな岩を迂回しながら、進んでいく。
「ねぇ、もしこの先も道が崩れて無かったら、アタシ達どうなっちゃうの?」
「とりあえず救助を待つしかないね」
「救助って? 携帯も圏外だし。 連絡は取れないのに?」
「だいたい、道が崩れていれば、誰か気が付くでしょ。 それに僕たち二人が帰らなければ、美奈子マネージャや事務所の人が、今日のパーティ会場付近を探してくれると思うけど」
「そっか。 でも、食べるものも無いし・・・」
プッ
「ミキは、あんなに食べてきたんだから、2、3日食べなくったって大丈夫じゃない?」
「それとこれは別なの! 朝、昼、晩の3食は、規則正しく食べるのが健康にいいの!」
「ハイハイ」
「おやっ?」
「何? どうしたの?」
「ほらっ、あそこ! 明かりが見える」
「えっ? あっ、ほんとだ。 家があるのかな?」
沢山の木々と土砂降りの雨の中、遠くの方に小さな灯りが2つ見える。
幸いなことに、大岩の先は道が崩れておらず、舗装も残っていて歩くのは苦労しないですんだ。
灯りは、だんだんはっきりして、その本当の姿を現す。
「こんな山の中に・・・」
「すごい・・・」
そこには、お城のように大きな屋敷がひっそりとたたずんでいた。
道の終着点は、お決まりのように大きな門へと繋がっている。
「ねぇ、なんだか怖い。 ホラー映画に出て来るお屋敷みたい」
「でも、この状況じゃ、行くしかないね」
「うん。 アタシ、トイレも行きたいし」
「それじゃ覚悟を決めて、いざっ!」
「お、おぅ!」
「ミキ、声、小さっ」
「だ、だって・・・」
大きな門には、特に鍵がかかっているわけでもなく、インターフォンのような物もなく、仕方がないので、そのまま玄関まで着てしまう。
「見て見て!」
ミキは行き成り、鋭二の袖を強く引っ張る。
「なんだよ、いきなり」
「ほら、あれっ!」
ミキが指差した方を鋭二が振り返って見る。
そこには、窓に映った人影があった。
「よかった。 人が住んでるんだ」
「・・・」
「ミキ? どうしたの?」
「だって、やっぱり、ホラー映画を見ているって言うか、体験してるみたいなんだもん」
「大丈夫だよ。 この世に幽霊とか呪いとか無いって!」
「だ、だって。 きっと次は音も無く、玄関が自動的に開いたり・・」
とミキが言う間も無く、玄関がゆっくりと開く。
キャーーー!!
「ミキ! そんなに驚くなよ。 こっちまでビックリするじゃないか」
「こ、腰が・・・」
ミキは、腰を抜かして、玄関にお尻をついて座り込んでいる。
「そちらでは、雨がかかってしまいますから、どうぞ中にお入りください」
玄関から、白い服を来た少女が顔を覗かせて、微笑みながら声をかけてくる。
「でた、でたっ!・・・幽霊だ」
ミキは、真っ青な顔をして、何やらブツブツ呟いている。
「ミキ、失礼だろ。 すみません。 道に迷って、それでこの先の道が崩れてしまって」
「そんなことより、どうぞ中へ」
「・・いっ、入っちゃダメだ。 鋭二さん。 ダメだって」
「何、バカな事言ってるの! すみませんね。 ちょっと疲れているみたいで」
「ミキさん。 遠慮はいりませんよ」
少女はミキの目の前にしゃがんで、同じ目線でゆっくりと話しかけてくる。
「ひゃーーー あ、あんた。 何でアタシの名前を知ってるの?」
フフフッ
「お姉さんって、面白い」
「ほんとだ。 ミキ。 僕が君をミキって呼んだから、ミキの名前がわかったんだろっ」
「あっ、足」
「足?」
鋭二と少女が、同時に少女の足を見る。
「足がある」
「当たり前だろ。 やっとわかったのかい」
「はぁ~。 アタシは、幽霊の類だぐいって、ほんとうにダメなんだよ」
「お姉さん。 わたし、ちおり って言います」
「千織ちおりちゃん?」
「はい、ちおり(血檻)です」
ん? 血檻? や、やっぱり、その娘は幽霊なんじゃ・・・
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