第80話 ◆未来(ミク)の涙

◆未来(ミク)の涙


「そんなんじゃないんです。 実は・・・」

「実は?」

「外見はわたしにそっくりなんですけど」

「未来ちゃんにそっくり?」

「えぇ・・」


消え入りそうな声で未来は続ける。

「わたしよりも、より人間の女の子に近いと言うか・・・」

未来の顔は更に悲しそうになる。 今にも涙が溢れてしまいそうだ。


「それって、もしかして・・・」

「えぇ、わたしには無い、女の子の・・・」

「そっ、そんな・・・秀一お義兄さん・・・。 どうして・・・」

ミキは下を向いたまま、肩を震わせている。

「兄貴・・・」

鋭二も難しい顔つきで、言葉が続かない。


「もう、いいんです。 わたしも、あれからず~と考えて来ました」

「未来ちゃん!」

ミキは未来を思わず抱きしめる。

「だって・・・ロボットは機械ですから・・・人間には絶対敵わないんです」

「そっ、そんなことは絶対に無いよ! わたしだって、未来ちゃんに本気で勝てる部分なんて、あんまり無いもん!」

「ミキさん・・ありがとう。 でもわたしは・・わたしは子供を生む事はできません」

「未来ちゃん・・」

「それに・・」

「・・・」

「それに・・所詮ただの機械ですから・・・」

その途端、未来の目からとうとう涙が溢れ出す。


「そ・・そんな・・未来ちゃんは・・人間なんかより、よっぽど・・」

ミキの言葉も、後は声にならない。

二人はただ抱き合って、泣いているだけだった。


「ミキ!」

鋭二が急に大きな声でミキを呼んだ。

「な、なに?」

鼻をすすりながら、真っ赤な目でミキが聞き返す。

「研究所に行ってみよう」

「えっ、これから?」

「そう。 今直ぐ」

「行ってどうするの?」

「兄貴に会って、真相を確かめる!」

「真相を?」

「わたしも一緒に行っていいでしょうか?」

未来はじっと鋭二の目を見つめながら、返事は唯一つと言う決心を表情に表している。


「未来ちゃんは、ここで待っていた方がイイと思うけど」

「いいえ、何れは知らなければならない時がくるのですから」

「覚悟はできているって事だね?」

鋭二の問いに未来はゆっくりと頷いた。


「確かガレージにクルマが1台あると思います。 キーはサイドボードの右の引き出しの中に!」

鋭二がサイドボードの引き出しを開けると、キーは直ぐに見つかった。

「よし、それじゃ出発だっ!」

「未来ちゃん、バッテリー充電してそんなに経ってないけど、どのくらい持つの?」

「まだ10%くらいですけど、うちのクルマには充電用のソケットが付いているんです。 秀一さんが付けてくれたんです・・・」

その未来の声は、終わりの方が聞こえないくらい小さく弱々しくなっていた。


こんなに人間と同じ様に作られているのに、お義兄さんは何で新しいロボットなんか作ろうとしてるんだろう。

ほんとうに未来ちゃんが可哀想だよ。 わたしは絶対に許さないんだから!!

ミキは心の中でそう呟いていた。


ミキ達の乗ったクルマは、再び元来た道を戻り、秀一の研究所に向かった。

未来は後部座席で、備え付けの充電用のソケットを使いながら、充電を続けている。

ビクッ ビクッン

「うっ・・・はぁ・・・はぁ・・・あっ・・あぁっ・・」

「ちょっち、気になるねぇ・・やっぱり、その声」

「すっ、すみません」

未来は、はぁ、はぁと息を荒げながら謝る。


「未来ちゃんの所為じゃないよ! あんのぉ・・・・みんな秀一お義兄さんが悪いんだからねっ!」

ミキはもう、プンプン。 怒り心頭だ!!

「おやおや。 兄貴も大変だな。 こりゃ~救急箱も持ってくれば良かったかも」

ミキの剣幕に鋭二も苦笑いを隠せない。


そして、そうこうするうち、問題の研究所が山の向こうに見えてきたのだった。


次回、「秀一の研究」へ続く

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