第79話 ◆未来(ミク)の嘆き

◆未来(ミク)の嘆き


「未来ちゃん?・・」

ミキは、恐る恐る近づき、ソファの背側から覗き込む。

「鋭ニさん。 やっぱり未来ちゃんだ!」


そこには、目を瞑ってソファに静かに横たわった未来がいた。

ミキは、未来の体に耳を付けて中の音を確認する。

「未来ちゃん、起動してないみたい。 壊れちゃってるのかな?」

「壊れているか、それともバッテリーが切れてるかのどちらかじゃないかな」

「そうだ。 取り合えず充電してみればいいんだ。確か・・・スカートの中に充電プラグが・・・」

ミキはスカートをめくると、ショーツに手をかける。

「オイオイ。 ミキ!」

「鋭ニさんは、ちょっとアッチに行ってて!!」

「コレコレっと」

ミキは未来のオヘソの下の小さな扉を開けると内臓されている充電プラグを引き出し、近くのコンセントに差し込んだ。


ビクンッ

体が一瞬小さく動き、未来の眉根に小さな皺がよった。

ふるっる

次の瞬間、未来の体が小さく震え、両足がピーンと突っ張った。


「んっ。 はぁ、はぁ」

息が乱れ、未来の頬がほんのりと赤く染まる。

ビクッ、ビクッ

「ミキこれは?」

「ああ。 お義兄さんの趣味? 充電中は、こういう風になるようにプログラミングされてるみたいなんだ。 ちょっとHだよねぇ・・」

「・・・」

鋭二は、額に手を当てただけで、ノーコメントである。


5分ほど経つと、未来の目がゆっくりと開いた。

「ミキさん・・・わたし・・・」

「あっ、気がついた。 いま充電を始めたばかりだからね。 もう少し横になっていた方がイイと思うよ」


「そうだ。 秀一・・・」

未来は、あたりを見回し秀一を探す。


「家には、居ないみたいだけど。 何かあったの?」

ミキの問いかけに未来は、再び目を瞑ると、ゆっくりと話しはじめた。


「秀一さんは、たぶん研究所の方に居るんだと思います」

「未来ちゃんをこんな状態のままにして?」

「たぶん、わたしが傍にいたら邪魔なんだと思います」

「そんな・・・いったいどうしたの?」

「秀一は、新しい研究を始めて・・・」

「兄貴が? また何か始めたんだ? そりゃ仕事以外見えなくなっちゃうよ!」

「それにしたって、LOVE、LOVEの未来ちゃんをこんな状態にしてだよ」

未来は、悲しそうな顔をしながら、話しを続ける。


「わたしだから、よけい傍にいて欲しくないんだと思います」

「そもそも、それが良く分からないな。 だって、未来ちゃんがいたら、身のまわりの世話だって、きちんとしてくれるじゃない」


「秀一は、わたしが研究所に付いて来れないように、セーブモードの時にバッテリーを・・・」

「なっ、お義兄さん酷い!」

ミキの目が険しくなる。

「わたしは、秀一が何時かそうするだろうと思って、ミキさんに手紙を出しました」

「えっ、そうなの?」

「はい・・」 

「そっか。 手紙が届いた頃は、もう未来ちゃんはバッテリーが切れていたんだね。 だから連絡が付かなかったんだ。 でもどうして?」

「わたし。 見てしまったんです・・・」

「何を見たの?」

「設計図です」

「設計図?」

「はい・・」

???

ミキは、未来が言った意味がわけがわからず、きょとんとしている。


「未来ちゃんは、その設計図が何の設計図かわかったから、ゆくゆくこう言う事になるって予想して、僕達に手紙を出したってことなんだね?」

もう鋭二には、未来に起きた事が理解できたようだ。

「はい・・」

「鋭ニさん・・どう言う事なの? だって手紙には何も・・」

「何もそれらしき事は書かれていなかった」

鋭二はミキの言葉の続きを先に言ってしまう。

「そうそう」

ミキはしかたなく相槌を入れる。


「ミキ・・・。 手紙の内容を兄貴に見られたら困るだろう」

「だってお義兄さん、そこまでするかな?」

「オイオイ。 手紙を直接読まなくったって、メモリや記録媒体を見られたら、わかっちゃうだろう」

「あっ、そうか。 メールもそうだね~」

「そう、送信記録が問題になる」

「手紙なら、POSTに入れてしまえばOKって事か。 なるほど・・」

ミキはようやく理解したようだ。


「それで、設計図って、なんの設計図だったの?」

「それは・・」

未来は言葉が続かない。

「最終兵器みたいな?」

ミキは物騒なことを言う。

「いいえ・・そういうものでは・・・」

「それじゃ、UFOみたいな新しい乗り物とか?」

「そんなんじゃないんです。 実は・・・」

「実は?」

未来は、ゆっくりと語り始めた。


次回、「未来の涙」へ続く

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