第81話 ◆秀一の研究
◆秀一の研究
秀一の研究所を目指して、アメリカン・ワゴンはひた走る。
郊外の道路も片道4車線。 やっぱりアメリカは凄い国だ。
近くで見ると研究所の建物は、意外にモダンな造りだった。
正面には、品の良いオブジェと小ぶりの噴水がある。
周りの広い芝も、手入れが行き届き、ちょっと見は博物館のようでもある。
「りっぱな建物だねぇ・・・」
ミキは口をあけて辺りをキョロキョロ見回している。
玄関を入ると、そこは広いホールになっていた。
南に面して窓というよりは壁に見まがうような、大きな1枚のすりガラスがはめ込まれ、ホールの中は凄く明るい。
ホールの奥には、光溢れる入口とは対象的なコントラストで真っ黒な受付のカウンターがあり、そこに人影が見えた。
「鋭二さん。人がいる!」
ミキが受付の人影を指差す。
「いいえ。 ミキさん。 あれは、わたしと同じロボットです」
「えっ? あれっ、ほんとだ。 良く見ると表面が金属っぽいね」
近づくと黒いカウンターには、2体の女性型ロボットが座っていた。
女性型ロボットと言っても、未来ミクのような人と見分けが付かないようなものでは無い。
胸が膨らんでいて、ウエストあたりが括クビれ、筐体が淡いシルバーピンクに塗装された、いわゆるロボットなのだ。
「いらっしゃいませ。 どのようなご用件でしょう」
更に受付に近づくと1体が声をかけてきた。
「Dr.大沢は、こちらにおられますか?」
鋭二が話しかける。
「アポイントメントは取られていますでしょうか?」
「いいえ、約束はしていません。 僕は秀一の弟です。 兄に取り次いでいただけますか?」
「承りました。 今、確認してみます」
そう言うと、もう一体のロボットが受話器を取ってプッシュボタンを押し始めた。
「それにしても、人が居ないね?」
「あぁ、おそらく兄貴以外は、ここには誰も居ないんじゃないかな」
「えぇっ!! ほんとうにぃ~?」
「大沢グループの研究所って言っても、ココは兄貴の趣味で造った建物だからね。 そういえば従業員は、みんなロボットだって聞いたよ」
「あの・・所長は研究が忙しくてお会いできないそうです」
受付ロボット嬢が、電子音で答える。
「あっ、そう」
「あっそうって、鋭二さん」
「いいんだ、予想の範囲さ。 僕に任せて」
そう言うと、鋭二はミキと未来の手をとって、もと来た玄関に向かって歩き出した。
「いったん帰るの?」
「いいや、此処まで来て引き返すわけには行かないよ。 こうするのさっ!」
鋭二は腰をかがめ、受付のロボットに見えないように反転し、その前をスルスルと通り過ぎた。
「ほらっ、ミキも未来ちゃんも、早く」
「ハ、ハイ」
こうして受付ロボットの前を3人とも無事に通過することが出来た。
「それにしても、簡単だったね~」
「そうだね。 ココにあるのは一昔前のタイプのロボットだから、センサーの感知能力が低いんだ」
「な~んだ。 そういうこと」
「そうさ、ここまで来て兄貴に会わずに帰るれるわけがないだろう」
「どうやら、こっちの廊下の奥が怪しいぞ」
鋭二は、二つある通路のうち、地下へ続く方の廊下を指差した。
「ねぇ、あそこに大きなトビラがあるよ」
「う~ん。 これだな!」
鋭二は確信したように頷く。
「でも、ノブも取っ手もないよ」
「このドアは、指紋か網膜の認証で開くようです」
未来がドアを見上げながら、呟く。
「鋭二さん、どうするの?」
「そうだなぁ・・・僕はハイテクは苦手なんだよ」
「家のと同じような仕掛けなのかな?」
「だとしたら、このドアをあけるのは不可能だね」
「ええーーーっ! それってダメじゃん!」
「わたしが何とかして見ます」
二人の会話を横で黙って聞いていた未来が、初めて声を出した。
「えっ? 未来ちゃんが?」
「ハイ」
「でも、どうやって?」
「センサーを狂わせて見ます」
未来は、ドアの横についている認証機の前に立って手をかざす。
正確には手首を認証機に重ねピタリと当てたのだ。
ウ゛ィーーー
小さな音がしたと思った途端、ドアが開き始めた。
ゴゴゴォーー
「すんごぉ~い。 ほんとに開いちゃったよ~! 未来ちゃん、どうやったの?」
「センサーはとてもデリケートな機械です」
未来が説明を始めた。
「何ていっても、ハ・イ・テ・ク・ですもんね」
すかさずミキが突っ込む。
「ミキ、嫌味かい?」
鋭二は苦笑いである。
「デリケートゆえ、他の機器からの電磁波などには脆いんです。 だから、わたしの通信用の電波を最強にして当ててみました」
未来が説明を続けた。
「未来ちゃん。 もしかしたら、盗賊系ロボットだったとか?」
「・・・」
「アハハ、じょ、冗談よ」
ゴゴゴォーー
ゆっくり開いたドアから溢れる光の中のその奥を見た3人は、唖然とした。
次回、「ロボットの死」へ続く
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