第62話 ◆対決前夜?
◆対決前夜?
「それじゃ、ミキさん 頼みましたよ」
「あっ・・・お義兄さん。 ちょっ、ちょっと・・・あ゛~行っちゃった」
はぁ~
ミキは、秀一の背中を見送りながら、ひとつ大きなため息をついた。
「どうしよう・・・」
そう。 秀一が何時か言っていたように、ミキ達のマンションに【ミク】を試験のため連れてきたのだ。
いや、正確には連れてきたのでは無く、二人してやって来たと言うのが正解だろう。
ミキは、がっくりと肩を落としリビングの方に歩きかけたが、後ろに人の気配がしない。
そっと振り返ると【ミク】と目があった。
にこっ
ロボットは、かわいらしい笑顔を返してくる。
そうか・・・ロボットだから人の気配がしないんだ。
『【ミク】は人とまったく変わらないように作られているから、もしミキさんが、そういった点で違和感を感じたら、メモをして置いて欲しいんです』と秀一に言われたのを思い出しながら、あらためて【ミク】をゆっくり眺めてみる。
この娘、ほんとにロボットなのかなぁ・・・
おもわずそう思ってしまうほど、外観は人とまったく見分けがつかない。
「でも一応メモしておこう。 ひ・と・の・け・は・い・が・し・な・いっと」
「なにか、お手伝いすることはありませんか?」
メモをしているミキをじっと見ていた【ミク】が、ミキの顔を覗き込みながら声をかけた。
「あっ・・いえっ・・あの・・その・・」
家に来て初めての会話に、ミキは少々パニクる。
「??」
【ミク】は、ミキが何かを言うのを促すように、ちょっと首を傾げた。
『うわっ、めっちゃかわいいシグサ。 それにしても・・・この娘、このメイド服でお義兄さんと一緒に歩いてきたのかなぁ』
「あのぉ?」
「は、はいぃ・・・」
「お手伝いすることは、何も無いのでしょうか?」
ミキが何も答えないため、もう一度質問を繰り返す。
「う~ん。 それじゃ、お洗濯でも手伝ってもらおうかな~」
「はい、かしこまりました。 それでは洗濯機の場所は、どちらでしょう?」
【ミク】は、ミキに仕事を言いつけられ、とても嬉しそうな表情をしている。
「あっ、え~と。 あっちのドアを開けて、まっすぐ行った突き当り」
「わかりました」
ぺこりとお辞儀をすると【ミク】は、ミキが指を指したドアに向かって歩いていった。
『漫画なんかだとこの後、洗濯物がボロボロになっちゃったりするんだよねぇ・・』
そんなことを思いながらも、することが無くなったミキは、紅茶を入れて秀一がお土産に持ってきたクッキーを食べることにした。
リモコンでテレビをONにし、ひとつめのクッキーを食べ始めた途端、玄関の鍵がカチャリと外れる音がした。
「ありゃ? 今頃誰だろ」
「ミキさま。 ただいま戻りました」
「わっ、清水さん。 どうしたの? 確か明後日までのはずじゃなかったっけ?」
そう、清水さんは、怪我をしたミキのために、鋭二がつけてくれたお世話がかりである。
1週間ほど前、清水さんのお父さんが入院したので、しばらく実家に帰っていたのだ。
「意外と綺麗にされてましたね」
辺りをぐるっと見渡しながら、ちょと感心したようにミキに言う。
「わたしだって一応主婦だもん。 清水さんに来てもらう前は、全部自分でやってたし」
「そうでしたね。 それにミキさまのお料理の腕には、わたしも絶対かないません」
「そうでしょ。 えへん」
「でも、格闘技全般は、わたしの勝ちですから!」
「何? それ?」
そうか、清水さんは負けず嫌いだった。
「さて、それでは早速お仕事を・・・」
「やだ。 少しはゆっくりしてよ! いま帰ってきたばかりじゃない」
「いいえ、わたしは動いている方が落ち着くんです」
「このクッキーおいしいのに食べないの・・・」
「はい。 ミキさまも一応アイドルなんですから、太らないようにしてください!」
「あ゛ーーもう! 帰ってきたそうそう・・・いろいろと」
「はいはい、うるさくて悪うございました」
「清水さん。 最近、婆やさんみたいだよ」
「さぁ、それじゃ洗濯でもしてしまいましょうかね」
『なんだ、無視かい!!』
「洗濯・・?」
ミキは何かをすっかり忘れていたような気がした。
カチャッ
清水さんがドアを開け、洗濯機の置いてある脱衣所の方に歩いていく。
一瞬の沈黙の後・・
「ちょっと! あなた誰? ここで何をしてるの?」
清水さんの大きな声がリビングに響いてきた。
「あっ、あ゛ーーー そうだっ、忘れてたぁーー!」
そんなに大きく無い一つの家に、二人のお手伝いさん。
やはり、これから何か事件が起きるのであろうか・・・
次回、「トップシークレット」へ続く
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