第61話 ◆メイド服なの?
◆メイド服なの?
まるで学校の体育館のような広い場所に【ミク】は居た。
ただ体育館と大きく違うところは、窓がひとつも無い事だ。
【ミク】はここ(大沢グループ総合研究所)で、あるプログラムのチェックを受けているのだった。
それは、ズバリ運動能力。
これは人型ロボットを実用化するためには、絶対に避けて通れない道なのである。
何故なら人は、病気や怪我、障害物にぶつかるなど特別な事情が無い限りは転倒したりしない。
つまり、人なら機械が修復不可能な状態からでも、なんとか姿勢を持ち直す事ができるのである。
それを実現しているのは、骨格と体中の筋肉や神経によるものだ。
天才、大沢秀一の設計したロボットは軽量であり、また強度・パワーも人間を遥かに上回る性能を持っていた。
電子頭脳用のチップは、思考用、感情用、記憶用、運動用など専用のものが組み込まれ、それらが連携してすばやい行動を実現していた。
運動用のチップも小脳にあたるもの以外に、体の要所要所にそれぞれ適したものが配置されている。
そして運動能力ソフトについては、あらゆる分野のスポーツ選手データを記録したものが、外部インターフェース端子から読み込まれ、内部記憶装置に保存されている。
「それじゃぁ、やってみようか 【ミク】」
「はいっ」
【ミク】は、部屋の隅から走り始め、タンッと床を大きく蹴り、体操選手のように連続してバク転をしながら秀一の方に近づいてくる。
もう後10mとゆうところで、【ミク】は力強くジャンプすると3m近く宙に舞い上がった。
落下が始まると同時に体をひねり3回転しながら軽やかに着地した。
「OK、予想以上に良い結果がでそうだ」
「ほんとうですか? 博士」
「【ミク】。 僕のことは博士ではなく、秀一と呼びなさいと言っただろう」
「でも・・・」
【ミク】は困ったような顔をして、秀一を見つめる。
「あぁ・・君は、ほんとうに未来ミクと同じだね。 僕が覚えている限りすべてのことをインプットしたから・・・」
「それは、博士の大切な人のことですね」
ふぅ~
大きなため息をつくと秀一は言った。
「この話しは、もうやめ! とにかく、僕のことは秀一と呼びなさい」
「わかりました」
「ちょっと、こっちに来て。 服を脱いで体を見せてくれるかな」
「はい」
【ミク】は、来ていた体操服を脱ぐと秀一の方に歩いてきた。
「じゃ、この機械の前にまっすぐ立って、じっとしてて」
「はい」
その機械はレントゲン装置のようなもので、【ミク】の体の中を透かして見ることができる。
秀一は、今の運動で【ミク】の体の内部に損傷が無いか機械を上下にスライドさせ、丹念にチェックしていく。
「よし、特に異常は無いようだ。 もう服を着てもいいよ」
「秀一・・・質問があるの。 どうして体操服を脱がせたの?」
「えっ?」
「だって、その装置は服を脱いでも脱がなくても、結果に大きな差はないんでしょ?」
「うっ・・・な、なんとなくだよ。 別に理由は無い」
「・・・そう」
【ミク】は、秀一の目をまっすぐに見詰めてくる。
「そ、そうだよ。 人間は完璧じゃないからね。 そ、それよか、エネルギーの残量は?」
「いまの運動でマイナス35。 ジェネレート分が3です」
「あと何日持つ?」
「通常活動で2日半です」
「そうか。 こっちもかなり良い数値だな」
【ミク】は秀一が用意した、別の服に着替えるとその服を見ながら秀一に言った。
「秀一・・・どうしてもこの服じゃないとダメなの・・・」
「【ミク】は、その服嫌なのかい?」
「いいえ。 でも私のデータベースを検索した結果、この洋服はメイド服と思われますが・・」
「そ、そうだけど。 何か問題があるのかな?」
「もしかして秀一は、秋葉オタクなの?」
「ハハハ・・・」
そう、大沢秀一。
この天才科学者は学生時代、仲間からメイド喫茶の帝王と呼ばれた、メイド好きオタクであった。
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【秀一のエピソード-1】
ある日、秀一が秋葉に新装オープンされたメイド喫茶に入ると、そこに青いコンタクトをした、かわいいメイドさんがいた。
「お帰りなさい、ご主人様」
その娘をひと目見たその瞬間、秀一は恋に落ちた。
次の日から毎日その店に通い、ついに告白。 交際が始まった。
その娘は、「未来ミク」という名前だった。
しかし、楽しい日々も束の間、ある日「未来ミク」は、店で突然倒れてしまう。
急性白血病であった。 症状は、かなり深刻なものだった。
秀一は、父親に頼み大沢病院の医師たちを総動員して、治療してもらったが、とうとう「未来」は帰らぬ人となってしまった。
しばらくしてアメリカに留学した秀一は、ロボット工学の研究に没頭し、ついに人型ロボットの【ミク】を完成させたのであった。
むろん、その容姿や声は「未来ミク」とそっくりに作られていた。
【ミク】は、普通のロボットとは違い、信号伝達のための配線が人間の神経網のようになっている。 各装置間の必要情報は超高速でやり取りされ、どこかの配線が切れても、網目の中を迂回して情報が伝達されるのだ。
各動力装置(主に関節など)には、マイクロチップが付けられていて、その情報を組み立て直し損失があれば再要求するし、問題がなければ実行後、情報は破棄される。
この仕組みのお陰で【ミク】の故障率は驚くほど低くなったのだ。
さて、美少女クローンから人型美少女ロボットへとヒロインが移りつつあり、ミキやエミの出番も少なくなってきますが、引き続き【未来編】をお楽しみに。
次回、「対決前夜?」へ続く
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