第63話 ◆トップシークレット

◆トップシークレット


「ちょっと! あなた誰? ここで何をしてるの?」

「わたしは【ミク】です。 ミキさんから洗濯を頼まれました」

ミクは、淡々と答える。

「なっ・・・なんですって」

そう言うなり清水さんは、くるりとユーターンし、リビングに向かって駆け出した。


バンッ

「ミキさま! アレはいったいどういう事なんですか?」

ドアを勢い良く開け、【ミク】の方を、ゆび指しながら、清水さんはすごい形相で迫る。

「あの・・【ミク】ちゃんは、しばらくうちで預かる事に・・・」

清水さんの迫力に押されてミキは、タジタジである。


「と言う事は、わたしはクビなんですね・・・ひどいデス・・・」

清水さんの目に涙がみるみる溜まって行く。

「あわわ。 違っ・・」 ミキは元男だけに、女の涙には弱い。

「いいんです、いいんです。 わたしが、ちょっとお暇をいただいたのがいけなかったんです」

「ちょっと、違うんだってば。 落ち着いて話しを聞いてよ」

グスッ グスッ ち~ん。


「もう、泣かないでってば。 誤解なんだから」

ティッシュの箱を差し出しながら、ミキが困った顔で説明を始めた。

「誤解って、どういう事ですか?」

ソファに腰をかけている清水さんは、上目遣いでミキを見上げる。

「あの娘はね。 大沢グループで研究開発中のロボットなの」

「ロボット? あの娘がですか?」

清水さんは、とても信じられないという目で、【ミク】の方を振り返る。


「で、でも、そのロボットが何でここに?」

「それが、その研究をしているのが、お義兄さんなのよ」

「お義兄さん・・・ そう言えば鋭二さまは、ご次男でした」

「そうでしょ。 実はわたしも、秀一お義兄さんに会ったのは、ついこの間で2度目なの」

「でも・・どうして・・」


「それなんだけど。 うちで預かるのは、試験のためなんですって。 一般の家庭で試験をして事故を起こしたら、今後の開発に大きな影響が出るでしょ。 だから、身内で預かるしか無いの。 それにね、良く知らないんだけど、その娘は本当はメイド用ロボットじゃ無いみたい」

「そうなんですか・・・それじゃ、わたしはクビでは無いんですね」

「あたりまえじゃない」

「よかったです。 でも・・これでは、わたしの仕事が無くなってしまいますよ」

「そうね。 わたしもお手伝いさんが二人もいたら、する事がなくてボケちゃいそう」

そんな話しをしていると、【ミク】がこっちにやって来た。


「ミキさん。 お洗濯が終わりました」

「ちょっと、【ミク】さん。 ミキさんじゃなくて、ミキさまよ!」

「ミキさま・・?」

「そうよ。 だってミキさまは、わたし達のご主人さまでしょ?」

「ご主人さま?」

「そうよ。 雇われている者は、雇い主の方をご主人さまって呼ぶのは常識よ」

「ただいま、データベースを検索、更新中デス」

「何それ?」

「認識しました。 ミキさんではなく、ミキさまとお呼びいたします」

「まぁ・・そうよ。 それでいいのよ。 結構素直じゃないの」

「あなたのお名前は?」

ミクが尋ねる。

「わたしは、しみず。 清水アイよ。 これからは、アイさまとお呼びなさい!」

「ちょっと、清水さん!」

ミキは清水さんの知ってはいけないところを見てしまったような気がした。


「でも清水さんは、わたしの雇い主ではありません」

「まっ、ロボットの癖に、賢いじゃない」

「わたしの知識データベースと検索スピードは現在世界一です。 また演算速度もスーパーコンピュータの100倍の能力があります」

「うわぁ・・【ミク】ちゃんって、すごいんだねぇ」

ミキが感心して声をあげる。


「・・・」

しばらく難しい顔をしていた、清水さんがミキに向かって。

「ミキさま。 すごいけど・・・大変!」

「清水さん。 どうしたの? 何が大変なのよ?」

「だって、今のが本当なら、大沢グループのトップ・シークレットじゃないですか」

「?(゜_。)?(。_゜)? 」

ミキは言われていることが理解できない。

「だから産業スパイとか、国家レベルの極秘事項ですよ!!」

「ほぇ?」


************************************

そうか! 最先端技術の塊の【ミク】。

ミキは、もしかしたら大変なものを預かってしまったんじゃないのか?


次回、「充電してるの」へ続く

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