第58話 ◆最強の女 清水(servant)参上!

◆最強の女 清水(servant)参上!


「うるさい! さっさと死ね!」

どうやら右腕は、さっき蹴りを受け止めた時にヒビが入ったか最悪は骨折しているのだろう。 猛烈な激痛が走る。 もう次の蹴りは止められそうにない。


「それにしても・・・ この娘は、よく似てるけどエミじゃない。 だとしたら・・・」

ミキは目の前にいるのがエミではないことに、ようやく気が付いたようだ。


「どう? 自分に殺される気分は。 アナタはあと5分以内に死ぬのよ!」

「ど・・どうして? あなたは、いったい誰なの?」

「そんなのわたしにも、わからないわ!」

「なんですって?」

「目覚めたときから、アナタを殺すように教育されていた。 そのためのカンフーの技もね」

「ちょっと待って。 落ち着いて冷静に考え直してみて」

「それは無駄というものよ」

「どうして?」

「わたしはねっ、アナタへの激しい憎しみもインプットされているの。 だから、自分の顔が鏡に映っただけでムカつくのよ! それもこれも、みんなアナタのせいよ!」

「そんな・・・」



「さあ、モタモタたしていると5分が経ってしまうわ。 本気で行くわよ!」

ビュン

2号は、勢いをつけ、高くジャンプすると一瞬にしてミキの目の前に着地した。

「わわわ・・・ちょっ、タンマだってば」

ミキは慌てて、部屋の出口に向かって駆け出す。


「逃がさない!」

2号は、とても同じDNAとは思えない運動能力でミキを追い越し、出口の前に立ち塞がる。

「お願い! ミカちゃんは関係ないんだから、逃がしてあげて!」

「それはできないわ。 アナタを倒したあとで、あの娘もアナタのもとに送ってあげる」

「ど、どうして、そんな酷いことができるの?」

ミキは、自分と瓜二つの姿をしている2号を睨みながら叫ぶ。

バシッ

2号はミキの顔面に、目にも止まらぬ速さで鋭いパンチを放つ。


あぐっ

ミキの頭部は、まるで交通事故の鞭打ちシミュレーション用に撮影された映像の中で、ダミー人形がスローモーションで動くかのように、首から上だけが後ろにのけぞっていく。

ボタ ボタ ボタッ

ほんの数秒の間を置いて、ミキの鼻から血が噴出す。

「ふふっ。 酷い顔。 ぶざまね。 余計なことをしゃべらなければ、顔なんか殴られないで済んだのに」


出口を塞がれたミキは、じりじりと後ずさりしながら2号との間合いを取ろうとするが、あの手術台に退路を阻まれてしまった。

「もう、ダメか。 ミカちゃん。 助けられなくてゴメンね。 せめてココに竹刀でもあれば・・・」

ミキは覚悟を決めたのか、静かに目を閉じる。


「あら? もう諦めたの。 つまらないけど、もう5分経ってしまうしね。 そのままじっとしていれば、次の蹴りでポッキリと首の骨を折ってあげるわ」

2号がまさに蹴りを繰り出そうと軸足に体重を移動した瞬間、背後から突然大きな声がした。


「待ちなさい!」

「なんなのアナタ? わたしは忙しいの。 邪魔をしないでくれる!」

2号はゆっくりと声がした方へ体の向きを変えた。

「わたしは、”清水 アイ”。 ミキ様の身のまわりのお世話を依頼された者よ!」

「そう・・・ アナタもミキの関係者なの。 それじゃ一緒にあの世に送ってあげるわ」

2号は一時的に、ターゲットを”清水”に移す。

ブンッ

2号の鋭い回し蹴りが清水にヒットしたと思ったが、”アイ”はそれを一瞬の間合いでかわす。

ハッ


すぐさま清水の反撃が開始される。

すばやく繰り出した正拳の突きが、2号のみぞおちに深く入る。

カハッ


2号の体は、元々鍛えられていたわけではないので、攻撃を受けたときは極端にもろい。

苦しそうに、みぞおちに手を当て、よろよろと後退する。

次の瞬間、清水は2号の懐に飛び込み、目にも止まらぬ速さで下から顎へ一撃を食らわす。

いわゆる顎へのアッパーカットだ。

2号の体が、やや後ろ上空へ舞うように落ちて行く。

ドサッ

それは本当に10カウントを採りたくなるような、見事なKOだった。


「あなたは誰?」

まだ止まらない鼻血を拭きながら、ミキが訊ねる。

「申し遅れました。 今日から鋭ニさまに、ミキさまの身のまわりのお世話を申し付かった”清水 アイ”です。 よろしくお願いいたします」

「鋭ニさんに?」

「先ほどミキさまが、いったんご帰宅されたとき、わたくしはキッチンにおりましたので、ご挨拶が遅くなってしまいました」

「でも、どうしてココが?」

「それはですねー。 ミキさまの財布にお守りがついておりますよね。 実はそれにGPSが入っています」

「えっ? ええーーーーっ! そんなの知らなかったぁ」

「鋭ニさまが、ミキさまは何をするか、わからないところがあるのでと仕掛けておいたものです」

「そうなんだー」

ミキは、ちょっぴり苦笑いである。


「でも、バッテリーは1週間も持たないそうです。 だから鋭ニさまがこまめに交換なさってたようですよ。 これも愛の力なのでしょうね」


「あっ、そうだ。 ミカちゃん」

ミキは、あわてて檻へ駆け寄り、ミカの無事を確認する。

「よかった。 怪我はしていないようだよ」

「それより、ミキさま。 腕は大丈夫ですか?」

「・・・あまり大丈夫じゃないみたい」

清水さんに言われてから急に泣き顔になって振り返ったミキの右腕は、骨折特有の腫れが現れていた。


この後、大沢家の使用人が大勢来てミカを救出し、ミキと一緒に病院へ搬送してくれた。

ミキが連れていかれた病院は、もちろん鋭ニが入院していた、あの病院である。

「こんなに、短い間に2度もココに来るなんて思ってもみなかったなぁ・・・」


その後2号は、警察沙汰にならないように、大沢グループの研究所に引き取られ、更生プログラムに従って、再教育中なのだそうだ。

もしかしたら、近いうちにティンカーベルが3人になる時がくるかも知れない。

・・・

・・

さて、病院から戻ってきて、お仕事もしばらくお休みしているミキであるが・・・

「清水さん♪」

「はい。 ミキさま。 なんでしょう?」

「一緒にお風呂に入りましょう♪」

「お風呂ですか?」

「だって、片方の手じゃ上手く体が洗えないんだもん」

「わかりました。 お世話させていただきます」

「やった!」

「んっ?」

「あ・・いや。 体洗ってもらえるから助かるなぁって思って・・・」

ハハ~ン。 ミキのまだ微かに残っている男の本能。

ひょっとして、佐々木詩織さんの時と同じなのか?


次回、「清水さん 大好き」へ続く


蛇足

みぞおち:「水落ち(みずおち)」が変化した語で、飲んだ水が落ちる所という意味があるらしい




うっかり1話分、掲載を漏らしてしまってましたので、下に追加しました。


◆清水さん 大好き


「清水さん♪」

「はい。 ミキさま。 なんでしょう?」

「一緒にお風呂に入りましょう♪」

「お風呂ですか?」

「だって、片方の手じゃ上手く体が洗えないんだもん」

ミキは、美人の清水さんに甘える。

「わかりました」

「やった!」

「んっ?」

清水さんが、ミキの妙なテンションに不思議そうな顔をする。

当然、ミキが元男だとは知らない。


「あ・・いや。 体洗ってもらえるから助かるなぁって思って・・・」

「それじゃ、今から準備いたします」

「お・・お願いします」

ドキ ドキ ドキ


「はぁ~。 どうしてドキドキするんだろう。 鋭ニさんと一緒に入る時よりドキドキするぅ」

「ミキさま~。 すみません。 タオルはこれでよろしいでしょうか?」

「あっ、ハイ。 それでだいじょうぶです」

「下着は、ご自分でお選びになってください。 ココに出していただければバスルームまで、わたくしがもって参りますので」

「ハ、ハイ。 わかりましたぁ」


もぁ~ん

ちょっと、ちょっと。 ミキ! ひょっとしてアンタ清水さんの裸を想像してるのかい!

こういうところが、まだ、たま~に男の子がでるミキなのだ。


「ミキさま・・ミキさま」

「うわっ。 ハ、ハイィーーー」

妄想途中で現実に引き戻され、少々慌てる。


「それでは、お召し物をお脱ぎになってください。 腕の部分は、わたくしがお手伝いいたします」

「わたしから脱ぐの?」

「・・・・?」

「そ・・それじゃ」

ミキはブラウスのボタンを外そうとするが、左手じゃ上手く外すことができない。

清水さんは、モタモタと服を脱ぎ始めたミキを、しばらくぼーと眺めていたが、急にハッとすると慌ててそばにやってきた。

「申し訳ございません。 利き腕を骨折してらしたら、ほとんど無理でしたよね。 わたくしが全てお手伝いいたします」

「す・・すべてですか・・・」


清水さんは、テキパキとボタンを外して、ブラウスの袖を左肩から脱がしていく。

今のギブスって、昔と違ってハイテク素材で軽くて薄いため、洋服も何とか着れてしまうのだ。

「ハイ。 こちらも抜いてください」

ギブスの右腕も手伝ってもらうと・・・

スルリッ

ファサッ


清水さん次は、スカートのホックを外しながら、ミキのウエストあたりをじっと見ている。

「ミキさまのお肌って真っ白で透き通っていて、うらやましいです」

「んっ・・」

ミキは、なんだか体がゾクゾクしているようだ。 大丈夫なんだろうか?


さてさて、ミキは、あっと言う間に、ブラとショーツだけになってしまった。

清水さん、今度は後ろに回って、ブラのホックに手をかける。

「あっ・・・」

ミキは、なんだか小さく声をあげてしまい、顔を真っ赤にしている。


プッチッ

Fカップを支えていた、ヒモの張力の均衡が破れて、胸の重さが直接肩に伝わる。

ミキはブラが体を離れた瞬間、思わず両手を前に回し、クロスさせた手のひらで胸を隠す。

女同士なのに・・・


ドキ ドキ ドキ ドキ

鋭ニさんに脱がされるより、ドキドキするのは何故だろ~?

ショーツの両側に清水さんの手がかかったとき、ミキは恥ずかしさに体をひねる。

「あっ」

両手がかかっていたため、清水さんも思わず尻餅をつく。


「ご・・ごめんなさい。 やっぱり、恥ずかしくって・・・ 下は自分で脱ぎますから」

「遠慮されなくってもいいですよ。 わたくしは、ミキさまのお世話が仕事ですから」

はぅー


スルスルスル

ショーツは太ももを通り、更にふくらはぎを通って、脱衣室の床に無事着地する。

「ハイ。 お待たせしました」

ミキは、もう超はずかしくて、バスルームへダッシュする。

「あ゛ーーー ヤバイ、ヤバイ。 あと10秒遅かったら、下着が濡れちゃったかも~」

ミキは人妻ですからね~。 感じやすく濡れやすい?


シャーッ

シャワーのコックをひねって、証拠(なんの?)隠滅中!

熱いシャワーを浴びながら、ふっとバスルームの不透明なドア越しに、服を脱ぎ始めた清水さんが映り、思わず目が釘付けになる。


ゴクッ

やれやれ、ミキちゃん・・ 人妻が若い娘の脱衣姿を見て、思わず唾を飲むのはやめましょうね!


キィ~

バスルームのドアがゆっくり開いて、清水さんの綺麗な右足がスッと入ってきた。

ドキ ドキ ドキ

も、もう心臓が爆発しそう!!


「清水さんとバスタイム♪」は都合で割愛し、次からは、いよいよ新シリーズ 美少女ロボット編の開始です。


次回、「謎の美少女」へ続く。

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