第56話 ◆正夢

◆正夢


「さぁ、お姉さんと一緒に、いいところにいきましょう」

「は・・い」

ミカちゃん、薬効きすぎじゃん!

「ところで、ミカちゃん」

「はい」

「あなた、お金持ってる?」

「はい」

「そう。 じゃあ、お姉さんが預かっておいてあげるわ」

「はい」

ちょと、お金もあげちゃうのぉーーーー!


2号は、ミカから財布を受け取ると中身を確認する。

「1万3千円・・・まぁまぁね。 ミカちゃん、お姉さんが戻ってくるまでココで待っててね」

「はい」

そういうと2号は、すぐ傍にあったコンビニに入っていった。

・・・

・・

しばらくすると、2号が大きな袋を2つ提げてコンビニから出てきた。

「おまたせ。 じゃあ、これから一緒にいいところにいきましょー」

「はい」


2号は、ミカとタクシーに乗り込んだが、例の閉鎖された研究所へは直接行かず、100mくらい手前で降りた。

2号は意外と用心深い性格なようである。 ここは、ミキやエミとちょっと違うところかも知れない。


「こっちよ!」

「はい」

そしてミカが連れてこられたのは、例のあの部屋。

「ちょっと狭いけど、ココに入っててね」

「はい」

ココって・・・ミキが前に教授に閉じ込められてた檻ではないか!

ガチャン

カチッ

ああっ、 鍵をかけられてしまった。

セーラー服の女子高生を監禁しちゃ、犯罪でしょ!!


「さて、悪いけどわたしは、お食事にさせてもらうわ」

2号は、さっき買ってきた袋から、お弁当や飲み物を出して、次々に食べて行く。

すごい食欲である。 ほぼ30分ほどで、全てを食べきってしまった。

「ふぅ~。 やっと落ち着いたわ」

「ミカちゃん。 アナタには、悪いけどミキを誘き寄せる囮になってもらうわ。 そういうわけで、わたしは出かけてくるから、これを置いておくわね。 薬はあと20分くらいできれるから」

そういうと2号は、パンと牛乳パックを檻から手の届く所に置いて、部屋を出て行った。


2号が再び向かったのは、ミキのマンションだった。

途中、カギのついていない自転車を盗んで時間短縮である。 それにしても自転車のこぎかたはミキそっくり!

マンションに着くと真っ先に大沢と書かれたメールボックスに一通の封筒を入れる。

「うふふ。 これでミキは、もう最後よ!」

・・・

・・

さて、いまは夜の10時。 そろそろミキが帰ってくる時間である。

ブロロロー

美奈子マネージャーのBMWがマンションのロータリーに停まる。

「お疲れ様でした~」

「また明日よろしくお願いします。 おやすみなさい」

クルマから降りるとミキはメールボックスをチェックする。 エレベータに乗る前には必ずメールボックスによるのが日課なのだ。


カチャ

夕刊とダイレクトメールやピザ屋のチラシなどに混じって、何も書かれていない封筒が一通入っている。

「あれ? 何だ? この封筒」

カサカサ

封筒の中に入っていた便箋を広げてみると・・・


「えっ? 何これ? ミカは預かった。 無事に帰して欲しければ、ひとりで指定した場所に来い! 警察に知らせたら、ミカの命はない・・・って、どっ・・どうしよう」

ミキは、急いで10階の自分の部屋へ向かう。

「動きやすい服に着替えて、もしもの時の連絡先を書いてから出かけよう。  ミカちゃん、待ってて! 直ぐに助けてあげるからね」


カチャッ

ダダダッ

玄関の鍵を開けると、クローゼットに直行する。

「とりあえず、これとこれでいいか」

ジーンズの上下に着替え、念のため防犯ブザーをベルトに付けて、引き出しからクルマのキーを取り出す。

ダダダッ

ガチャン

ミキは慌しく出かけて行く。


そのころキッチンでは、清水さんが明日の朝食の支度に取り掛かろうとしていたが・・・

「ミキさま。 お戻りですか?・・・ あらっ・・確か今帰って・・・??」

ミキは、しばらく清水さんが住み込みでお手伝いをしてくれるなんて聞いていないので、家には誰もいないと思っていたのだ。

なにしろ今はもう、ミカの事で頭の中がいっぱいだったのだ。


エレベータで地下の駐車場まで、一気に降りる。

大沢家のクルマは、駐車場のエレベータを降りた直ぐのところに2台(レガシーとBMW)が停まっている。


バタンッ

キュルルル ブロロローー

ミキは、レガシーターボをぶっ飛ばして行く。 もちろんアクセル全開である。

キキキーーー

「あの場所は確か、〇〇公園駅前から少しのところだったっけ。 やっぱり高嶋教授なのかな? でもどうして、刑務所から出てこれたんだろう」

今時点でミキは、まだクローン2号のことを知らない。 何が起こるか心配である。


一方、こちらは、ミカ。 薬の効果がきれて檻の中で正気に戻ったが・・・

「あ゛~ん。 ここから、だしてくださ~い! ミキさ~ん。 助けてーーー!」

ガチャッ

「た、たすけてぇ・・・」

突然部屋の入口のドアが開いたので、ミカの声が思わず小さくなる。

ギィ~

ちょうど出かけていた、2号が戻ってきたようである。

カッ カッ カッ

ミカが閉じ込められている檻の前に、女王様のようにハイヒールの音を響かせながら2号がやってきた。


ミカは、檻の一番奥まで後ずさり、震えている。

「もうすぐミキがココにやってくるわ」

2号が単調な口調で、ミカに話し始める。

「あ・・あなたは、ミキさんのクローンさんですよね」

「だったら何なの?」

2号は、キッとした顔でミカを睨む。


「ミ、ミキさんは、とってもいい人です! だから、絶対に暴力反対です!」

「大丈夫よ。 痛いのは最初の5分だけ」

「それは、ど・・どういうことですか?」

ミカが恐る恐る2号に聞く。

「頭が悪いのね。 つまり、5分後には死んでいるって事!」

「ええっーーーー!!」


次回、「絶体絶命」へ続く

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